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番外編

初めての魔獣戦の話 前編 ※前書き

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 ===*前書き*===*===*===
 皆さん、今年もいよいよ大詰めですね!
 それでは、よいお年をー!

 大晦日&元日、二日連続公開SP!その①
(注・年越しらしさは皆無です。むしろ、シリアス?)

 今回の話は、第1章と第2章の間(《アトラスヴィル》~《ドロワヴィル》までの道程みちのり)の話です。
 別名・冒険者としての覚悟 その一
 ===*===*===*===*===


(注・第2章読了後推奨)



 今まで生きてきて、一度も生き物を殺さなかった──何てコトはない、と思う。フツーは。

 だって、小さい時はみんな無知だ。手加減も倫理観もまるでないし、息を吐くように残酷な選択が出来る。

 私も、ちっこい頃は何匹も何匹も、生き物を害した。
 蟻の巣は水攻めにしたし、バッタは後ろ足をもいだ。他にも、雀を虫網片手に追い回したり、通りすがりの猫を脅かしたり、トカゲの尻尾を千切ったり……数えだしたら切りがない。

 ま、ソレも成長するにつれ、道徳教育やら何やらで、だんだんと悪いことだと気づいて止めた。
 だって、他人ひとと違う行動をすれば、嫌われるから。そして、群れからハブられれば人は生きていけない。
 たぶん、大抵はそうだと思う。……私の持論だけど。

 あ、もちろん食べるために生き物を殺す人を悪く言うつもりはない。と言うか、どちらかと言えば、ありがたいと思っていた。



 さて、私が結局何を言いたいのか、と言うと。
 ……私は、これまで【生き物を殺す】覚悟を持ってなかった、と言うコトだ。


 でも、今世ではそうも言ってられない。
 故郷日本では、そういう職業の人が全て請け負ってくれて、私たちは食料にありつけていた。
 しかし、この世界では違う。……常識も、倫理観も。
 そう、この世界では、自分で生き物──《魔獣》を殺さなければ、生きていけないのだ。
 特に、冒険者は。


 や、村とかなら猟師さんとかもいるよ?役割分担的にね。
 けど、街クラスの規模となると、押し寄せる《魔獣》や《魔物》の数が桁違いになる。到底、猟師衆じゃ賄えないほどに。

 そこで、猟師の代わりにそれらを倒す役──冒険者が必要になるのだ。そもそも、ソレで稼いでるよーなもんだしね!

 基本的に冒険者は、定住者じゃない。どこかの街をホームベースにしているヒトは多いけど、ほとんどが宿屋暮らしだ。
 なんで定住しないのかって?
 それは、街ごとに定住できる人数が決まっているからだ。
 各街の防衛設備の許容数を超えると、周辺の《魔獣》・《魔物》を御しきれなくなる。だから、住居や宿屋の数は結構厳しく管理されているんだって。

 そうそう、街中に《魔物》が発生しないのは、徹底的に人数管理をして、魔力の源《シィーラ》が淀まないようにしているからだ。
 あと、一般には知らされてないけど、それぞれの街には、街中で使われた魔力を外部に流す機能が設けられている。
 それが《ヴィル》として認める最低基準にもなってるのだ。

 ……閑話休題。

 さて、前置きが大分長くなったけど、私が今なんでそんなコトを考えたか。
 理由は単純、ついに私も《魔獣》と戦う時が来たのだ。



 それは、《アトラスヴィル》を出てからしばらくしてのコト。
 近道をしたくて、ちょっと街道を外れた所を歩いていた時だった。

───フシュルルルルウゥ……

 前方からゆっくり近づく獣。例えるなら、象と猪が混ざったような見た目をしている。
 私のチートスペックのせいか(←注・ホントは駄々もれの魔圧のせいである)、ここまでは一度も《魔獣》と会わなかった。

 けど……目の前のコイツは、明らかに様子が変だ。
 口の端から、ぱたりぽたりと涎を垂らし、酷く鼻息も荒い。象のような耳も、はたはたと震わせて、いかにも「不 機 嫌 で す !」と主張しているみたいだ。

 ひょっとして、コレが噂の《魔力化》状態なのかな?
 《魔力狂化》とは、体内の魔力が異常をきたして、理性を失い、暴走すること。その際、より魔力の多いものに攻撃を仕掛ける傾向があるらしい。……なんでも、「魔力が多い=強い」と本能が察して、自分より強いものを排除しようとするから、とか何とか。
 イリオスでさえ詳しいことは、分からないらしい。ま、原因も一つじゃないでしょーし、ね。
 ってコトで、私にも突撃してくるようです。

「さて……どーしようか」

 私がコレまで倒してきたのは、《魔物》ばかりだった。
 アレらには、元より命が存在しないから、道路に落ちてる石を退けるように、倒せたんだけど……生物相手かぁ、ちと心情的にキツいかな。

───ブウオオォォォォォ……ッ

「わっ、ビックリした~」

 まごまごしているうちに、距離を詰められていたようだ。
 前世の私なら一瞬でお陀仏だったけど、さすがはチートスペック、見てから避けられるなんて……こんな動きが出来るとは。
 でも、また直ぐに突っ込んでくる。……魔法は使ってこないな。使わない種類なのかな?

「えぇと、《世界事典》!」


豚象セルドエレファンテ』…耳と鼻が象のように変化した豚型の魔獣。ただし、足は豚そのものなので、耳はあまりよくない。湿度が高く、暖かい地域を好む。稀に【土】魔法を使う。


 ふむふむ、「足は豚そのものなので、耳はあまりよくない」、とな?……あ、そうか。
 そーいや象は、足の裏で音を検知してるんだっけ?んで、大きな耳は、団扇だったかな。
 まー、前世日本でもうろ覚えの知識だけどね。そうかー、耳が悪いのかー。
 でも、元が豚なら嗅覚は良さそうだ。……てか、猪じゃなかったのか。意外だ、あんなに毛深いのに。ホントは猪豚じゃないの?


「う、と。あぁー」

 でもなー、殺すのは……やっぱり、戸惑う。
 そもそも、私のチートスペックなら、よゆーで逃げ切れるし。お腹も空いてない。ってなワケで、殺すコトに意味を見出だせないんだよねぇ。
 でも、この世界の常識じゃ、殺らねばならんのよね。特に、《魔力狂化》してる魔獣は。なんせ、放置すれば危険なコトこの上ない、らしいから。
 もしも、ここで私が見逃したとして、他人ひとが襲われたりしたら。それは私に直接的な非も害もないけど、目覚めが悪い。


 ああぁ、もー!イリオス!!
 ホント、私はどーすりゃいいんだ……?!

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