神の使いと呼ばれた男【僕は元地球人だった気がしないでもない】

ろっこつ

文字の大きさ
31 / 62

覚悟

しおりを挟む


「つまり、カスピラーニ領から兵を退けと?」 

「はい…。出来る事でしたら…」

「理由を、聞かせて貰えぬか?」
 
 帰還後、ナオヤはエレジア国王に呼び出される形で謁見した、エレジア国王はナオヤ無事と、湖に降りた流星の凱旋を大いに喜んでくれた。
 その時、ナオヤは今回の出兵に対する申し出をしたいと打ち明け、それに応える形でエレジア王は時間を割き、謁見の間ではなく、沢山の椅子が並んだ円卓の間にナオヤは通されていた。
 現在その場には、エレジア国王はじめ、レジア軍参謀の中から将軍階級を持つ者、近衛兵団長、レジア国議を捌く議長など、国のまつりごとに関わる行政の中でも位の高い面々が数名出席していた。

「僕達は偶然レジア領に着陸しました、レジアは僕達を暖かく迎えてくださり、そればかりか、満ち溢れる恩寵まで惜しみなく与えてくださった、エレジア王、並びにレジア王国には甚謝の念に絶えません。」

「ですが、あの船の為に、その事で国同士が争って、それで大勢の人死にが出てしまうなんて… 僕はおかしいと思うんです。確かに僕はあの山へ行き、船を取り戻すために武器を使用して、何人もこの手で…」

 俯いて自分の両手をまじまじと見つめるナオヤ。
 
「だけど、いや、だから… だから流星は取り戻せた! レジア国内の法がそうさせるなら、国内に留まる他国の残党は捕縛すべきです、でも攻め入ってまで報復する必要が本当にあるのでしょうか? 僕は、エレジア王が軍を動かすと聞き、あの場所で大勢の人々が争う前に僕たちだけで終わらせたかった、そのために行ったのに… 国王陛下… 侵攻を、考え直しては貰えませんか?」

 その言葉に難しい顔を更に難しく歪ませる高官や宰相達。
 流星の使者と呼ばれた一人の若者の言葉を、重く受け止める一方で、既に敵地に近くに展開している兵を戻すという事の重大さを口々に呟いている。

「争い事を嫌う、お主の気持ちはよくわかる。四千五百年前に落ちた流星の使者もお主と同じ志を持っていたと文献にもある。だがな… これは国の威信にもかかわる問題でもあるのだ。お主は今言った。流星を守る為に戦ったと、そして僅か3名で、千を優に超えるイギスト兵を相手にし、勝った。我々も同じなのだ、国を守るため、国土と国民を守るため、覚悟あっての力の行使なのだ」

 たしかに、理想や綺麗事だけで国を動かしている訳ではないと言う事は、ナオヤにだって解っていた。
 相手は約束を破り攻め込んできた。それ相応の対応をしなければ国土を失う事になると言うのも理解できていた。
 子供じみた理想を一国の王の前で恥ずかしげもなく言っている自分を鑑み、諭すような王の言葉に二の句を失うナオヤに対し、レジア西部を管轄する将軍が椅子から立ち上がり、戦況を説明する。

「ヨシダ殿。現在、ルキア姫率いる我が三千八百の兵は、領主不在のカスピラーニ領を包囲する形で展開している。幸い、隣国オセニアラの国境封鎖、並びに海上封鎖により、イギスト本国からの増援は無く、領主が討たれたカスピラーニ領は抵抗する意思を示しては居ない。そこで、オセニアラの特使立会いの下、三国で条約破棄の原因追究やその責任を話し合う場を設けようと、折衝を試みている。イギスト本国は、あの攻撃はカスピラーニの独断だとシラを切ってはいるが、事がうまくいけば、無益な血を流さずに、カスピラーニの領地を保障占領として一時支配下に置く事も可能であると、考えられる。飽くまでレジア優位に事が運べば、だが、これだけは言わせてほしい。僅か四千に満たない勢力でこれを収める事が出来れば、これはレジアの史上類を見ない平和的解決になると、我々は考えて居る」

