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(5)私の夫は浮気をしているらしい−5
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翌日、私は夫の親友とやらが選んだのだという、センスの良いアクセサリーはつけなかった。代わりに、夫が夫なりに一生懸命選んでくれたアクセサリーをたっぷりとつけた状態で、夜会に出たのである。はっきり言わせてもらうが、夫の選んだアクセサリーはダサい。けれど、私は極上の美女である。その私が似合うように使えば、それなりに見栄えのする使い方ができるのだ。一応弁明しておくが、私は自信過剰ではない。前世の記憶と審美眼から見ても、現在の私は本当に美しいのである。
夫の親友は、確かに夫から聞いていた通りの色男だった。一体どういうところで繋がりを得たのかと不思議だったが、私との婚約が決まったところで向こうから声をかけられたらしい。私の実家との繋がりを求めてのことかと警戒していたが、非常に気のいい人間だったらしく、すっかり仲良くなってしまったのだそうだ。
旦那さま、騙されておりますわよ。本当に気のいい人間であれば、政略結婚した新妻の誤解を招くようなアプローチを親友のあなたに教えることは致しませんわよ。ツッコミたくなるのを必死でこらえながら、私は夫から情報を引き出した。
なぜかわからないが、夫の親友を見るとひどく腹が立った。こちらの世界にありがちな女性蔑視発言や、セクハラ親父発言などなにひとつないにもかかわらず、非常に気に食わない。たぶん、私は夫の親友が細胞レベルで嫌いなのだと思う。理由? あの男が私を排除しようとしている。それだけで十分なのではないだろうか。
「旦那さま、ご挨拶に行くのでしょう?」
「ああ。だが、これで本当にこのアクセサリーで良かったのだろうか。僕の親友が選んだアクセサリーの方が絶対にセンスが良かったはずだ」
ええい、ちまちまちまちまといつまで経ってもうじうじして!
まあ、その陰気なところが可愛いのだけれど!
「もう、ダーリンったらそんなことばっかりおっしゃって、可愛すぎますわ♡ 愛しい旦那さまが選んでくださったものが一番嬉しいに決まっているでしょう?」
とはいえ、いずれそのトンチキなセンスは矯正させてもらおうかと思っておりますけれど。
「わ、わ、急にくっついたりしたら、胸が」
「やーん、ダーリンったら。ベッドの中ではもっとすごいものを見ているでしょう。でも、そんな風にお顔が赤くなるところがとっても可愛くて、大好きですわ」
うろたえまくる旦那さまが可愛らしくて、私はご機嫌でくっついて回る。そう、私はべたべたに構い過ぎて、たいていの動物に嫌われる女。小さく震える旦那さまのことだって、可愛らしくて大好きだ。だから相手が、ちゃんと自分の身の程をわきまえているのであれば、妾を持つことだって許してやろうと思っていた。前世のときみたいに、こそこそ浮気されてあげく殺されるなんてたまったもんじゃないから。
そこへ顔を引きつらせた夫の親友がやってきた。なんだ、自分はもっとすごいことを普段からそこらの女としているんだろうが。なんでそんなに慌てているんだか。やはり、この男、私の夫を狙っているということで間違いないらしい。色男風の行動は、夫の警戒を解くための作戦か。
「き、君たちはいつの間にそれほどまでに仲良くなったのかい。参考までに、わたしにも教えてくれないか」
「うふふふ、新婚ですもの。身体の境目がなくなりそうなほどに一緒に過ごしていれば、仲良くなるのも当然ですわ」
「そ、そ、そんな。君は、わ、わたしは何のために……」
夫の親友が真っ青な顔で、崩れ落ちる。気の良い私の夫は、私の発言に顔を赤くしたり、親友の様子に顔を青くしたりしながら、右往左往している。
おほほほほほほ、悔しいでしょう?
親友という隠れ蓑で押し殺した恋心。それをぽっと出の政略結婚の妻に盗られたあげく、目の前でいちゃラブされたなら、髪の毛が抜け落ちてしまうほどに歯がゆいのではなくて?
