神の使いと呼ばれた男【僕は元地球人だった気がしないでもない】

ろっこつ

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種付け

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 百匹ほどゴブリンを撃って居ると、銃身が熱くなり狙った場所に弾道が届かないことが多くなる。

「銃が熱くなってきた」
 シールドに乗せた銃口から煙を薄っすら上げ、グリップ部分に拡張マガジンが装填されハンドガンを握り直し、ゴツゴツした岩の壁面をバックパックをクッションに凭れてぼやく。

「まとめることが出来れば、わたしが何とかします…」
 岩の突起の狭い所に、小さくしゃがんだイーノイが、自信ありげに、囁いた。

「イーノイ、僕の知らない間に…」

「だって、守られてるだけじゃあねぇ」
 イーノイはお道化るように敢えて明るく話すが、内心には以前に見たナオヤの涙も大きかった。
 イーノイはニヤリと含んだ笑みを浮かべると、ピンク色の形良い唇を八重歯で引き攣らせ、立っていた突端からピョンと軽い身の熟しでナオヤの真横にふわりと裾を膨らませて着地する。
 裾からは白く、そしてかたち良く実ったお尻の肉と、長く美しく撓る彼女の尻尾が、ナオヤの鼻先を掠める。
 ナオヤは、ふぅふぅと、排熱の悪そうなハンドガンの銃口に息を吹きかけ、イーノイが最近見せる積極的な態度でドキリとする心臓にかかる負担を、その息で誤魔化す。

「じゃあ、お言葉に甘えましょうかね?」

「お任せあれっ、ナオヤさん」

 言いながらナオヤは、ハンドガンをホルスターに仕舞い胸の位置に短くタクティカル・スリングで括られたアサルトライフルに切り替え、それの12ゲージの銃口ごとシールドの窪みに有る小さな銃座に銃口を乗せる。

「じゃあこれから、音を出して追い立てて集めていこう」

「了解した、百メートル程先から4匹、うち一匹はオーク」

「でかい割に頭小さいんだよなアイツ…」

 派手な発砲音を発生させ行進するナオヤと、その後ろに控えて着いていくイーノイ。
 それを見守るヴィータ。
 地面や壁面は湿気を帯び、所々には地下水の水溜りもあり、流れている所も見られる。
 水の中に漬かりながらも涼しい顔で進むナオヤとイーノイが着用しているボディアーマーは特殊繊維で出来ており、湿気や一定の熱しか通さず、着用者に不快な付け心地を感じさせない。
 暗い空間にマズルフラッシュが光る、一度。時には二、三度。光る度に奥でゴブリンかオークが倒れる。
 ゴブリンは逃げるのが殆どだが、オークは大抵音で寄って来た。
 発射音は壁に反響して見えそうな程に増幅して駆け巡る。
 
「ヴィータ」

「なんだ」

「この弾丸… 強装弾だろ…」

「そうだ、弾頭の色で気が付かなかったか、通常弾や実包だって限りがあるんだ、ナオヤはこの先をを考えているのか?」

「考えているよ… ハンドロードするんですよチマチマとッ!、ただ後でこの銃の調整が大変だなって…」
 言いながら引き金に架ける指に力を入れると、何時もより大きな光の塊が雪の結晶を火炎で模る。

 正面からは液晶パネルに映る湿った岩が廻りの景色に完全に溶け込み、一瞬の光と破裂音がすると既に体のどこかに穴が開く。
 この音と光の中、隠れていた数匹をヴィータのショットガンが漏らさずハチの巣にする。
 シールドの裏からファンが回り、風は銃口にあたり、熱せられたそこを冷却している。
 マガジン内残り5発を示す赤い曳光弾が真っすぐ跳び、岩に当たり斜めに大きく跳ねる。
 シールド内の覗き穴には銃口と同期したレーザー光が、真っ暗な筈の洞窟内を、後ろのヴィータが発する広範囲の赤外線で、ぼんやり明るく照らされて見える。
 ヴィータはタンクの付いたガンでロープを発射し、風の影響を受けても絡まない様にロープを編んでゆく。

