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第3章 領改善編

第46話 環境が生んだ芥

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「はぁ………」
「お疲れクライト、大変だったね………」
「いや、クレジアントこそお疲れ様」
「お二人とも、お疲れ様です………何にもできなくてごめんなさい」
「いやいや、気にしないでよ。キュールはその間明日のお昼ご飯の用意とかもしてくれてたんでしょ?」

 僕達は屋敷に帰ってきてひと息ついていた。少し鉄と焦げた臭いがする領地の中をフラフラと歩きながらようやく帰ってきたものだから、今はもうダラリとソファーベッドに寝転がっている。

「ナイパー、それにしても言っちゃったのかぁ………」
「申し訳ありません、お坊ちゃま。流石にこの長期間お屋敷で暮らしていただくお二人には伝えておかないといけないと思いまして。どちらにせよ、明日の昼食の時にばれていたかと………」
「な、なんか、ごめんなさい………」
「あぁいや、気にしないで。そもそもこれはレンメル家の罪だから、知られても仕方なかったんだ。逆にこんな酷い状況を二人に言うのが怖かった僕を許して欲しい」
「大丈夫、クライトは頑張ってるって分かってるから!だって、領民の人を守ってたでしょ?」
「………守ってた、ね」

 ふと、彼女の目の奥が思い出される。光が差し込んでいなかった。これはただの演出的な事ではない。やつれていて、目が余り開いていなかった。目の下の隈もあったからか、より暗く感じたのだ。

「まぁ、明日からの配給で皆がすこしでも救われて欲しいけれど………」
「そうですね。一つ考えたのですが、明日お坊ちゃまは何も予定がありませんよね。それでしたら領民の皆さんの悩みを解決していくというのはどうでしょう?」
「あ、いいね。例えばなんだろ………」
「まぁ十中八九、病や住居関係ではないでしょうか」
「そっか………時間かかるけれど、取り敢えず病気の人は僕が色々回って治そうか」
「あ、わ、私もやります!」
「え、キュール。別に大丈夫だよ!流石にそこまでして貰うのは悪いし………」
「わ、私がしたいんです!く、クライトが辛そうな所は見たくないです!」
「キュ、キュール………」

 

「良いじゃん。キュールが手伝ってくれるならそっちの方がクライトとしても嬉しいでしょ?」
「で、でも、キュールだけに色々と家回らせるのは危ないというか………」
「じゃあボクも付いていくよ。でも、ボク達の事領民の人達は知らないか………」
「では私めもご一緒致します。私めならば多少なりともレンメル家の関係者という事は知れ渡っていると思いますので」
「皆………ありがとう」

 なんで………何で皆こう良くしてくれるんだろう?

 それに比べて僕は今の所何にも出来てない………くそ………



 コンコンコン



「………ん?」

 玄関からノックの音が聞こえた気がする。念の為に確認しに行く途中で、確かにもう一度ノックの音が鳴った。誰だろう?僕のこの屋敷に来る人なんて、誰も思いつかない。

 少し警戒しながら扉をゆっくりと空ける。幸い、魔人の様に攻撃してくることは無かった。扉を完全に開いた時、目の前に立っていたのは本邸で唯一僕の〈傲慢〉2式を食らっても倒れなかった執事の人だった。

「お久しぶりです。ソー」
「こちらこそ、お久しぶりですね。ナイパー」

 後ろを振り向くといつの間にかナイパーが立っていた。いつの間に立ったんだろう?ナイパーはこういう節がある。

「どうされましたか?何かお坊ちゃまに用でも?」
「あぁその件ですが、領主様がクライト様に1週間後必ず会いに来いという旨の伝言を持ってまいりました。クライト様から領主様に何か一言、ありますでしょうか?」
「あぁ………なるほどね」

 多分、僕の〈傲慢〉2式の効果範囲が仇に出てしまったのだろう。属性を新たに獲得して、範囲も効果も普通の属性効果とは一線を画すようになってしまったからこそ父にも効果が及んでしまったのか………うわぁ、面倒な事になったなぁ。

「うん、分かった。僕からは特に無いよ。あ、でも税率と福祉の事は考え直しておいてとだけ伝えて」
「了解致しました。それで………」
「ん?」

 ソーさん?がナイパーの居る方向を向いて急に停止する。どうしたのかと僕もナイパーの方を向くと、ナイパーが真顔に。元々真顔だったのではない。何か顔を歪めていた所から真顔に直したようだ。どんな顔をしていたかは分からないけれど、取り敢えずあまりソーさんに対してか、伝言に対してかは良い気持ちをもって居ないようだ。まぁそれに関しては僕も同じたけれど。

「失礼しました」
「………いいえ。それではこれにて失礼いたします」
「それじゃあ」

 はぁ………なんなんだ、本当に。

「ナイパー、戻ろ」
「………了解致しました。お坊ちゃま………私めが何とか致しましょうか?」
「ん?………」

 そう言ったナイパーを見ると………目の中の光が無い。さっきの、さっきの領民の女性と似た目をしている。これは、ダメだ。確実に何かしでかす。

「ううん、大丈夫。ありがとう」
「………いつでも私めを頼ってくださいね。お坊ちゃまのことは僭越ながらも実の息子の様な気持ちになるのです」
「そう?あはは、ありがとう。取り敢えず………今日は休もう」
「クライト、大丈夫だったか?」
「うーん………まぁ」
「な、何か困ったことあったら、わ、私にもいってください!」
「うん。頼りにしてるよ」

 今日はもう寝よう。とても疲れたな………

★★★★★

「クライトの奴………許せねぇ!!!」
「ほんと許せないよね!!!」
「何か、あいつが嫌がる事をしてやらないと気が済まねぇ………」
「ほんとほんと!!!」
「あいつが何か俺らにとって得するようなことしたことあるか?ないよなぁ!?」
「絶対ないよ!ほんと、あいつって嫌な奴だよな~!!!」

 気絶していた彼らは知らない。このレンメル領が魔人に攻め込まれていたことを。そして、それを毛嫌いしているクライトが殆ど全てを対処したという事も。

「そういえば、あいつなんでこの屋敷来たんだ!」
「確かになぁ………確か父様に用があるとか言っていたけど………」
「じゃあ、それの邪魔してやろうよ!!!」
「確かに………いいなあそれぇ!!!」
「早速聞きに行こう!!!」
「許せないもんなぁ!!!」



 本当に。周囲の環境というものは残酷である。

 だって、半分同じ遺伝子を持つ兄弟の間にこんなにも差が生まれてしまうのだから



 芥共は顔を気味悪く歪めて嗤う。自分の幸より、他人の不幸を求めて。
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