私もひとを愛する気持ちを知っています。愛している相手に愛されない辛さも知っています。だからこそ、想いは正々堂々と告げていただきたかったのです。夫が別に女を囲っているかのように見せかけるような卑怯な真似をする奴になんか、私は負けません。それでも旦那さまが欲しければかかっていらっしゃい。愛人だろうが、妾だろうが全力でお相手してあげますわ。
***
その頃、屋敷の中では侍女と家令が頭を痛めていた。
「正直に申し上げまして、旦那さまのご友人とやらは、旦那さまではなく、お嬢さまのことをお好きなのではありませんか?」
「そうでしょうね。どうして奥さまは、ご自分ではなく旦那さまが狙われていると思ったのでしょう」
「お嬢さまは、以前にとても悲しい経験をなさっておりますので。今だって、旦那さまへのお気持ちを恋だとは認識しておられません。旦那さまからのお気持ちも、愛だとは思ってもおられないでしょう」
「あれほどまでにあからさまなのに?」
「ええ。旦那さまにはこれまで以上に頑張っていただかなくては。とりあえず、お嬢さまに押し倒されるのではなく、お嬢さまを押し倒す気概が欲しいところでございます」
「申し訳ありません」
「これは旦那さまの責任ですから。それから、旦那さまの親友がお嬢さまを諦めてくださるとは思えません。今後の接近には気をつけなければ」
「確かに。彼は厄介そうな相手ですからね」
そんなふたりの会話なんて、これっぽっちも知りはしない私は、夫の親友対策のためさらに濃厚ないちゃラブ新婚会話集を繰り出すのに余念がないのであった。
夫の親友は、確かに夫から聞いていた通りの色男だった。一体どういうところで繋がりを得たのかと不思議だったが、私との婚約が決まったところで向こうから声をかけられたらしい。私の実家との繋がりを求めてのことかと警戒していたが、非常に気のいい人間だったらしく、すっかり仲良くなってしまったのだそうだ。
旦那さま、騙されておりますわよ。本当に気のいい人間であれば、政略結婚した新妻の誤解を招くようなアプローチを親友のあなたに教えることは致しませんわよ。ツッコミたくなるのを必死でこらえながら、私は夫から情報を引き出した。
なぜかわからないが、夫の親友を見るとひどく腹が立った。こちらの世界にありがちな女性蔑視発言や、セクハラ親父発言などなにひとつないにもかかわらず、非常に気に食わない。たぶん、私は夫の親友が細胞レベルで嫌いなのだと思う。理由? あの男が私を排除しようとしている。それだけで十分なのではないだろうか。
「旦那さま、ご挨拶に行くのでしょう?」
「ああ。だが、これで本当にこのアクセサリーで良かったのだろうか。僕の親友が選んだアクセサリーの方が絶対にセンスが良かったはずだ」
ええい、ちまちまちまちまといつまで経ってもうじうじして!
まあ、その陰気なところが可愛いのだけれど!
「もう、ダーリンったらそんなことばっかりおっしゃって、可愛すぎますわ♡ 愛しい旦那さまが選んでくださったものが一番嬉しいに決まっているでしょう?」
とはいえ、いずれそのトンチキなセンスは矯正させてもらおうかと思っておりますけれど。
「わ、わ、急にくっついたりしたら、胸が」
「やーん、ダーリンったら。ベッドの中ではもっとすごいものを見ているでしょう。でも、そんな風にお顔が赤くなるところがとっても可愛くて、大好きですわ」
うろたえまくる旦那さまが可愛らしくて、私はご機嫌でくっついて回る。そう、私はべたべたに構い過ぎて、たいていの動物に嫌われる女。小さく震える旦那さまのことだって、可愛らしくて大好きだ。だから相手が、ちゃんと自分の身の程をわきまえているのであれば、妾を持つことだって許してやろうと思っていた。前世のときみたいに、こそこそ浮気されてあげく殺されるなんてたまったもんじゃないから。
そこへ顔を引きつらせた夫の親友がやってきた。なんだ、自分はもっとすごいことを普段からそこらの女としているんだろうが。なんでそんなに慌てているんだか。やはり、この男、私の夫を狙っているということで間違いないらしい。色男風の行動は、夫の警戒を解くための作戦か。
「き、君たちはいつの間にそれほどまでに仲良くなったのかい。参考までに、わたしにも教えてくれないか」
「うふふふ、新婚ですもの。身体の境目がなくなりそうなほどに一緒に過ごしていれば、仲良くなるのも当然ですわ」
「そ、そ、そんな。君は、わ、わたしは何のために……」
夫の親友が真っ青な顔で、崩れ落ちる。気の良い私の夫は、私の発言に顔を赤くしたり、親友の様子に顔を青くしたりしながら、右往左往している。
おほほほほほほ、悔しいでしょう?
親友という隠れ蓑で押し殺した恋心。それをぽっと出の政略結婚の妻に盗られたあげく、目の前でいちゃラブされたなら、髪の毛が抜け落ちてしまうほどに歯がゆいのではなくて?
私もひとを愛する気持ちを知っています。愛している相手に愛されない辛さも知っています。だからこそ、想いは正々堂々と告げていただきたかったのです。夫が別に女を囲っているかのように見せかけるような卑怯な真似をする奴になんか、私は負けません。それでも旦那さまが欲しければかかっていらっしゃい。愛人だろうが、妾だろうが全力でお相手してあげますわ。
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その頃、屋敷の中では侍女と家令が頭を痛めていた。
「正直に申し上げまして、旦那さまのご友人とやらは、旦那さまではなく、お嬢さまのことをお好きなのではありませんか?」
「そうでしょうね。どうして奥さまは、ご自分ではなく旦那さまが狙われていると思ったのでしょう」
「お嬢さまは、以前にとても悲しい経験をなさっておりますので。今だって、旦那さまへのお気持ちを恋だとは認識しておられません。旦那さまからのお気持ちも、愛だとは思ってもおられないでしょう」
「あれほどまでにあからさまなのに?」
「ええ。旦那さまにはこれまで以上に頑張っていただかなくては。とりあえず、お嬢さまに押し倒されるのではなく、お嬢さまを押し倒す気概が欲しいところでございます」
「申し訳ありません」
「これは旦那さまの責任ですから。それから、旦那さまの親友がお嬢さまを諦めてくださるとは思えません。今後の接近には気をつけなければ」
「確かに。彼は厄介そうな相手ですからね」
そんなふたりの会話なんて、これっぽっちも知りはしない私は、夫の親友対策のためさらに濃厚ないちゃラブ新婚会話集を繰り出すのに余念がないのであった。
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