脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠

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 しっとりと落ち着いていて、酒もつまみも美味しい素敵な酒場。それ以来、私はここの常連客になった。とはいえ、例のもふもふ毛布なわんこさんとは仲良くなれないままなのだけれど。だってお店の中に入っていったはずなのに、誰もわんこなんて知らないって言うんだもん。一体、どういうことだってばよ。

 可愛いわんこの代わりに、超絶美男子の店長さんが相手をしてくれるんだけれど、今欲しいのは色気じゃなくてもふもふ成分なんだよなあ。犬はひと懐っこい子が多いと思っていたけれど、猫みたいに人見知りで知らないひとがいると隠れちゃうタイプなのかもしれない。ああ、世の中はままならない。まあ、店長さんとのおしゃべりで癒されているのは確かなんだけれどね!

「ミリセントちゃん、今日もお疲れさま」
「わあ、ありがとうございます」
「いい飲みっぷりだね。見ていて気持ちいいけれど、飲み過ぎには注意してね」
「あははは、大丈夫ですよ。家まではちゃんと帰れますので!」

 そう、悲しいかな、私は酔いつぶれることができない。だからどんなに酔っぱらったところで、自宅に帰るより他に仕方がない。せめてべろんべろんの、ぐだんぐだんになってつっぷしていたなら、あのもふもふわんこさんも油断して出てきてくれるかもしれないのに。変なところでぎりぎり踏みとどまってしまう自分の意識が憎い。

「ミリセントちゃん、お酒が好きなの?」
「お酒が好きっていうより、みんなでふわっとしている雰囲気が好きなんですよ。このお店はうるさすぎないし、かといって静かすぎない。馬鹿騒ぎがしたいわけではないけれど、ひとりだと寂しいっていう時にぴったりなんです」
「……ミリセントちゃん、疲れているんだね」
「そう、ですね。そうかもしれません」

 するりと自分の口から、寂しいという言葉が出てきてびっくりしてしまった。騎士団には女性の事務員のお姉さまがたはいるけれど、騎士として働いている女性は数える程度しかいない。だから無意識に肩ひじを張って生きているのかもしれない。普段は言わないようにしている気持ちをするりと吐き出させてしまうだなんて、店長さんったら本当に恐ろしい子!

 店長さんからの聞き込みとか大変そうだなあ。手元のグラスを傾けながら、ぼんやり考える。事件や事故が発生した時の聞き込み調査も私の所属する騎士団の仕事になるけれど、店長さんからは情報を引っ張ってこれない気がする。むしろ部外秘になっている情報を逆に持っていかれちゃいそう。時々いるんだよね、相手の警戒心を解くのがうまいひと。

「はあ、これじゃあ話を聞くのは難しいだろうなあ」

 しょんぼりとしてつい愚痴った私の声が耳に入ったのか、お隣に座っていた常連さんが不思議そうに私に声をかけてきた。
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