家路を飾るは竜胆の花

石河 翠

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 私と夫は、いわゆる政略結婚だった。事故で両親を亡くした私は婚約が解消されるだろうことを覚悟していたけれど、夫は予定通り結婚しようと言ってくれた。

 高位貴族の令嬢だというのに華やかさに欠ける私のことを、野に咲く花のように素朴で愛らしいと慈しんでくれた。

 夫の母もまた、家族を失ったばかりで心許ない私を優しく慰めてくれた。あなたのような娘が欲しかったと言われたときには、本当の母のように大切にしようと誓ったくらいだ。

 そんな彼らが変わってしまったのは、結婚してすぐのこと。家族を失ったばかりだったとはいえ、口先だけの彼らに心を許した私が馬鹿だったのだ。

「両親のいない女をもらってやったというのに、黙って言うことも聞けないのか」
「本当なら息子のお嫁さんは、幼馴染ちゃんだったのよ。その地位をあなたに譲ってあげたのだから、あなたも息子たちに感謝してわきまえるべきでしょう」

 金目当ての結婚だろうとは、薄々感づいていた。そもそも貴族の婚姻などというのは政略で結ばれるものなのだし、財産を持った世間知らずの貴族令嬢など、悪い人間の格好の餌食だということも理解している。けれど、信頼しきっていた人間からのてのひら返しはことのほか堪えた。

 何より、ここまでひととして貶められなければならないものなのだろうか。姑も幼馴染のことが可愛くて仕方がないらしい。彼女には言わない暴言を浴び続け、私は心がすっかり凍りついてしまったのだった。
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