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4.紫水晶の誓い
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「ありがとう。助かったわ」
「いいえ、こちらこそ姫君に十分なお召し物をご用意できず申し訳ありません。ドレスはこちらに吊るして乾かしておきますので、もうしばらくお待ちくださいませ」
「服やら何やら貸してもらっておきながら、文句なんて言わないわ。凍死せずに済んだだけ幸運だったのよ」
温かいココアを口に含みながらシンプルなワンピースを身に着けたバイオレットは、リリィと名乗った女性に礼を告げた。なんとこの場所は、彼女曰く「知らずの森」らしい。信じられないと言うのは簡単だが、池の中に落ちたはずのバイオレットとヴィオラが雪の降り積もる深い森の中に転移したこと自体がおかしいのだ。今さらここがお伽噺に出てくる「知らずの森」だと言われたところで、「まあそういうこともあるかもしれない」と思う程度には、達観する事態になってしまっている。
どこか他人事のようになるほどと納得しているバイオレットの横で、ヴィオラはタオルを放り出し、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。もともと寒さに強いヴィオラは、冬の池に落ちたくらいではへこたれない。その元気を分けてほしいものだと、再びココアをすすりながらバイオレットは小さく息を吐いた。
『ねえバイオレット、なんて幸運なの! 知らずの森の番人は、願いを叶えてくれるのよ。さあ、バイオレット、今すぐ願い事をしなくちゃ!』
「ヴィオラ、待ちなさい。助けてもらったあげく、その態度はどうかと思うの。まずはお礼を」
『わかってる! リリィさん、ありがとう! それでね、あたしたちのお願いを聞いてほしいの!』
抱き着かんばかりの勢いで訴え始めるヴィオラの様子に、リリィも圧倒されっぱなしだ。普段は賢く利口なヴィオラだが、気分が高揚したときの彼女の暴走っぷりはすごい。何せバイオレットですら引きずられるほどの勢いなのだ。見かねたらしい白狼が、リリィとヴィオラの間に割って入っている。バイオレットも慌ててヴィオラを回収した。
そもそもリリィは自分たちの命の恩人なのだ。もう少し敬意を払ってしかるべきだろう。わざとらしく咳ばらいをひとつして、バイオレットはヴィオラに注意する。
「ちょっと、ヴィオラ」
『バイオレットだって、願い事を叶えてほしいでしょ?』
「それはそうだけれど」
『じゃあ、ちゃんと言わなくちゃ。ちゃんと言わないと、言いたいことは伝わらないんだから』
「わかったわ。わかったから落ち着いて」
ヴィオラの背中を撫でるバイオレットの姿を見て、リリィは目を丸くしつつもどこか楽しそうだ。すっかり空っぽになってしまったヴィオラのホットミルクのお代わりを準備しながら、くすくすと笑いを堪えている。
「本当に仲がよろしいのですね」
「ええ。何せ生まれた時から一緒だったから。ヴィオラは、いつまで経っても姉のつもりなのよ。今ではすっかりわたしの方が大きくなってしまったというのに」
『あらあたしの方が、まだ走るのは早いでしょう? 今回だって、あたしが大声で助けを呼ばなかったら、ふたりして氷漬けになっていたかもしれないんだから』
「ありがとう。感謝しているわ。ちゃんとお礼だって言ったじゃない」
『それならばいいわ!』
ホットミルクに口をつけるヴィオラは、バイオレットの言葉に大変満足そうに口角を上げてみせた。
「いいえ、こちらこそ姫君に十分なお召し物をご用意できず申し訳ありません。ドレスはこちらに吊るして乾かしておきますので、もうしばらくお待ちくださいませ」
「服やら何やら貸してもらっておきながら、文句なんて言わないわ。凍死せずに済んだだけ幸運だったのよ」
温かいココアを口に含みながらシンプルなワンピースを身に着けたバイオレットは、リリィと名乗った女性に礼を告げた。なんとこの場所は、彼女曰く「知らずの森」らしい。信じられないと言うのは簡単だが、池の中に落ちたはずのバイオレットとヴィオラが雪の降り積もる深い森の中に転移したこと自体がおかしいのだ。今さらここがお伽噺に出てくる「知らずの森」だと言われたところで、「まあそういうこともあるかもしれない」と思う程度には、達観する事態になってしまっている。
どこか他人事のようになるほどと納得しているバイオレットの横で、ヴィオラはタオルを放り出し、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。もともと寒さに強いヴィオラは、冬の池に落ちたくらいではへこたれない。その元気を分けてほしいものだと、再びココアをすすりながらバイオレットは小さく息を吐いた。
『ねえバイオレット、なんて幸運なの! 知らずの森の番人は、願いを叶えてくれるのよ。さあ、バイオレット、今すぐ願い事をしなくちゃ!』
「ヴィオラ、待ちなさい。助けてもらったあげく、その態度はどうかと思うの。まずはお礼を」
『わかってる! リリィさん、ありがとう! それでね、あたしたちのお願いを聞いてほしいの!』
抱き着かんばかりの勢いで訴え始めるヴィオラの様子に、リリィも圧倒されっぱなしだ。普段は賢く利口なヴィオラだが、気分が高揚したときの彼女の暴走っぷりはすごい。何せバイオレットですら引きずられるほどの勢いなのだ。見かねたらしい白狼が、リリィとヴィオラの間に割って入っている。バイオレットも慌ててヴィオラを回収した。
そもそもリリィは自分たちの命の恩人なのだ。もう少し敬意を払ってしかるべきだろう。わざとらしく咳ばらいをひとつして、バイオレットはヴィオラに注意する。
「ちょっと、ヴィオラ」
『バイオレットだって、願い事を叶えてほしいでしょ?』
「それはそうだけれど」
『じゃあ、ちゃんと言わなくちゃ。ちゃんと言わないと、言いたいことは伝わらないんだから』
「わかったわ。わかったから落ち着いて」
ヴィオラの背中を撫でるバイオレットの姿を見て、リリィは目を丸くしつつもどこか楽しそうだ。すっかり空っぽになってしまったヴィオラのホットミルクのお代わりを準備しながら、くすくすと笑いを堪えている。
「本当に仲がよろしいのですね」
「ええ。何せ生まれた時から一緒だったから。ヴィオラは、いつまで経っても姉のつもりなのよ。今ではすっかりわたしの方が大きくなってしまったというのに」
『あらあたしの方が、まだ走るのは早いでしょう? 今回だって、あたしが大声で助けを呼ばなかったら、ふたりして氷漬けになっていたかもしれないんだから』
「ありがとう。感謝しているわ。ちゃんとお礼だって言ったじゃない」
『それならばいいわ!』
ホットミルクに口をつけるヴィオラは、バイオレットの言葉に大変満足そうに口角を上げてみせた。
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