「ここは一体何なんだ」

「ゴブリン共の巣だろう」

「ナオヤさん、あそこ」
 いうが早いかイーノイがヒョイヒョイと岩を伝い、途中苔で滑るが尻尾でバランスを取り、高い位置まで登ると、顎を上げ奥を遠目に。

「お~… 集まってる」
 奥にはうようよと蠢くゴブリンの頭が、百から150程確認できる。
 スルリスルリと猫の様に、音をさせずに岩を伝い、イーノイは全体が見下ろせるのり面の上に陣取った。
 ナオヤもそれが見える位置に上がる。
 見下ろしたイーノイが小さな鼻からフンスッ!! と気合の鼻息を漏らす。

 右手の手首に左手を添え、全体を掴む様に、優しく空を掴む。
 青く透き通った瞳を、金色の睫毛を美しく茂らせた瞼が覆った。

 すうっと魔磁場の力線が立ち昇り、イーノイの右手からするりするりと螺子を巻きながら延びると、次の瞬間空間の温度が一気に下がる。
 魔力線の伸びる場所の気圧が瞬時に下がり、いつの間にか洞窟内に雲が出来ると、それが徐々に渦を巻いて高速でゴブリン達の集団の方へ伸びてゆく。
 
 ナオヤは竜巻を利用した魔法を使うのだと理解した。
 次第にその強力な回転から生まれた渦の中心に静電気を帯びたチューブが生まれると。

・・・ヴヴシュゥ!!・・・

 ゴーグルは真っ白になり、イヤーマフがブツリと太い音を出す、すぐにキューンと悲しげな高音を微かに残して、再起動し始めた。

「ゆっくりと空間に現れるような稲光だ」
 観測したヴィータが言う。
 だが、その凶悪な電圧は、直撃した数十匹は体中の水分を瞬時に沸騰させ破裂し、その周りは、立ったまま引き攣ったゴブリン達の半分ほど焦げて炭化した躯が至る所に倒れている。
 今の一瞬で5発の落雷をゴブリンの群れにイーノイは落とした。

 ナオヤの考えの更に上を行くありえない速さと威力の魔法だった。

「マジかよ…ッ 」
 光景を見渡し、ナオヤの背中から延びるホースの先を口に当て、酸素を吸っているイーノイと、巻き上がるゴブリンの焦げる熱と煙に顔を顰めるナオヤ。
 イーノイの疲労を見るに、連続使用は控えたほうが良さそうだが、範囲マスで威力を発揮する様で、タイミング次第では、フラグや、炸薬を使うより効果的にゴブリンを駆逐する事ができる。

「フぅ… ふゥ… ふぅ~… はぅ… ひゅぅ~」

「イーノイッ!! やばないっ?」

「や… やば、やばいでしょ? フフ… ふぅ~」
 大きく深呼吸したイーノイも、徐々に落ち着きを取り戻した。

「誰か我々を追うように入ってきたようだ」
 ヴィータがロープを触りながら、後ろを見ている。

「追いつくまで、どの位だ?」

「約2時間だな」

 




  レジア王国首都、エルダニア。



 城内の円卓の間には、ギムリアを含め三名が卓を囲んで座り、議論を白熱させていた。

「オルゲルト殿、使者三名とも冒険者ギルドに登録させてしまって国の保護下を離れてしまう恐れはないか?」
 ギムリアが懸念を述べたのは冒険者ギルドの長、オルゲルトだ。彼はマヘス特有の獅子の頭を捻り、大きな体から延びる太い腕を組み、暫らく考えてこう言った。

「全くないとは言えないが、手っ取り早く仕事がほしいなら冒険者として登録してもらうしかないと思うが」
 オルゲルトの言葉に反応し、もう一人の女性エルフェンが机に手を付き椅子から腰を上げ、良く通る声で異を唱えた。

