旦那さまが欲しければかかっていらっしゃい。愛人だろうが、妾だろうが全力でお相手してあげますわ。

石河 翠

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(18)夫の親友は今も私が好きらしい-1

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 先触れを出したとはいえ、ほとんど突然押しかけたと言ってもいい私たちのことを、ゴkbリー卿は笑顔で出迎えてくれた。今日も今日とて腹が立つような色男である。王都中の女性を虜にするであろうその美貌に陰りが見えないということから考えて、どうやら夫の処女は守られたらしい。

 それというのもゴkbリー卿対策として夫の下着には魔力を練り込んだ糸で刺繍を施しているのだ。縫い込んでいるのはもちろん、夫を守るための術式である。ゴkbリー卿が夫の下着を脱がそうとしたならば、夫に結界を施した上で相手を爆発させる仕組みとなっていた。

 これでゴkbリー卿の頭がドリフの爆発コント後のようなアフロになっていれば、いろいろと詳細を伺う必要があったが、ありがたいことに最悪の事態は免れたと見える。まあそもそも私から夫を奪おうというのであれば、私の施した術式くらい、簡単に解除または上書きできる程度の実力を持っておいてほしいものだが。

「突然の訪問となってしまい、大変申し訳ございません。ゴkbリー卿、こちらに夫が来ているはずです。申し訳ありませんが、連れてきていただけるでしょうか。私たち、まだ温泉デートの途中なのです」
「実はその彼から、あなたのことをよろしく頼むと言われたところでしてね。ほかならぬ親友の頼みを、わたしは引き受けたいと思っているんですよ」
「まあ、ゴkbリー卿は大変優しくていらっしゃいますのね。ですが、心配はご無用。私たち、少しだけすれ違っただけですの。離婚するつもりもありませんし、どうぞ私たち夫婦のことは見守ってくださいませ」
「あなたは、彼のことを一度も名前で呼ぶことはなかったというのに? それなのに、大切な相手だと言い張るのかい?」

 敬語を使うのをやめたのは、私への宣戦布告か? にこりと微笑む優男の顔に拳をめり込ませてやりたい衝動を抑えながら、私は穏やかに微笑みながらうなずいた。


 ***


「名前を呼ばなかったのは、『旦那さま』という呼び方の響きが可愛いからです。それ以外に他意などございませんわ」

 夫のことが大切だからこそ、名前を呼べなかったことは事実だ。だが「旦那さま」という言葉の響きに、どことなくエロスを感じて嬉々として呼んでいたこともまた事実なのである。何といっても、「旦那さま♡」と呼びかけると目に見えて夫がうろたえるのがたまらなく可愛いのだ。

 もちろん、「旦那さま」以外の呼び方のポテンシャルの高さを否定するつもりはない。なんだったら、必殺新妻アタック「あなた、おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」もいつか試してみなければならないところだ。うん、「あなた」呼びも「ダーリン」呼びもそれはそれでえっちで大変よろしい。

「でも、彼のことを名前で呼んであげないのは事実だ。わたしのことは、名前で呼べるのに。それは、あなたの気持ちがわたしにあるという証明になるのでは?」
「ご冗談を。大切な旦那さまの名前ですから、貴重な飴玉のように口の中で転がしていたいのですわ」

 何を言っているのか、この男は。夫を奪うために、私に不貞やら心変わり疑惑を植え付けたいのか。まあ確かに、この世界では疑いをかけられた女性の立場は弱いので有効な手立てではあるが。

 まったく、夫の親友の名前を呼んでいるつもりなどないというのに。害虫呼ばわりしているだけなのだから、明後日の方向の勘違いはしないでいただきたいところだ。大切だからこそ、名前を呼べなかった。けれど夫が名前で呼んでほしいというのなら、いくらでも呼んであげようではないか。

 だがゴkbリー卿はしつこい。匿っているはずの夫を呼び出すどころか、なぜか私の前にひざまずく。……嘘でしょう、まさか夫のことを食べた後なの? 私は間に合わなかったというの? 思わず震えた私の指先を温めるかのように、夫の親友が両手で包み込んでくる。

 ええい、勝手に触るな。その手を放しやがれ。小さくにらみつけると、ゴkbリー卿は私と目があったことが嬉しいのか顔を綻ばせた。

「リサ」
「以前も申し上げました通り、私、愛称呼びを許したつもりはございませんの」

 それに、その愛称は嫌いなんだってば。忘れてしまいたい前世の名前と同じ響きに軽く舌打ちしながら、夫の親友の手を振り払う。私の行動に傷ついたと言わんばかりの表情を見せながら、彼はさらに私との距離を縮めてきた。

「愛称ではないだろう? わたしの可愛い理沙」
「は?」
「ずいぶん待たせてしまったね。だからと言って、そんなに拗ねないでくれ。そんなあなたももちろん可愛いが」

 急激に世界が歪んだような気がする。
 今までただの気に食わない夫の親友だった男は、姿かたちなど一切変わらなかったはずなのに、かつての夫と同じ笑顔で私を見つめていた。他の女と浮気をしながらぬけぬけと、私のことを「愛している」と言っていたときと同じ優しげな顔をして。
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