偽聖女として断罪追放された元令嬢は、知らずの森の番人代理として働くことになりました

石河 翠

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2.紅薔薇の祈り

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 深き森には、悩める人々を教え導く森の番人が住んでいるという。この国に住む誰もが知っている有名なお伽噺が真実であることを、ローズは昔からよく知っていた。

 まさか森の番人が謎の眠りにつき、年若い乙女が自分を迎えてくれることになったのは予想外だったが、それでも目的が達成されるのならば森の番人そのひとであろうが、リリィと名乗る代理人であろうが、ローズにとってはどちらでも構わなかった。自分のことを認識できるならば、それこそ相手が悪魔であっても良かったのだ。

「わたくしの夫は、騎士でございます。一年以上前、国境線の防衛任務のため、辺境の町へと向かいました。防衛そのものは成功したそうで、既に遠征に向かった皆さまは王都へ戻られております。けれど現場では鎮圧任務の際に、大規模な土砂崩れが発生したそうです。そこで複数人の騎士が被害に遭い、生死不明となったということでした」
「騎士団の方から、その後連絡は?」
「特にありません。と申しますか、わたくしは騎士団の皆さまに相手にされておりませんので。たとえ行方がわかったとしても、わたくしに情報が入ってくることはないでしょう」
「そんな、一体どうして?」
「……理不尽にも思えますが、仕方のないことでございます。ですから、森の番人さま。どうぞわたくしにご助力願えませんでしょうか?」

 ローズの言葉にリリィは、困ったように足元の白狼を見つめている。そして「私は番人ではなく、あくまで代理人ですが」と言いつつ、小さくうなずいた。無視されるのではないか、話を聞いてもらえても断られるのではないかと心配していたローズは、ふっと肩の力を抜いた。

「ただし、探し出した結果、見たくもないものを見ることになるかもしれません。それでも、ご主人を捜索されますか?」
「覚悟はできております。どうぞお願いいたします」

 もしかしたら生きているかもしれない。けれどももうとっくに死んでいるかもしれない。遺体が見つからなければ、どこかで生きているかもしれないという儚い希望を持ち続けることもできる。事実に直面してしまえば、ふわふわとした夢の中で生きることも許されない。

 けれどこのまま愛するひとが隣にいない世界で生き続けることは、ローズにとっては拷問にも等しいことだった。だからこそ彼女は、白黒つけることを願ったのだ。

 魔力の強いものであれば、空間を超えて魔術を行使できることもまた有名な話である。けれどそれは決して簡単にできることではないこともまたわかっていて、術の行使に媒介を求められたとき、ローズはてっきり代償を求められたのだと思い込んだ。震える声を理性で必死に押さえつける。

「何か、媒介になるようなものがあれば」
「媒介? それは、代償としてわたくしの血や肉が必要だということでしょうか?」
「そんな物騒なものは必要ありません! あなたとご主人の繋がりを示す具体的な物があると、術が成功しやすいのです。あくまで私は元聖女見習いの現代理人。願いを叶えるためには、慎重にならざるを得ません。それにしても森の番人さまは、願いの成就のためにそのような恐ろしい代償を求める方なのですか?」
「いえ、具体的な代償はわたくしも存じ上げません。わたくしのようなものにとっても、森の番人さまというのは、遠き方でいらっしゃいますから」

 リリィとローズの会話に、ふんと白狼が不服そうに鼻を鳴らしている。その音を聞きながら、どうやら純粋に「媒介」を必要としているらしいと理解したローズは、小さな陶器の箱を差し出した。

「そういうことでしたら、こちらはいかがでございましょう? これは夫が、わたくしの大切な紅薔薇を砂糖漬けにしたものです。わたくしと夫を繋ぐ媒介として、これ以上相応しいものはないかと」
「まあ素敵。ご主人は甘いものがお好きだったのですね」
「さあ、どうでしょう? 夫はわたくしの紅薔薇をこの世で最も美しいと誉めておりましたが、甘味を好んでいたかは。ああ、術の行使の上でより新鮮なものの方が媒介としてふさわしいということであれば、屋敷の薔薇をすべて摘んでまいりましょう」
「薔薇の砂糖漬けで、魔術の行使は十分可能です。それに薔薇は大事にしてください。せっかくご主人を見つけることができても、大切に育てていた薔薇がすべてなくなってしまっていたらご主人も胸が痛むでしょうから」
「良いのですよ。夫が見つからなければ、いずれ枯れ果てるしかないのですもの」

 ローズは荒れ果てた屋敷の中で、息も絶え絶えになっている紅薔薇の姿を思い出しながら、そっと自身の胸を両のてのひらで押さえた。
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