リポグラム短編集～『あい』を失った女～

『おおそうじ』は計画的に

条件：「お」「ぉ」「そ」「ぞ」「う」「ぅ」「し」「じ」を使用してはならない


　年末ねんまつが近ちかづいてくると、いつも頭あたまを抱かかえることになる。ミニマリスト的みにまりすとてきな生活せいかつを心こころがけていても、なぜかびっくりするほど物ものが増ふえているのだ。できることなら、この身みひとつでいつでもどこへでも逃にげる心こころづもりでいたいのに、引ひっ越こすたびに大切たいせつな物ものを見みつけるのはなぜなのか。虎とらが暴あばれたかのごとくとっ散ちらかった部屋へやの中なかを見みて、小ちいさくため息いきを吐ついた。

　燃もえるもの、燃もえないもの。捨すてるもの、捨すてないもの。さくっと決断けつだんできたらいいのだけれど、さすがに無理むりだ。まだ人間にんげんができていない。さらに中なかには頑張がんばって捨すてたはずなのに、手元てもとに戻もどってくるものまでいるのだから辛つらすぎる。近代化きんだいかが進すすんで何事なにごとも明確めいかくな決きまりの下もとで暮くらすことが求もとめられているけれど、やっぱり手てっ取とり早ばやく山やまの穴あなの中なかに捨すてたり、船ふねから投なげたり、火ひをつけたりできたら便利べんりなのだけれどな。

　ぼやいてばかりいても意味いみがない。マスクますくやら、ゴム手袋ごむてぶくろやらを着つける。問題もんだいない、目めの前まえのことをひとつひとつ片付かたづけていけば、最後さいごには片付かたづけはちゃんと完結かんけつするのだ。一気いっきにすべてを片付かたづけられるだなんて考かんがえてはいけない。別べつに片付かたづけは一日いちにちで済すませなければいけないなんて決きまりはない。何日なんにちかかってもいい。個別こべつのペースぺえすでやっていけばいいのだ。

　ちょっとだけ気きになるのは、部屋へやの臭くさみが隣となりの迷惑めいわくにならないかなってこと。世間せけんではスメハラすめはらが話題わだいだけれど、やっぱり生ゴミなまごみの臭くささはもっと危険きけんだよね。ハエはえなんかがたくさん発生はっせいするのも怖こわい。窓まどを開あけるのはやっぱりためらわれて、代かわりにSNSえすえぬえすでバズばずっていた消臭剤えあけあを盛大せいだいに振ふりまく。糞便ふんべんや腐敗物ふはいぶつにも効きくなんて、完璧かんぺきだな。口くちコミコメントこみこめんとは意見いけんが別わかれていたから、逆ぎゃくにどれくらい効きき目めがあるのか今いまから期待大きたいだいだ。

　使つかったことのないものを手てに入いれると、気分きぶんも上あがる。さあ、要いらないものは全部ぜんぶさくっと片付かたづけて年末ねんまつを迎むかえますか。離婚りこんを拒こばみ続つづけ、大枚たいまいをはたいてまでこちらを追跡ついせきするDVでぃぶい旦那だんなだったものを爪先つまさきで蹴けりあげ、部屋へやの片付かたづけに戻もどった。