おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠

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 ああ、騎士さま。あなたは、今までどのように過ごしておられたのですか。
 そこでも、私にくださった花は咲いていましたか。
 隣に立つ美しい花は、あなたを幸せにしてくださいますか。

 燃え盛る炎の熱は、私の想いの深さだときっと騎士さまには伝わらない。それでも私は歌うのだ。それが、騎士さまとの約束だったから。

 ――どうか泣かないで。俺は必ず戻ってくる。いつか、君の歌を聴かせておくれ――

 騎士さまは約束を守ってくれた。だから、私も全力で約束を守ろう。大丈夫、私の炎は善きひとを傷つけることはない。燃やし尽くされるのは、誰かを妬み、嫉み、貶めようとするひとたちだけ。騎士さまのお仲間の数人が苦悶の声を上げる。なるほど、彼らは神殿の手先か。他国の間者か。騎士さまが手を出す前に、私は蹴りをつける。貴重な聖水を無駄にしてはもったいない。

 さらに厳しい目で、騎士さまは私をにらみつける。その温度のない瞳の色さえ、私には愛しく心地よい。

「君は下がっていなさい」
「いいえ、わたしには役目がありますから!」

 騎士さまが銀の髪と緑の瞳の少女を、その背にかばっている。かつて私が身にまとっていたものと同じ色合い。もしかしたら、騎士さまはそのふたつの組み合わせがお好きだったのだろうか。それならばあの時睦みあったのは、同情ではなく、騎士さまの望みでもあったのだと思ってよいのだろうか。

 ついうっかり想いが顔に出てしまっていたらしい。くすりと笑ったつもりが、竜の口は大きく、牙は鋭い。にんまりと何かを企んでいるようにしか見えなかったようだ。鱗が黒いので、頬を染めていてもわからないだろう。まあ、そもそも竜の照れた顔など、ひとには判別がつかないだろうが。

「竜よ、一体何を笑っている。俺たちが必死な様子がそんなに面白いのか!」

 騎士さまの言葉にゆっくりと否定の意味を込めて首を振るが、ついうっかり腐臭のする人間を踏み潰してしまった。おかげで、さらに騎士さまからは距離をとられてしまう。

 いいえ、いいえ。騎士さま、違うのです。

 いつも真面目で不誠実なことを許さないあなたが昔と変わっていなくて、本当に嬉しいのです。私はもう何もかも変わってしまったけれど、愛しい騎士さまだけは昔のまま。それだけで私は、自分の選択が間違っていなかったと胸を張ることができます。

 さあ騎士さま、最後の戦いを始めましょう。新しい世界を始めるために。
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