50 / 62
単独行動3
しおりを挟む先頭を切って雪崩れ込んだマヘスの豪快な戦斧の横薙ぎが、数匹のゴブリンを肉片にし、それに続いたエルフェンの華麗な槍裁きで、また数匹のゴブリンが突き倒される。
混乱し、曲剣ファルシオンを振り回すゴブリンの剣を盾で受け、素早い一閃で袈裟切りに切り倒す剣士。
後ろを振り返ると、ナオヤが陣取る建物と同じ高さの廃墟に隠れていた弓術士が達が、矢継ぎ早に矢を射かけている。
雨のように降り注ぎ次々に敵を倒し、白兵戦を生業とした戦士たち、そして遠隔攻撃が得意な戦士達は、怒涛の勢いでゴブリンを駆逐していった。
頼もしい冒険者たちの動きにナオヤ自身も鼓舞された。
・・・よし、殺しの間の方もうまくいってる・・・
完全にゴブリンを分断し残った集団を、通路の戦士達が押し返している頃、殺しの間と勝手に名付けた場所の両脇に陣取っている弓術士は、残り半数のゴブリン達が居る前方に移動し、今度は立ち往生している集団の両脇に素早く陣を構え、再び上から矢を射かける。
それを合図に通路の戦士はじわじわと後退する。
「やったか… ? や… やったのか!?」
炸裂した爆薬に慄き、降り注ぐ砂に頭を抱え丸くなっていたロタ副隊長は、今更戦況を把握したようだ。
「第一段階は上手くいったみたいです」
設置隊が陣取っている入口付近から狼煙が上った。次の陽動を促す合図だ。
「よし! 次が来るぞッ! もう一度持ち場に着くんだ! 同じように僕の合図で開始するぞ!」
ふと、ナオヤの横でおろおろと落ち着き無くしているロタ副隊長が目に入った。
「副隊長、しっかりしてください! アンタが指揮を執らないでどうすんだよ! 我々はアンタに命を預けているんですよッ!?」
「いや… だって、初めてなんだ! こんな作戦になるなんて聞いていなかったし…」
あからさまに嫌な顔をつくってナオヤは口に出してしまった。
「初とか特に関係ねぇだろ!!」
心の中で盛大に舌打ちをし、現状を呪うが状態は芳しくない。
護衛と調査。戦闘の危険あり。銀剣以上の階級で戦闘経験のある者。
そう言う任務内容だった筈だが。
危険は無いとヴィータとイーノイに説明したが、今は五倍の敵を相手する作戦に挿げ替わっている状況。
「ばっかじゃねーの」
後方の殺しの間に引き上げていく弓術士が、ナオヤの横を通りしな、副隊長を見下ろしながら吐き捨てる様に言った。
ここへ来る途中ナオヤに声をかけてきた弓術師だ。
「このガキはもう駄目だ…、あんたが冒険者の指揮を執れ。こんな奴に命を預けられねぇ」
「けど…」
「良いんだよ、あんたの魔具はよくわからんが、かなり強力だ。そして全体を良く見てくれている、こんな使えねぇ副隊長なんかよりよっぽど信頼できる。…ほら。早速おいでなすったぜ」
考える余裕などなく急に言い渡された指揮権、通りの向こうからは今度は黒い服を着たの女が駆けてくる。
その背後からはゴブリンに混ざり、一際背の高い集団が目についた。
ナオヤはサブマシンガンのマガジンを素早く交換し、作戦は第二段階入った。
「よし! 第二派はオークも居るぞ! 次の合図はさっきより小さめの炸裂が6発!! そことそこ、この周辺もだッ!! 石や破片を撒き散らすから通りに顔を出すなッ!」
「なんつーおっかねえ魔具だ」「これ程強力な魔術は見た事ねぇ!」「楽しくなってきたじゃねーかッ!!」
ナオヤはハーネスに付けていたフラググレネードを二発手に持ち、通りの奥を凝視し、そのまま廃墟屋上に身を隠す。
敵部隊を連れてきた女の足音は、軽い足取りで角を曲がり、ハウンダーの冒険者と同じように廃墟に身を隠す。
「全体が間延びしているな… オークとゴブリンの移動速度の違いか、いいぞいいぞ……」
ナオヤは先頭のゴブリンをやり過ごし。フラググレネードのピンを抜き、ちょうどオークの集団の頭上にそれを放った。
数秒の後、鋭い破裂音が立て続けに、しかも一瞬で6ヶ所から同時に聞こえる。
目の前で炸裂した榴弾の破片を受け、数匹のゴブリンが腕や足を飛ばされその場に倒れる。
そしてそれに続く数体のオークはその屈強な体躯に無数の破片を浴び、即死とまではいかないが致命的な傷を負っている。
その合図を皮切りに、再び冒険者たちが通りへ飛び出してく。
「我に続け!」「喰らえオラァ!」
剣戟と怒号が激しく交差する通りに、素早くサブマシンガンを構え、殺しの間に入りそびれたゴブリンめがけ短く二発ずつ確実に弾丸を浴びせるナオヤ。
横目で先ほどナオヤに指揮を執れと言い残したエルフェンの弓術師を見る。
なんと彼は矢を三本ずつ番え同時に放っていた。その華麗なテクニックに目を奪われてしまう。
目があった彼は意味有り気にニヤリと笑みを零す。
その時、通りではない全く予想していない方角から瓦礫が崩れる音がした。
何事かと音のした方角を見ると、廃墟の街並みより頭一つ抜きに出た一つ目巨人が、大きな棍棒を手に、石造りの建物を破壊しながらこちらへ向かってきた。
「クソッ…サイクロプスだ! このままでは陣形が崩れる」
「どうするよ!?」
「僕が足止めするッ! ここは任せたぞッ!」
「おいッ! あんた一人じゃ…」
素早くアサルトパックを担ぎ、崩れた屋上から瓦礫の足場へ飛び降りる。
一つ目巨人は牛の様な野太い雄叫びを上げ、目の前の廃墟へ手当たり姿態に棍棒を振り下ろし、通りを無視して建物を破壊しながら進んでいる。
ナオヤはルキアたちが巨人と戦っていた時のことを思い出していた。
何かで注意を引き付ける必要がある。
少し離れた瓦礫の山にたち、アサルトライフルの狙いを巨人の顔へ向け数発発射する。
大きな顔へ集弾性に優れたサブマシンガンの弾をうけ、巨人は一つしかない目を瞑り顔を顰める。
剛体には強力な貫通力を持ち、軟体へ打ちこまれると不規則に体内で回転し、絶大なストッピングパワーを持つこの弾丸を受けた巨人だが、やはり相手の身体は大きく、数発を頭部へ打ち込んだだけではその動きを止めることはできない。
「こっちだ木偶の棒!」
だが巨人の注意を引き付ける事は出来た。
そのまま巨人へ向け、ライフルのマガジン内の弾を全て弾き出す。
強烈なマズルフラッシュで銃口が自ずと上に上がって行くが、それを腕の力で押さえ付け、膝を中心に集弾させ、動きを鈍らせる。
「グモォォォ!!」
嫌がるそぶりを見せ、下半身に穿たれた銃創から激しく血を流し、肉を飛ばしながらも、巨人の持つ大人一人分ほどある棍棒が、ナオヤが立っていた場所へ振り下ろされる。
地響きと共に瓦礫が弾け飛ぶ、土煙とはじけ飛ぶ瓦礫の塊が、爆発するような軌道で薙ぐように広場を舐めていく。
マガジンを素早く取り換え、更に集中し狙いを定め引き金を連続で引き続けると、弾丸はその太く大人の胴よりももっと太い膝を貫通した。
膝を崩し、地面に手を突きナオヤ目がけて振り下ろされた棍棒は、狙いを大きく外したが、巨人の目はナオヤを捉えて離さない。
大きい肉の塊、ものすごく巨大な質量だが、時にありえない速さの動きを見せる事がある、一旦は離したこん棒を素早く手に取った巨人はそれを横なぎにナオヤ目掛けて振り回す。
ナオヤは思い出した。ルキアが開けた場所に出すなと叫んでいたことを。
「やば…い ……グハッ!」
後ろへ飛び退いて躱そうとしたが間に合わなかった。
棍棒はナオヤの身体を捉え、弾かれたナオヤは錐揉みするように吹き飛ばされる。
骨がきしむような衝撃、視界がぐるぐると回り、止まった所で全身に走る痛みがナオヤの顔を歪ませる。
うっ血しているのか鼻が詰まっている、血が溢れているような臭いがする。
ボディスーツはある程度衝撃を吸収し普通なら骨が砕けていても可笑しくない衝撃を脱臼程度まで軽減させていた。
血の味がする唾を吐き、ナオヤは起き上がろうと顔を上げた。
・・・クソッ…肩が、抜けてる・・・
大きな巨体が両手に棍棒を振りかざし、絶対に逃すまいとする巨人の一つ目がナオヤを見下ろしていた。
「まずい…… これはまずいぞッ!」
起き上がろうにも言う事を聞かない身体、瞬きすることも出来ずにその場に固まるナオヤ。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ」
利き手ではない方でアサルトライフルを手繰り寄せる。
巨人の膝が力む時、その骨がずれ、肉が伸び、腱が千切れた。
一瞬よろける巨人。
一つ目巨人は野太い雄叫びを上げ、力の入らない膝から大量に出血させている。
だが怒りで痛みを感じないのか、破壊された膝を庇う事無くまたそこへ力を込め、手にかけたこん棒を振り被り、上段で構え、大きく力を溜めて振り下ろそうとした時。
巨人の顔に黒い何かが張り付いた。
黒い服を来た女だ。先ほど敵を引き付けて来た斥候の女か。
その女は軽い身のこなしで巨人の顔面に張り付き、両手に持ったナイフを巨人の一つしかない目玉に、下と上から摘まみ出す様に突き立て、ぐるりと眸をかたどる様に抉りまわし、筋を切り出し神経を断ち、取り出した。
「モガァアァァ!!」
眼球を深く抉られた一つ目巨人は振り上げた棍棒を落し、顔を両手で押さえる。
女は巨人の顔から弾けるように離れ、黒い髪をなびかせ、空中で二度回転しながらナオヤの前に音もなく着地した。
ナイフの先から拳三つ分ほどある眼球が、べちゃりと音を立て地面に落ちた。
振り返る無表情な顔。
「お前…」
その顔は表情一つ変えずナオヤを見下ろしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる