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第3章 領改善編

第42話 彼らは密かに

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「………ただいま」
「おかえりなさいませ、お坊ちゃま。領主様とのお話はどうでしたか?」
「うーん、最悪」
「………左様ですか」

 はぁ、本当に。父がもう少しまともだったなら、僕の負担だって全く無くて済んだのに………せめて、実の子供に位は迷惑をかけないで欲しい。

「あ、クライト。お帰りなさい!」
「お、お帰りなさい!」
「あ、クレジアント、キュール。ただいま」

 二人はメイド服のまま、掃除道具を持っている。

「え、何で二人が掃除の用具を持ってるの?」
「キュールちゃん、言って言って!」
「あ、えと、私がクライトに恩返ししたいなって思って………」
「え、そんな。いいのに」

 別に二人には働いてもらうつもりで付いてきてもらったんじゃない。まぁ、そもそも二人を連れて来るつもりが最初からあった訳じゃないけれど。付いてきてくれたんだったら、もっと遊んだりなんだりして欲しいと思う。

「あ、ご、ごめんなさい………」
「え、いやいやそんな。謝らなくていいよ!僕を気遣ってくれての行動なんでしょ、キュールがそんなことを思ってくれてるってだけで僕は嬉しいから!」
「う、うぅぅ………」
「キュール、落ち込まないで。ボクはクライトが言ってることは本当だと思うよ。それに、怒ってるんじゃなくてキュールにもっと楽しんでもらいたいっていう気遣いだと思うよ!キュールがクライトの事を気遣ってるようにね!」
「そう。だからキュール、そんなに落ち込まないでよ」
「………わ、分かりました、ありがとうございます!」

 キュールは謙虚で優しいね、そういう所がキュールの良さだと思う。クレジアントもキュールの事をフォローしていて優しい。やっぱり戦闘以外の所ではクレジアントは結構優しい所がある。

「それじゃあ、僕はちょっとナイパーと話があるから。適当に休んでて良いよ」
「ぁ………」
「酷いじゃないかクライト、ボク達には全然興味を示してくれないし。確かに、僕達とは違ってクライトが貴族の責務?を果たさないといけない事は分かるけどさ………ボクもキュールも寂しいよ」
「あーそうだよね………」

 確かに、申し訳ない。連れてきたんだったら、僕が二人を放っておくのはおかしいよね。だったら最初から連れてこなければ済んだ話だし。

「ごめんね、話は直ぐ終わるから!終わったらいっぱいお喋りしよ?」
「は、はい!」
「うん!ありがとう。色々大変な事あると思うけど、クライトの為に色々してあるから期待してて!因みに全部キュールが提案したから、褒めるのはボクじゃなくてキュールを褒めて」
「で、でも!く、クレジアントちゃんも文句も言わずに手伝ってくれたよ!」
「大丈夫、二人とも優しい事は十分伝わったよ。楽しみにしてるね!」
「は、はいぃ!」
「待ってるよ~!」

 ナイパーと一緒に防音室に入る。ナイパーには、話してもいい。

「ナイパー。昨日話したこと、覚えてる?」
「はい、承知しております」

 実はナイパーには昨日、風呂から上がった後に僕が父のクスタフに話に行くことは伝えてある。その時間には、キュールとクレジアントは風呂に入っていたから二人にはこの話をしていない。申し訳ないけれど僕の父の醜態の話なんてしたくない。

「今日、話をしに行ったんだけれど。やっぱりダメだった」
「左様ですか………困りましたね」
「うん。そこでさ、取り敢えずは食事の無償提供って出来るよね?」
「はい。もう料理長との話は付けてあります」
「ありがとう。それじゃあ、明日から昼食は無償提供できるようによろしくね。その上でまた話に行ってみるよ。まぁ、一日二日で変わる訳はないと思うけどさ。こういうのって、結局どれだけ粘り強く出来るかだし」
「お坊ちゃま………」

 別にこれは領民の為だけではない。このままだと、普通に僕としての立場も危うい。領民の反乱とか、国からの指導で降格されることもあり得るし。なにより苦しんでいる領民をただそのまま放っておくのは、夢見が悪すぎる。
 少なくとも、僕はもう僕を死なせようとする世界の意志シナリオを避けまくって生存ルートに確実に進んでいるんだ。悪役貴族の役目は担う必要が無い、かと言って聖人君主にならなくてもいいとは思うけれど。

「もし。もしですよ、可能性は少ないと思いたいですが。それでも領主様がお坊ちゃまの要求を飲まないとなったらどうしましょう………」
「うーん。そうだよねぇ、まぁ僕が王都に行って学園と並行しながら冒険者としてお金を稼ぐことにするよ。あ、それと僕男爵位も貰ったし多分じきに土地を貰うと思うから。そこで農業とか畜産とかしてどうにかするとかかなぁ………」

 国王から爵位なんて、と思っていたけれど。ここで役に立つ可能性が出て来るとは。ある意味、僕にとっては一番いい貰い物だったかもしれない。男爵位を貰うって事は、即ち土地を貰うって意味だからね。まぁ、辺境地だと思うけれど。

「お、お坊ちゃま!?男爵位を授かったのですか!?」
「え、あぁそう。言ってなかったっけ?」
「は、はい………お、おめでとうございます!!!」
「ありがとう。まぁ、税金を納めないといけなくなったわけだけど………」
「あ………なるほど」
「う~ん………」

 なんで僕はクレジアントと言う最大の壁を突破した後にこんなに人生に苦戦しているんだろう………なんか泣けてきた。まぁ泣き言言っていても仕方ないからやるしかないけれどさぁ………

「あ~でも、農業とか畜産やっても結局は今の貧困は解決してないのかぁ………じゃあ、今の時点だと僕が冒険者としてここに仕送りを送るのが一番現実的かな」
「………お坊ちゃま。あまり無理をなさらないでください。私からも、領主様に進言の許可をいただけましたらお坊ちゃまの言葉を伝え続けますから」
「ううん、ダメ。こんなこと言うのは申し訳ないけれど何かあった時に、ナイパーじゃ立場も力も弱すぎる。ナイパーは僕のブレインとして、心の支えとしていてくれる今が一番力を発揮できると思う」
「………そうでございますか。失礼いたしました。ご心配ありがとうございます」

 流石に、ある意味敵地とも呼べる所にナイパーを送り出すのは危険すぎる。ナイパーの身に何かあったら、僕は一生悔やむだろう。なんせナイパーは育ての親みたいなものだからね。

「はぁ………取り敢えずは、明日の準備しないとね。いつもありがとう、ナイパー」
「いえ………」
「それじゃあ、料理長に明日の準備よろしくって伝えておいてね!何かあったら僕も直ぐに対応するよ。でも、今はほら。二人が待ってるから」
「………」

 そう言って、部屋を後にする。

 このことは密かにしていないといけない。僕とナイパー、二人だけの間で。

☆★☆★☆

「それじゃあ、料理長に明日の準備よろしくって伝えておいてね!何かあったら僕も直ぐに対応するよ。でも、今はほら。二人が待ってるから」
「………」

 お坊ちゃまが部屋を後にしました。

「お坊ちゃま………」

 まだ幼いとも呼べる齢で、もう領民の心配までしていらっしゃいます。本当に、良い子に育ってくれました。お坊ちゃまは、お坊ちゃまのお母さまの遺伝子を良く受け継いでいられますね。

「………」

 胸の中にある仄暗い感情があります。

「………」

 領主様………貴方は本当に愚かです。男としても、父としても、領主としても。きっとお坊ちゃまに何一つ勝てていない。

「………」

 これはお坊ちゃまに知られてはいけません。大丈夫、まだ実行はしない。

 でも、私の中で完全に何かが切れてしまった暁には………分かりません。

「………」

 手元にある懐中時計を開くと、そこには絵画が一つ。かつての息子の顔です。クライトお坊ちゃまにそっくりの、優しい子でした。



 でも………………………


────────────────────その時から決めていたのです。


「お坊ちゃま。もし、そうなってしまったら………」

 私は、自害しますから。

「言えません………」

 お坊ちゃまには、絶対に言えません。これは行き過ぎたことかもしれませんけれど、せめてお坊ちゃまには苦しい思いをしてほしくない。老い先短い私とお坊ちゃまの人生の価値を比べたならば、間違いなくお坊ちゃまの方に軍配が上がります。

 どうか、その時が来たときは。私を精一杯叱って下さい。

 だから、貴方にはまだ。密かにしていないといけません。



 その時、胸に痛みが走りました。



「うぅッ!?ぐぅぅぅ………」

 な、何故でしょうか………息が、く、苦しい………

 これは、天罰でしょうか………

 そうだとしたならば、何故、何故、領主様には天罰を下さないのですか………



 せめて天罰ならば………お坊ちゃまにはご加護を………



「………」

 ドサッ







──────────『属性〈憤怒〉を獲得。実行できます』

★★★★★

「ふむ、良いだろう」
「感謝いたします」

 出来上がった各小隊の編成を見て深く頷く。なかなか良い、特にこれと言った不満は見当たらない。

「今回は云わば奇襲だ。あのような、弱小の領の者どもに後れを取る事は許さないからな」
「「「「「はい!!!」」」」」

 まあこいつ等はあまり心配していない。属性だってもって居る上、個人でもそこそこ戦える。今回奇襲を仕掛ける辺境領の住民は、瞬く間に命が飛ぶことだろう。

「さぁ往け、前哨部隊。王が何も準備していない今、辺境の地なぞ塵芥も同然!」
「「「「「了解!必ずや、成功させてきます!!!」」」」」

 そう言うと小隊長共は小隊を引き連れて辺境領へと向かっていった。

「もうそろそろか………」

 計画は前倒しとなったが、戦法通りに行けば大丈夫だ。

「まずは辺境領から潰し国力を弱める。敵の強い個体は、我又は魔将共が一体ずつ確実に減らしていく。内部であるはずの混乱に乗じて、我らは一気に畳みかける」

 いいだろう。兵共の育成も充分に出来た。強力な魔物だっている。計画が狂わなければヨーダン王、お前は一週間後にはもうこの世に居ることは無いだろう。このために密かに我は準備してきたのだから………

「我が受けた雪辱………晴らさしてもらおうか!!!」

 本軍の編成はもう出来上がっている。

 あとは、報告を受けた後。進軍するのみだ………



 待ってろよ。ヨーダン王族………!!!!!
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