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1部 1章
鶏と卵は商売の基礎 3
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「ところで、グレンさん。今、何をしてたんですか?」
もうオレが吐いたことで話を膨らませても有益なことはない。
本題に入っていこう。
「昔馴染みの情報屋と会っておったんだ」
「商売のための情報収集ですか?」
情報は金になる。
グレンさんから教わったことだ。情報収集はあらゆる商売の基本である、と。
どの町で何が起きていて、だからこそどのような物が必要になっていて取引価格が上昇しているのか、逆に不要になっていて価格が下落しているのか――そういったことをできるだけ細かく把握し、その時々で適切に動けた商人こそ、大きな利益を得られるのだ。
だからこそ、情報屋という、形ないものを扱う商売も成立している。
大半の人は、情報なんていうお腹も膨れないようなものに金を払うくらいなら、穀物や肉を買うけれど。商売人だけは違うのだ。
商売人は、将来の金のために、今使える情報に金を払う。
「いいや、今回のは違う」
違う? 商売のための、金儲けのための情報、ではないとうことか?
わからない。儲けるためでなかったら、どんな情報に大切なお金を払うのだろう。
「商売のためじゃないなら、一体、なんのための情報を買ったんですか?」
オレはこの人ほど金に厳格な人に会ったことがない。
この町にいるほかのどの商人なんかよりも、よっぽど商人的だと思っている。
そんな人が、金を払った情報。
知りたかった。
だから、素直に聞いた。
わからなければ素直にわからないということも大事だ、というのもこの人に教わったこと。素直にならないことは時と場合によっては愚かである、と。
ただ、素直になったからといって教えてくれるわけでもないとも言っていたが。
この人が、金を払って得たものを、タダで提供してくれるとも思えないし。
「保身、だな」
意外にも、どうやら教えてくれるらしい。
「身を守るための情報、ということですか?」
保身という言葉を、そのままの意味で受け取るなら、そういうことだろうが。
会話しながらも常に頭で考えるようにしているが、答えらしいものは閃かない。
「覚えておけ。情報は、商売のためではなく、生活を守るためにも重要なのだ。いや、分けるようなことではなく、正確には商売のためも保身のためも商人にとっては同じことなのだが、まあ、そこは年と共に理解を深めていけばよい。とにかく、あらゆる情報は、金のためばかりではない、ということも頭に入れておくのだ。商売のためだけにある、という思い込みに囚われることだけは、してはならんぞ。あらゆる思い込みは、身を滅ぼす」
長い発言を、オレは頭に入れる。今ここで入れても、すぐに忘れてしまうかもしれないけれど、とにかく覚える努力をする。とくに、重要な言葉を抜き取って。ここでは、そう、情報は商売のためだけではない、思い込みに囚われてはいけない、とかだろう。
――くぅぅぅ。
と、不意に間の抜けた音が傍から聞こえた。
顔を向ければ、妹がオレと繋いでいないほうの手でお腹を擦っている。
ハッハッハ、と豪快に笑うグレンさん。
「早起きすれば、それだけ早くに腹も空く。このままギルドに行って朝食を摂るつもりだったが、腹ペコ子どもの用事を優先するかの」
歩き出した、グレンさん。その方向は、オレたちがここまで通ってきた道のほう。
オレたちもついていく。
「そういえば、お前たち子どもは、よくイツミ川に遊びに行っておったな?」
いきなりな話題だな、と思いながらもオレは頷く。
「そうですね」
「あのねあのね、お魚釣ったり薬草詰んだりとかね、水浴びとかするんだよぉ」
まるで今その遊びをしているかのように、シルキアが興奮気味に言った。
そうかそうかと微笑ましく思っている口調で言いながら、グレンさんが妹の頭を撫でる。
しかし、一方で、オレには真剣な眼を向けてきた。
「ワシが許可を出すまで、しばらく川遊びはするな。近づくこともやめろ」
どうして、と思い、ピンと来た。
保身と言った流れでの、グレンさんの今の注意。
つまり、それは。
「危険、ということですか?」
「そうだ。だが、何がどう、ということは尋ねるな」
一方的に突き放された。
とはいえ、オレたちを案じてくれていることは理解できる。
注意されることを嫌う人は少なくないが、注意することは心配していることと同義である場合もある。自らの憂さ晴らしのために注意する者もいるけれど。
肝心なのは、誰が言っているのか、ということだ。
「気を付けます」
それでいい、と言ったグレンさんの声は重たかった。
もうオレが吐いたことで話を膨らませても有益なことはない。
本題に入っていこう。
「昔馴染みの情報屋と会っておったんだ」
「商売のための情報収集ですか?」
情報は金になる。
グレンさんから教わったことだ。情報収集はあらゆる商売の基本である、と。
どの町で何が起きていて、だからこそどのような物が必要になっていて取引価格が上昇しているのか、逆に不要になっていて価格が下落しているのか――そういったことをできるだけ細かく把握し、その時々で適切に動けた商人こそ、大きな利益を得られるのだ。
だからこそ、情報屋という、形ないものを扱う商売も成立している。
大半の人は、情報なんていうお腹も膨れないようなものに金を払うくらいなら、穀物や肉を買うけれど。商売人だけは違うのだ。
商売人は、将来の金のために、今使える情報に金を払う。
「いいや、今回のは違う」
違う? 商売のための、金儲けのための情報、ではないとうことか?