「いやいや、何故三名全員を登録させねばいけない?オルゲルト殿、先の出兵で冒険者から傭兵を募り、人員が不足したからとはいえ欲張り過ぎでは無いですか」

「シャマーラ。魔学研が元宮廷魔術師から得た情報にある、ヨリョトリ家のテスカや、流星のゴーレムを研究材料にしたいのは分かるが、それで彼らが食っていけるだけの充分な給金が払えるか? 魔学研の収益はその殆どが国からの援助に頼ってるではないか」

 そう言い返され奥歯を噛む様な表情を見せ、椅子に再び腰かけたのが妙齢のエルフェンの女性。
 魔法術学研究所。通称、魔学研の所長であるシャマーラだが、彼女は言われっ放しで引っ込む性格の持ち主ではない。
 エルフェン特有の整った切れ長の鋭い目付きでオルゲルトを睨み、冷たい声で言い返す。

「では? その給金を払うに当たって、彼らは一般市民ではない、その彼らに満足できる充分な給金を払える任務を与えるとして、生還率四割を下回る任務を、まさかまさか国の保護下にある重要人物にさせようと、そう仰るのですか?」

「よッ、四割を下回ったのは、ムンゴア連峰のドラゴン討伐の時だけだ!」

「あの時わたくしの魔学研から出した魔術師、及び錬金魔法師は全滅し、甚大な被害を被ったのです! その時指揮を執っていたのはオルゲルト殿ッ! 貴方だ!」

「何時まで根に持ってるんだッ!」

 オルゲルトは大きな牙を剥いてシャマーラを噛み殺さんばかりに睨みつける。

「これこれ。両名とも少し落ち着きなさい」

 激しく睨みあう二人を窘める様にギムリアは立ちあがって両手を掲げた。
 冒険者ギルドは、その広いネットワークを使い、王国の正規兵が対応できない地域の集落の警備から雑用、または傭兵招集までを引き受ける組合である。

 一方、魔法術学研究所は、名前の通り魔術の研究や錬金魔法による魔具、触媒と言われる術士御用達の杖等の制作を担い、割合的に小数な魔術師達を束ねる機関でもある。
 両機関とも王国との繋がりは深く、国も一定の補助を与え支援し、双方にとって得のある良好な関係ではあるが、シャマーラが指摘したドラゴン退治の一件が有ってからは両者は犬猿の仲となり、良好な三角関係は崩れてしまっていた。

 ギムリアはナオヤに約束していた仕事と、電波塔設置の許可の件で二人を呼び、話し合いを持たせ、あわよくばこの二人の仲を取り持つ考えでもあったが、状況は如何せん良い方向に転びそうにないと判断し、悪化させる前にこの場を収めようとした。

「この場に二人を呼んだのは儂の失敗だったわい…。御両名とも、今日はここまでにしよう、取っ組み合いになってはかなわん。取り敢えずは当事者である使者三名に話を通して見るでの、これは本人あっての事だ。どちらに転んでも使者には国から何かしらの手当を付ける、以後こちらから連絡するとして… これこれ。そういがみ合うなというに」

 円卓の間に一人残ったギムリアは、難しい顔を殊更歪め深く深くため息をついていた。

「失礼しますッ!!」
 そこへマヘスの兵が駆け足で現れた。

「今度は何…」

 





「おい… この音? これはなんだ?」
 グオングオンと奥から破裂音が聞こえてくる。
 剣弾の音でもない

「何の音だか、お前解るか?」
 マヘスの耳が奥の方を向いて、時より逃げてくるゴブリンを、斧で弾き飛ばす。

「何か、連続で… 連続で破裂している様だ、この風切り音… これは… 礫…? いや… こんな速く…」
 エルフェンの女弓術士は目を閉じ、耳を聳てて眉間にしわを寄せて言う。
 そして自分で撃った弓が刺さったゴブリンの躯からそれを抜き、一振りして血を振るい落とし、矢筒に放り込む。

「さっきはでかくて複雑な魔法も撃ったみたいだ、うちらの他にもう、王国の主力部隊が入って居いるんじゃないのかい?」

「そんな筈はねェ… そんな早い筈がねェ…」

 それから音はピタリと止んだ。
 足音を殺し進む4人の冒険者、彼らは王国でも屈指の冒険者グループ、マヘスの戦士、エルフェンのレンジャー、人間の剣士と魔法使いというバランスの取れた構成のパーティだった。
 猫の神バステトに似せた兜の面をあげ獅子の顔で暗闇を睨みつけ、一歩一歩音を殺し進むリーダーのマヘス、アマル。
 軍を退役した後、冒険者となった熟練の狩人女エルフェン、クルークェ。
 出会っですぐに結婚した冒険者夫婦、剣士のダンと、魔法使いのアンリ。

「ラーの娘バステト神… 捧ぎたもう我が身を使ひて深淵へと引き摺りこむ卑劣かつ」

 ブンっと斧を撃ち上げるように振るうと。

「悪俗で滑稽なる魔物からこの魂拍を守り別つ事無く…」

小さなゴブリンの上半身が天井目掛け飛んでいくが、天井には届かず放物線を描くよう飛び奥のゴブリンにヒットした。

「導き賜へ…」





「向こうからも誰か来ているな… 面倒だ… 僕らは殲滅から捜索に切り替え女性を探そう、僕のシールドをヴィータが持ってよ」

 ナオヤが双眼鏡を覗きながら、10メートル程天井高のある洞窟の壁面に穿たれた入口の距離を見ている。

「おっとっとと…」

 イーノイは相変わらず狭い足場の上を、尻尾でバランスを取り、器用に伝っていく。

「ではこれから私がポイントマンになろう」

 そう言うとヴィータは盾を構え、ナオヤの前をナオヤの歩幅で進む、ナオヤはヴィータの肩に手を置き、クロスする様にアサルトライフルの銃口を手首の上あたりに置いた。

 通りを出て来たゴブリンが、シールドに映る岩の風景を首をかしげ、間抜けにも眺めている。

「ギュッ?」

 頭に着剣出来る様加工したアサルトライフルの銃剣が刺さり、串刺しになったゴブリンがドサリと音を立てて倒れる。
 角を曲がる先には沢山のゴブリンが居る事が、その耳障りで鉄を裂く様な声な高い鳴き声で分かる。
 合唱するよう短く声を上げて居るのが聞こえてくる。

「すっごい臭いがするよ… その先から」

 イーノイが鼻を抑えている。

「入るぞ…」
 短く言うとナオヤはヴィータの肩をポンポンと叩いた。

 中は地獄だった、この世の地獄とはここだった。
 子供、少女、老婆、百近い女子供に跨り、腰を振るゴブリン、一人の膝を二匹で開き、もう一匹がキノコの様な細いペニスを挿入しては、腰をありえない程一瞬で激しく振るい、奇声を上げ、果てる。
 そこでも、奥でも、手前でも、そんな光景が繰り広げられている。
 腹を食い破られた死体の上で、女性たちは股を開かされ、強姦され続けている。
 腹は膨れ上がり張り裂けんばかりだ。

「ヴォ ェ…ッ!」
 思わず嘔吐いてしまうナオヤ、後ろのイーノイは更に鼻が利く、相当な臭いがしている筈だ。
 強姦されている女性や子供の意識はまるで無く、苦悶の表情で白目を剥き、あるものは歯を食い縛り、ある者は顎が外れる程開き、そして意識の途絶えた目から涙を流している。

「遅かった…」
 アサルトライフルを構えてナオヤが言うと、ヴィータはショットガンのスライドを引いた。

「そうだな…」
 倒れないように立てられたシールドの後ろで、イーノイは体育座りをしながら、ナオヤとヴィータが発する終らないマズルフラッシュと、連続する発射音を目を閉じたまま聞いていた。
 小さい子供、赤ちゃんすら中には混ざっていた。

「救うことが出来なくて… ごめんね」
 

 





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