7 / 7
(7)
しおりを挟む
「おねえさま! デボラが あそびに きました!」
「デボラ、ルイーズはお隣の奥さんたちの手伝いに出かけて留守ですよ」
お勉強の合間にお部屋に飛び込んだというのに、いるのはクソ野郎だけ。ああなんということでしょう。タイミングよく、辺境の家の方にお出かけされてしまっているようです。
追いかけたいのはやまやまですが、次元の扉に登録されていないわたくしには、待つことしかできません。まったく腹立たしいことですわ。早くわたくしのことも登録しやがりませ。
まさか、おねえさまがここまで辺境を気に入ってくださるとは思ってもみませんでした。わたくしが神殿を潰す際に、万が一のことがあってはならないとおねえさまを避難させた辺境の地。
選んだ理由はただ単に、忌々しい聖なる薔薇があった王都から離れているおかげで、わたくしたちの力が一番効率的に使える土地だったからなのですが。
「ちっ、お前しかいないのだったら来るんじゃありませんでしたわ」
「すごいですね。その猫のかぶり方。よくもまあルイーズにバレないものです」
「年季が違いますもの。それにお前にだけは言われたくなくってよ。辺境の自宅周辺はえげつないほど強固な結界、村人は問答無用で洗脳、ご丁寧におねえさまにも目眩しをかけているでしょう。ケルベロスまで番犬に引っ張り出して」
「洗脳だなんて人聞きの悪い。善性をより発揮するように、少しばかり働きかけているだけです。ルイーズは露悪的なことを言うわりには、人間の善性を信じていますから」
確かに。昔からおねえさまは、相手のことをすぐに信用しちゃうのよね。人間は愚かで自分勝手ですぐに裏切るから、滅んでしまえばいいのですわ。そうすれば、世界にはわたくしとおねえさまの二人きり。なんて素敵な世界でしょう。
「さらりとわたしを消さないように」
「うるさいですわね」
「あなたとわたしは、表裏一体。片割れのわたしが消えれば、すぐにあなたも転生させられますよ」
「はあ、いやですわ。初代の聖女と一緒に転生できることは幸せですが、力と記憶に分けられたのはいただけませんわね」
「まあ過ぎたことを悔やんでも仕方がないでしょう」
まったく、あの時も勇者が邪魔をするから。あ、そういえば。
「辺境に固定した『勇者』はどうなりましたの?」
罠に引っかかったあげく、おねえさまに嫌われた馬鹿な男。でもずっとずっと昔、一番最初におねえさまを裏切ったのはあの男ですから当然の結果ですわ。
「ルイーズの口からはっきりと『もう二度と私に関わらないで』という言葉が出ましたのでね。ありがたく、『縁』を切らせてもらいましたよ。彼は同じ土地にいたとしても、一生ルイーズに出会うことはできません」
「今世の勇者も愚か者でしたわね」
「そうですね。面白いほど、勇者は毎回選択を間違えます」
「彼はきっとこれからも間違え続けますわ。一番最初に手放したものは、永久に戻ってくることはないというのに」
言葉は力。約束は呪縛。これでおねえさまは、わたくしたちだけのもの。魔王の力を持つノアと、魔王の記憶を持つわたくし。封印を施した聖女によって二つに分けられたわたしたちですが、おねえさまへの執着は転生を繰り返すごとに増すばかり。
可哀想なおねえさま。本来、聖女だったのはおねえさまだったのに。聖なる薔薇は、ただおねえさまを守ろうとしただけなのに。でも、もうあの薔薇が咲くことはないでしょう。わたくしが、しっかり念入りに潰しておきましたから。
ねえ、おねえさま。ノアがかけた魔法はね、おねえさまが素直になるだけの効果しかないんです。わたくしたち、知っているんです。あの時だって、本当はおねえさまは魔王を嫌っていたわけではないということを。
ぱたぱたと軽快な足音が聞こえてきました。おねえさまが帰ってきたようですね。
「あらデボラ、いらっしゃい。遊びに来ていたの?」
「おねえさま、こんにちは」
「ちょうど用事があって。遊んであげられなくてごめんなさいね。待ちくたびれたでしょ?」
「いいのです。あの、おねえさま。きょうは、おねえさまの おへやに おとまりしても いいですか?」
「ええ、もちろんよ」
「わあい。じゃあ、おふろも いっしょに はいりましょうね」
「いいわよ」
「よるも いっしょに ねたいです!」
「あらあら、デボラは甘えんぼさんね」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、おねえさまの匂いを存分に味わいます。おねえさまの肩越しには、青筋を立ててこちらを睨みつけるノアの姿が。ふふふ、これこそ子ども特権ですわ。わたくし知っていますのよ、まだおねえさまとノアは、初夜を迎えていませんものね。ええもちろん、これからもがんがん邪魔させていただきますわ。
わたくしは配偶者の座など望みません。大切な家族として一番近くにいられたらそれでいいのです。勇者のように失敗を繰り返すなんて馬鹿のすることですもの。邪魔な神殿も聖なる薔薇もなくなった来世は、どれだけ楽しいものになるでしょう。素敵な人生を邪魔されないためにも、これからもがんばりますわ!
