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寂しがり屋の小鳥は、初恋の騎士さまの生まれ変わりを幸せにしたい。(2)
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むかしむかし、今よりもうんとむかし。まだこの王国がとても小さくて、か弱かった頃、わたしは小鳥で、殿下はこの国を守る辺境の砦の騎士さまでした。王族に連なる血を持ちながらも、妾腹だった騎士さまは、王位争いから離れひとり辺境へやってきたのです。
とても真面目な方でした。ひどく不器用な方でした。数々の戦いから国を守った英雄であったにもかかわらず、人間関係につまずき、たくさん傷ついておられたのです。笛を吹くことを好んだ騎士さまと、日がな一日さえずっていたわたし。静かな森の中でともに音を紡いだあの時の、なんと素晴らしかったことでしょう。
そんな優しい時間は、隣国が仕掛けた戦によりあっさりと崩れ落ちました。責任感の強い騎士さまは、どんなに不利な状況でも逃げ出すことはいたしません。わたしひとり逃げるように告げ、そのまま戦いに身を投じられたのです。
叶うならば、手を取り合って逃げたことでしょう。わたしは、騎士さまにこれ以上傷ついてほしくはありませんでした。けれど騎士さまが国を見捨てるような方ではないことも、よくわかっておりました。何よりそんな騎士さまだからこそ、わたしは騎士さまを尊敬しておりましたから。
あの時わたしが選んだ道は、騎士さまの命と騎士さまの守るべき国を救うことでした。それが、騎士さまの幸福に繋がると思っておりましたから。けれどわたしの選択は、騎士さまを長い間ひとりにさせてしまいました。騎士さまは寂しかったのでしょうか。苦しかったのでしょうか。城に残っているかつての騎士さまの絵は、どこか物憂げなものばかりです。
わたしはただ、騎士さまに幸せになってほしかったのです。美味しいものを食べて笑っていてほしかったのです。好きな笛を思う存分楽しんでほしかったのです。だから今世こそは、お側にずっと仕えようと心に決めておりました。
けれど、こんなことを話して信じてくださる方がどれくらいいるでしょうか。きっとみなさん、わたしのことをほら吹きやら大嘘付きやら笑い飛ばすに違いありません。わたし自身、前世の記憶などではなく、ただの妄想ではないのかと思い悩んだくらいです。
だって、教会の孤児院に殿下が視察に来られ、目があった瞬間に前世の記憶を思い出すなんて、出来すぎだとは思いませんか。しかも、騎士さまの生まれ変わりが殿下だったなんて。
わたしにはわたしの記憶を証明することができません。前世と同じ小鳥の姿に変身できれば良かったのでしょうが、そんなこともちろんできやしません。せいぜい、かつての恩恵でしょうか、鳥に懐かれやすいくらい。だからわたしは、前世の記憶は今まで誰にも話したことがないのです。
同じ国の同じ時代に生まれ変わったはずなのに、わたしたちの関係は、今も昔も遠いままです。殿下がわたしに優しくしてくださるのも、あくまで前世からの縁のようなものがうっすらと残っているからなのでしょう。そこには恋だとか、愛だとかは存在していないのです。
それはもしかしたら、わたしの存在が不必要なものになってしまったからなのかもしれません。ようやく会えたわたしの騎士さまは、もはや人づきあいが苦手で、不器用で、ひっそりと笛を嗜まれる方ではありませんでした。どんな相手に対しても朗らかに笑い、友人として引き込んでしまうそのお人柄。王太子を支え、陛下からの信頼も厚い第二王子殿下だったのです。
前世と今世は違うひと。同じ魂だからといって同じ人間になるわけではないというのに、どうしてわたしはこんなに驚いているのでしょう。わたしは魂の浄化に時間がかかり、ようやっと2回目の人生です。けれど、騎士さまはもう幾度も転生を繰り返していらっしゃるはず。ですから、わたしの手助けなど必要ないくらい、 多くのことを学ばれたに違いありません。環境が変われば、ひとはまったく異なるものに成長するのが当然なのですから。
これでようやく、あの方は幸せになれる。喜ぶべきことなのです。わたしはその姿を見るために、殿下のお側に生まれ変わったのです。婚約者さまに嫉妬するなんて、あってはなりません。だから、何だか胸の奥がしくしくと痛むのは、気のせいなのです。目の前がぼやけて見えてしまうのも、きっと。
とても真面目な方でした。ひどく不器用な方でした。数々の戦いから国を守った英雄であったにもかかわらず、人間関係につまずき、たくさん傷ついておられたのです。笛を吹くことを好んだ騎士さまと、日がな一日さえずっていたわたし。静かな森の中でともに音を紡いだあの時の、なんと素晴らしかったことでしょう。
そんな優しい時間は、隣国が仕掛けた戦によりあっさりと崩れ落ちました。責任感の強い騎士さまは、どんなに不利な状況でも逃げ出すことはいたしません。わたしひとり逃げるように告げ、そのまま戦いに身を投じられたのです。
叶うならば、手を取り合って逃げたことでしょう。わたしは、騎士さまにこれ以上傷ついてほしくはありませんでした。けれど騎士さまが国を見捨てるような方ではないことも、よくわかっておりました。何よりそんな騎士さまだからこそ、わたしは騎士さまを尊敬しておりましたから。
あの時わたしが選んだ道は、騎士さまの命と騎士さまの守るべき国を救うことでした。それが、騎士さまの幸福に繋がると思っておりましたから。けれどわたしの選択は、騎士さまを長い間ひとりにさせてしまいました。騎士さまは寂しかったのでしょうか。苦しかったのでしょうか。城に残っているかつての騎士さまの絵は、どこか物憂げなものばかりです。
わたしはただ、騎士さまに幸せになってほしかったのです。美味しいものを食べて笑っていてほしかったのです。好きな笛を思う存分楽しんでほしかったのです。だから今世こそは、お側にずっと仕えようと心に決めておりました。
けれど、こんなことを話して信じてくださる方がどれくらいいるでしょうか。きっとみなさん、わたしのことをほら吹きやら大嘘付きやら笑い飛ばすに違いありません。わたし自身、前世の記憶などではなく、ただの妄想ではないのかと思い悩んだくらいです。
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