「それは、ほんとうですか? では、その領地を占領する際、無辜の人々が戦乱に苦しむことはないと、そう思って良いんですか?」

 少し安堵した表情のナオヤは、列席した面々の顔を見渡して確認し、それに応える形でエレジア王が話す。

「うむ。その為に今ルキアは動いておる。我々とて、好き好んで戦をしている訳ではないて、ヨシダ殿… これも全て、流星のもつ力、それを支配下に持つお主の力故なのだ。この件でお主の存在は、今やレジアだけではなく、既に各国が知る結果となったであろう、また、その動向も注目されているであろう。その力を欲した国の一つがイギスト帝国であり、それを守るのが我々の役目だと考えている。我々は太古の使者と約束を交わし、力を授かったエルフェンが間違った方向にその力を使わぬよう、言い伝えを受け継いで、それを守ってきたつもりだ。その結果として、ここまで我が国が成長出来たと自負しておる。故に、偉大なる太陽神は再びレジアにその尊き御使いを降臨させてくださった、そして、お主の言葉で我らは誤った選択をせず、今ここにあるのだと再確認できた。ヨシダ殿… お主がその力を、何時如何なる場で振るうかによって、国同士の力の均衡が左右されるのだ。我々もそれを重く受け止めている、どうかヨシダ殿もそれを、理解してほしい」

「それを聞いて安心しました。僕の浅はかな考えを、このような場を設けてまで聞いてくださり、感謝します」

「良いのだ、心優しき神の御使いよ、だが。安寧に胡坐をかいてはいかぬ、エルフェン族は長い寿命故、変化に疎く、他種から見れば常に変わらずそこに在る存在。他国は人々の代謝が早く、稀に優秀な逸材が現れ、急速に国力を強めようとも、我らレジアのエルフェンは使者が齎した技術で栄え、受け継いだ伝統を頑なに信じ、またそう在るべきと努めて来た。それを我々は守りたい」

 エレジア王はその温和な目に強い意志を込めて最後にナオヤへこう言った。

「だが、時の流れはエルフェン族にとって残酷なほど早く、人が作り出す平和は儚く脆い、お主という使者の降臨で我々も覚悟を持たねばならぬ、太陽神アラマズドの使者ヨシダナオヤ。お主は時代を変える一陣の風。どうかその目で世を見極め、そしてその覚悟を、持たれよ」

「エレジア王……」

 解散され、三々五々散っていく高官の後姿をぼんやり眺めながらナオヤは考えていた。
 覚悟を持て。最後にそう言ったエレジア王の言葉が、心に深く突き刺さるように思えた。
 突き刺さったその言葉は、棘のように深く入り込みチクチクと疼く。

 ・・・覚悟・・・

 宇宙船フロンティア号には、この世界のバランスを狂わせる力がある。ヴィータの存在もそうだ。
 科学技術が発達していた頃の、その粋を集めたテクノロジーがあの船には詰まっている。
 大量に積み込まれた物資は、人類が住める星にする為の、土台作りをする物だとヴィータは説明していた。
 ナオヤのフロンティア号二十八番機だけでそれは出来ないが、当初は住めなくなった惑星を一つ作り変えてしまう技術を持った宇宙船が、五十機でそれに当たる予定だった。
 任務の記憶を無くして居るとはいえ、船の装備を使う時、不思議と戸惑いを見せず、一度の説明だけで、使いこなせていた。説明されなくても見るだけで理解できた、戦闘になった時もそうだ、躊躇なく人間に対して引き金を引ける。
 自分が知った風に話す言葉に、自分でも何故知ってるのか解らず戸惑う事もある。
 おかしいと何度も思った。貨物室に大量に積み上げられた物資の、その大半を占める兵器の数々、調査の為とは言えやけに多いその量。辻褄が合わないと何度も感じたのに、頭ではすぐに納得して受け入れてしまう。

 急に得体の知れない不安が襲い掛かる。
 まただ、この感覚だ、今まで経験が他人の物のように感じ、他人の記憶が自分の様に感じ、頭の中をかき回されるこの感覚。

 ・・・作り変える技術? 変化? 一体、僕は何者なんだ・・・

 円卓に座り俯いたナオヤの視界がグニャリと歪む。
 綯交ないまぜになった意識が、思考の迷路に迷い込んだかのように、次々と見た事のない情景が脳裏を駆け巡る。

  爆装した機体で握っている操縦桿。

  船外服に身を包み、宇宙を漂う自分。

  膠着円盤が光を放ち渦を巻く木星系。

  大きな筒の内側に暮らしている沢山の人。

  変わり果てた地球と、そこに残された人類。

  教官の怒号と、泥まみれの戦闘訓練。

  重火器を持つアンドロイド。  

  ライフル越しに倒れるイギスト兵の顔。

  重力の心地よさとイーノイの優しい笑顔。


 ・・・イーノイ・・・



 「おい。誰かッ! ヨシダ殿が倒れたぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...