脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠

文字の大きさ
3 / 11

(3)

「ああせめて、私の愛しい安心毛布があればなあ」

 指をわきわきさせて、何もない宙を握りしめてみる。小さな頃から大事にしていたお気に入りの毛布。すっかりぼろ雑巾みたいになっていたけれど、あれさえあれば三秒で眠りにつけたのに。

 元恋人との将来を考えていた時はこの毛布がなくても眠れていたから、未練を断ち切るために思い切って燃やしてしまった。今この機会を逃したら、もう永遠に卒業できないような気がしたから。

 私にとっては人生を揺るがす決断をしたそのすぐ後に、彼は私ではない女性を選んだわけで、私ってば本当に男を見る目がなかったらしい。結婚してからそういう男だったとわかるよりもマシだったのかしら。

 周囲の同僚たちが元恋人を締め上げてくれたところで、私の可愛い安心毛布は帰ってこない。自分の気持ちに折り合いがつけられないまま、今日も今日とて、思い出の中の毛布ちゃんを抱きしめながらいい感じの酒場を探していた。

「うん、なんだあれ?」

 そんなときに、私は見つけてしまった。うきうきと楽しそうに先を急ぐふわふわもこもこの大型犬を。まるでこれからお仕事にでも行くかのように、夜の街を迷いなく颯爽と歩いている。あんな可愛らしい姿、人目を引かないはずがないのに誰も気が付いていないらしい。見上げるくらい大きな満月の下、お日さまを溶かしたみたいな色合いのわんこがいるというのに!

「あの子を抱きしめて横になったら、三二一ばたんきゅうで眠れそう」

 わんこの身体に顔を埋めてみたい。ちょっと妄想しただけなのに、お日さまの香りと一緒に、ふわふわで滑らかな毛皮が頬をくすぐったような気がする。久しぶりに、忘れていたあくびが出ちゃいそう。そう思うといてもたってもいられず、わんこを追跡することにした。

 うきうきのわんこがたどり着いたのは、とある一軒の酒場だった。一見するとお店だとは思わない、控えめな外観。お日さまみたいなわんこをつけていなければ、私だって見落としていたと思う。その店の扉を器用に前足で叩くと薄く扉が開き、わんこはあっという間に見えなくなってしまった。

「ああ、待って!」

 思わず叫んだ私の声が聞こえたのか、閉まりかけた扉が再びゆっくりと開く。

「珍しいお客さんだね。いらっしゃい」

 目を丸くしながら私を迎えてくれたのは、ふわふわの尻尾みたいな蜂蜜色の髪が印象的な店長さんだった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜ ※AI不使用です。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。