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第4章 終幕戦編

第64話 不気味な液体

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「取り囲め!!!」
「無駄だよ」
「一斉にかかれ!!!」
「それも無駄」

 魔人と交戦を始めてから十数分経った。やはり、ただの魔人程度ならば処理は容易い。民を盾にするような下衆な戦法も取ってくることはあるけれど、それはどうにでも対処できる。〈寛容〉2式でその人だけ守ったりね。

「クソが、何も効かない!!!」
「勝てねぇ………だったら逃げろ!!!」
「逃がさないよ」

 後ろ姿を見せたら最後。戦う意思のない者の命は非常に刈り取りやすい。まぁ、届かない所から逃げられたとしても、〈慈悲〉1式で逃げた先で倒すこともできる。正直に言ってしまおう。ならば僕にとっては簡単な仕事だ。

「ほほう。これは凄い」
「ん………」

 あぁ、残念。訂正しよう。

 簡単な仕事は雑魚狩りだけだ。

「面倒な敵が来ちゃったな………」
「あなたの方がよっぽど面倒だと思いますがね」

 明らかに、先ほどとは違う雰囲気を纏う魔人が現れた。ただの魔人は強大な力を持つ故か分からないけれど、統率を取る事も出来ていないし戦闘スキルが全くもって無い。なんていうんだろうな。技術面だけだったら多分だと思う。

「さて、自己紹介でもしましょうか。私の名前は………」
「いや、大丈夫。君には死んでもらうからね」
「はは………戯言を」

 互いに踏み出したのは同時だった。単純な力は、やはり相手の方が強い。人間とは純粋に細胞単位で筋肉が違うのだ。まぁ、それ故に魔人はだから。軍勢を作っているのは少し気にかかるけれど、僕達人間の方が数は多い。

「雑魚狩りをしているからと言って、あまり調子に乗らない方が良い」
「君こそね。少し他よりも強いからってよくそんなにもペラペラと言えたもんだよ」

 剣を交えては弾き、間隙かんげきに魔法を撃ちこむ。

「………黙れ!所詮人の子、純粋なパワーでは魔人に勝てる筈が無い!!!」
「だったら、辺りの光景はどういうことだと思う?」

 剣を振って血を落としながら周りの血痕を指さす。生憎、魔人の肉体は塵となって消えてしまうけれど残った死臭や血痕がありありと過去の現場を語っている。

「属性効果だろう?普通の魔人は属性等持っていないから圧倒できるに決まっている………だがな、私は属性を持っている!!!」

 うん。あながち間違ってはいない。別に魔法や剣だけを使って戦い抜くことだってできるけれど、どう考えたって属性を使った方が強いし早い。多分、属性無しだったらこの上官を相手にしながら大量の魔人を処理しなければいけなかっただろうし。

 そうなっていないからそれは良いとして、魔人で属性持ち。かなり厄介な敵だ。

「普通ならね」
「………何が言いたいッ!!!!!」
「簡単だよ」

 そう。簡単な事だ。

「それだけじゃ、僕には勝てない」
「………あまり舐めるなッ!!!!!〈傲慢〉1式ッ!!!」
「〈傲慢〉1式」
「くッ!!!!!うわぁぁぁあああ!!!!!」
「残念」

 微塵も思ってないけれど、そう言ってみる。

 相手にとっては残念だろうから。

「効かないんだ。もう」

 属性の効果は、相手が何個属性を持っているかで効く度合いが決まる。

 そういう意味では、僕はもう〈寛容〉を使わなくたって属性に対しては効かない体になってしまった。逆に僕が相手の〈属性〉が効いたら………それは本当に危険な敵だ。今の僕は属性があるのに、効くという事は相手もそれ以上の属性を持っていることになる。普通ならば、対となる属性は獲得できないはずだから即ち相手は大罪属性か美徳属性のどちらかのを保持していることになるからだ。

「まだ、強くなる素質はあったと思うけれど」
「ぐぅあぁあああ!!!!!」

 これで終わりだ。

 土魔法で創った杭を、眼窩から突き立てた。

「これで、この地域は終わりか」

 何人かの民が居る。それは良い、だけれど………あまりに。生死関係なく、だ。

「何か………怪しいな」

 目の前で魔人の体が崩れ去っていく。技術はあった故に、属性で戦おうとしてきたのが間違いだった。それこそ、学園戦技祭の様に戦術を駆使すれば僕だって手負いの状態になったかもしれない。

 コロン、と。何かが落ちた。落としたのは僕ではない。

 魔人の崩れ去っていく体から、何かの溶液が入った注射器だった。

「なんか、禍々まがまがしい色だな………」

 色はなんていうのだろうか、しいて言うならば魔人の肌の色に似ている。ベースは紫色で、それに臙脂色えんじいろだったり深縹こきはなだの色によって趣味の悪いマーブル模様になっている。

「どんな効果があるんだろう………」

 分からない。だけど、これが僕たちにとって悪い帰結をもたらすものであることは十分に理解できた。

「うーん、まぁいいや。回収しておこう。魔人側に回収されたらまた使われるかもだしね。壊して、敵幹部の様子を見ても良い」

 まだ、征服されている領は沢山あるだろう。さっさと行かないと。

「あ、生きてる人は隣の隣の領に行けば色々とあるはずだから。頑張って歩いて欲しい。今の食糧は兵糧があるはずだし、それを好きなだけ取って行って」

 本当に申し訳ないけれど、時間が無い。呑気に僕の領まで案内している余裕なんて無いのだ。

 また、走り出す。

 体力の続く限り。

★★★★★

 4人の魔人が死臭漂う戦場の跡地に足を踏み入れる。鼻が死臭に慣れているのか、誰も顔を歪めることはない。だが、地面に数滴垂れている液体を見るとたちまち顔をしかめた。

「あんの野郎………先走りやがって」
「まあそう言う奴だったが………何が『私一人であのような小童一捻りです』だ………こんなこっちの重要機密晒して死んでんじゃねぇよ」
「あいつ本当に………だけどいいわ、別にチームにあいつが居ても連携取らないし」
「そうだなぁ。さっさと追いついてろうかぁ」

 人間の頭を手にぶら下げながら、会話を続ける。

 人道から外れているのは当たり前のことだ。

「誰かが死んでもあいつを殺すことが出来れば良いしな」
「そうだなぁ。別に俺らは生きても死んでもどっちでもいいしなぁ」
「そう。任務を遂行するだけだわ」
「はぁ………もう少し生に執着したらどうだ?」
「お前もだろうが」
「まぁな。気持ちは分かる」

 彼ら彼女らはただ任務を遂行しているだけだ。



 生きているかはどうでもいい。
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