わからない。儲けるためでなかったら、どんな情報に大切なお金を払うのだろう。
「商売のためじゃないなら、一体、なんのための情報を買ったんですか?」
オレはこの人ほど金に厳格な人に会ったことがない。
この町にいるほかのどの商人なんかよりも、よっぽど商人的だと思っている。
そんな人が、金を払った情報。
知りたかった。
だから、素直に聞いた。
わからなければ素直にわからないということも大事だ、というのもこの人に教わったこと。素直にならないことは時と場合によっては愚かである、と。
ただ、素直になったからといって教えてくれるわけでもないとも言っていたが。
この人が、金を払って得たものを、タダで提供してくれるとも思えないし。
「保身、だな」
意外にも、どうやら教えてくれるらしい。
「身を守るための情報、ということですか?」
保身という言葉を、そのままの意味で受け取るなら、そういうことだろうが。
会話しながらも常に頭で考えるようにしているが、答えらしいものは閃かない。
「覚えておけ。情報は、商売のためではなく、生活を守るためにも重要なのだ。いや、分けるようなことではなく、正確には商売のためも保身のためも商人にとっては同じことなのだが、まあ、そこは年と共に理解を深めていけばよい。とにかく、あらゆる情報は、金のためばかりではない、ということも頭に入れておくのだ。商売のためだけにある、という思い込みに囚われることだけは、してはならんぞ。あらゆる思い込みは、身を滅ぼす」
長い発言を、オレは頭に入れる。今ここで入れても、すぐに忘れてしまうかもしれないけれど、とにかく覚える努力をする。とくに、重要な言葉を抜き取って。ここでは、そう、情報は商売のためだけではない、思い込みに囚われてはいけない、とかだろう。
――くぅぅぅ。
と、不意に間の抜けた音が傍から聞こえた。
顔を向ければ、妹がオレと繋いでいないほうの手でお腹を擦っている。
ハッハッハ、と豪快に笑うグレンさん。
「早起きすれば、それだけ早くに腹も空く。このままギルドに行って朝食を摂るつもりだったが、腹ペコ子どもの用事を優先するかの」
歩き出した、グレンさん。その方向は、オレたちがここまで通ってきた道のほう。
オレたちもついていく。
「そういえば、お前たち子どもは、よくイツミ川に遊びに行っておったな?」
いきなりな話題だな、と思いながらもオレは頷く。
「そうですね」
「あのねあのね、お魚釣ったり薬草詰んだりとかね、水浴びとかするんだよぉ」
まるで今その遊びをしているかのように、シルキアが興奮気味に言った。
そうかそうかと微笑ましく思っている口調で言いながら、グレンさんが妹の頭を撫でる。
しかし、一方で、オレには真剣な眼を向けてきた。
「ワシが許可を出すまで、しばらく川遊びはするな。近づくこともやめろ」
どうして、と思い、ピンと来た。
保身と言った流れでの、グレンさんの今の注意。
つまり、それは。
「危険、ということですか?」
「そうだ。だが、何がどう、ということは尋ねるな」
一方的に突き放された。
とはいえ、オレたちを案じてくれていることは理解できる。
注意されることを嫌う人は少なくないが、注意することは心配していることと同義である場合もある。自らの憂さ晴らしのために注意する者もいるけれど。
肝心なのは、誰が言っているのか、ということだ。
「気を付けます」
それでいい、と言ったグレンさんの声は重たかった。
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