「デボラ、ルイーズはお隣の奥さんたちの手伝いに出かけて留守ですよ」
お勉強の合間にお部屋に飛び込んだというのに、いるのはクソ野郎だけ。ああなんということでしょう。タイミングよく、辺境の家の方にお出かけされてしまっているようです。
追いかけたいのはやまやまですが、次元の扉に登録されていないわたくしには、待つことしかできません。まったく腹立たしいことですわ。早くわたくしのことも登録しやがりませ。
まさか、おねえさまがここまで辺境を気に入ってくださるとは思ってもみませんでした。わたくしが神殿を潰す際に、万が一のことがあってはならないとおねえさまを避難させた辺境の地。
選んだ理由はただ単に、忌々しい聖なる薔薇があった王都から離れているおかげで、わたくしたちの力が一番効率的に使える土地だったからなのですが。
「ちっ、お前しかいないのだったら来るんじゃありませんでしたわ」
「すごいですね。その猫のかぶり方。よくもまあルイーズにバレないものです」
「年季が違いますもの。それにお前にだけは言われたくなくってよ。辺境の自宅周辺はえげつないほど強固な結界、村人は問答無用で洗脳、ご丁寧におねえさまにも目眩しをかけているでしょう。ケルベロスまで番犬に引っ張り出して」
「洗脳だなんて人聞きの悪い。善性をより発揮するように、少しばかり働きかけているだけです。ルイーズは露悪的なことを言うわりには、人間の善性を信じていますから」
確かに。昔からおねえさまは、相手のことをすぐに信用しちゃうのよね。人間は愚かで自分勝手ですぐに裏切るから、滅んでしまえばいいのですわ。そうすれば、世界にはわたくしとおねえさまの二人きり。なんて素敵な世界でしょう。
「さらりとわたしを消さないように」
「うるさいですわね」
「あなたとわたしは、表裏一体。片割れのわたしが消えれば、すぐにあなたも転生させられますよ」
「はあ、いやですわ。初代の聖女と一緒に転生できることは幸せですが、力と記憶に分けられたのはいただけませんわね」
「まあ過ぎたことを悔やんでも仕方がないでしょう」
まったく、あの時も勇者が邪魔をするから。あ、そういえば。
「辺境に固定した『勇者』はどうなりましたの?」
罠に引っかかったあげく、おねえさまに嫌われた馬鹿な男。でもずっとずっと昔、一番最初におねえさまを裏切ったのはあの男ですから当然の結果ですわ。
「ルイーズの口からはっきりと『もう二度と私に関わらないで』という言葉が出ましたのでね。ありがたく、『縁』を切らせてもらいましたよ。彼は同じ土地にいたとしても、一生ルイーズに出会うことはできません」
「今世の勇者も愚か者でしたわね」
「そうですね。面白いほど、勇者は毎回選択を間違えます」
「彼はきっとこれからも間違え続けますわ。一番最初に手放したものは、永久に戻ってくることはないというのに」
言葉は力。約束は呪縛。これでおねえさまは、わたくしたちだけのもの。魔王の力を持つノアと、魔王の記憶を持つわたくし。封印を施した聖女によって二つに分けられたわたしたちですが、おねえさまへの執着は転生を繰り返すごとに増すばかり。
可哀想なおねえさま。本来、聖女だったのはおねえさまだったのに。聖なる薔薇は、ただおねえさまを守ろうとしただけなのに。でも、もうあの薔薇が咲くことはないでしょう。わたくしが、しっかり念入りに潰しておきましたから。
ねえ、おねえさま。ノアがかけた魔法はね、おねえさまが素直になるだけの効果しかないんです。わたくしたち、知っているんです。あの時だって、本当はおねえさまは魔王を嫌っていたわけではないということを。
ぱたぱたと軽快な足音が聞こえてきました。おねえさまが帰ってきたようですね。
「あらデボラ、いらっしゃい。遊びに来ていたの?」
「おねえさま、こんにちは」
「ちょうど用事があって。遊んであげられなくてごめんなさいね。待ちくたびれたでしょ?」
「いいのです。あの、おねえさま。きょうは、おねえさまの おへやに おとまりしても いいですか?」
「ええ、もちろんよ」
「わあい。じゃあ、おふろも いっしょに はいりましょうね」
「いいわよ」
「よるも いっしょに ねたいです!」
「あらあら、デボラは甘えんぼさんね」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、おねえさまの匂いを存分に味わいます。おねえさまの肩越しには、青筋を立ててこちらを睨みつけるノアの姿が。ふふふ、これこそ子ども特権ですわ。わたくし知っていますのよ、まだおねえさまとノアは、初夜を迎えていませんものね。ええもちろん、これからもがんがん邪魔させていただきますわ。
わたくしは配偶者の座など望みません。大切な家族として一番近くにいられたらそれでいいのです。勇者のように失敗を繰り返すなんて馬鹿のすることですもの。邪魔な神殿も聖なる薔薇もなくなった来世は、どれだけ楽しいものになるでしょう。素敵な人生を邪魔されないためにも、これからもがんばりますわ!
42
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる