どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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切欠。あるいは綻び

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 切欠はあっさりとやってきた……と思う。
 あまりにあっさりで罠かと思う程簡単に。

 その日、私は何時も通りトーネ先生の指導を受けていた。
 ただこの日はシュティン先生の密かな指示で【精霊眼】を発動させていた。
 私の【精霊眼】はどっちかと言えば精霊を視る事に特化していて、魔力の流れとかは気合を入れないと視えない。
 とは言え視えない訳じゃないし魔力の流れを知る事は戦いにおいて大きなアドヴァンテージになる。
 ってな訳で私は今【精霊眼】を発動して指導を受けていた。
 トーネ先生にはスキルの事は言っていないから、私が何をしているかなんて分からないはずなんだけど、直感的に私が魔法を見極めている事には気づいたのか多種多様の魔法を使って指導をしてくれた。
 全部下級とはいえ、多彩な魔法の数々は見ていてとても凄くて視ていてとても美しかった。
 見惚れたらあっという間に叩きのめされるからそうならないように気を付けているけど。
 
 【精霊眼】は精霊を視る事の出来るスキルだ。
 だから気づいた。
 侵入者とも言える男性二人、その内の一人を取り巻く精霊の異質さに。

 結果的には牙城を切り崩すための一歩となる。

「ダーリエ。何て野蛮な事をしているんだい?! 淑女とは思えない有様じゃないか!」
「(げっ!? 自称君! 何でここに?)――あら、マリナートラヒェツェ様? レディをまつ事もしんしのたしなみですわよ!」

 私はここ最近で使い慣れた我が儘お嬢様の仮面を被るとタンゲツェッテに向き直る。
 【精霊眼】を解除しなかったのは別に深い意味があった訳じゃない。
 こんな自己中心的で差別意識の強い人間でも魔法は使えるみたいだから精霊がどれくらい周囲に存在するのか。
 いわば好奇心や実験対象的の観察的なモノに近い感情で解除しなかったのだ。
 それが切欠になるんだから世の中は分からないモノである。
 
「そもそもさきぶれもなく来るなんて」
「君と僕の仲でそんなモノ必要ないだろう?」
「(どんな仲!? 親しき仲にも礼儀ありだし、そもそも貴方とそんな親しい関係を築いた覚えありませんが?)――あら、レディにはじをかかせるおつもりですの? 女性はつねに美しいすがたをみせたいモノなんですのよ?」

 例え、アンタみたいな招かざる人間でもね!
 いや、そういう人にこそ弱みともなる素の部分を晒せる訳がない。
 特に努力している泥くさい所なんて絶対見せられない。
 大体私は錬金術師になりたいのだ。
 錬金術に採取作業は必須。
 外に出て自らの手で、目で見る事で材料を手に入れる。
 創りたいモノ、脳裏に描き出したモノを実現するために日々研究する。
 その根幹ともなる材料を完全に人任せにする訳がない。
 そんなんで錬金術師は名乗れない……名乗っていいはずがない。
 だから最低限の戦闘技術は必要になるに決まってる。
 例え護衛を雇う余裕のある人間だとしても、護衛の人間が動きやすいように立ちまわれるだけの知識と動ける体が必要となるに決まってる。
 それを培うための講義を野蛮などと貶される謂れなんて、ない。

「君はどんな姿でも美しいと思うけどね。まぁ愛する人間に自分の良き面を見せたいと思うのは当然の話か」
「(逆なんですけどね?)――では今日はおかえり下さい。次はおわびをきたいしておりますわ」

 ニッコリ笑って言ってやる。
 正直、コイツからの謝罪の品なんて要らないし、言葉も要らないから二度とくるなと言いたいんだけどね。
 はっきり言っても分からなさそうだし、言ってしまいたい所だ。
 ……言えたらどんなに胸がすくか。
 今は耐える時だと自分に言い聞かせて、私はフェルシュルグの方を見た。
 視た事に対して意味は無かった。
 だって【精霊眼】は発動している状態だっただけだし、タンゲツェッテだけではなくフェルシュルグも観察対象だったから。
 本当にそれだけの理由だった。
 
 だから感じた衝撃を逃す事も忘れてフェルシュルグを凝視してしまった。
 フェルシュルグを取り巻く精霊と、その精霊の「色」が想定とは大幅に違ったがために、その衝撃はかなり大きかった。
 思いもよらない、そして有り得ないと咄嗟に思ってしまうくらい、フェルシュルグは異質だった。
 
 フェルシュルグは茶色の髪に琥珀色の眸の男性だ。
 その色は【土】の属性色であるが貴色ではない。
 それでも【土】の加護を得やすいのは事実なので、黄色の精霊が舞っているのは理解出来る。
 それだけだったら私も驚いていない。
 驚くは黄色以外の色……濃淡様々な【光】の精霊が飛び交っていた事だった。
 【光】の貴色は白と金色。
 白は濃淡は出にくいから判別は付かないけれど金色は濃淡が分かる。
 白の光と様々な金色の光がフェルシュルグの周囲を飛び交っているのをこの眸は色彩の鮮やかまでキッチリと映し出していた。
 しかも【光の女神】に属する【火】と【土】の精霊もそこに混ざっていてちょっと眼に痛いくらい色彩豊かにフェルシュルグを取り巻き舞っている。
 
 私はこの光景に酷似したモノを知っている。
 これはお父様やお兄様を同じだ。
 【光】の貴色を纏っているお二人の周りは色鮮やかな精霊が飛び交い、目が痛くなると思っていた。
 【闇】の貴色を纏っているシュティン先生だってそうだ。
 どちらにしろ、フェルシュルグを取り巻く光景は私に強い既視感を齎したのだ。 
 ……これは本来は貴色をその身に宿す人間しか見られない現象、なのだと思っていた。
 更に言えば身に宿す色とは違う精霊が此処まで多く周囲を舞う光景なんて見た事が無い。
 
 私は今未知の現象を体験していた。
 
 被っていた我が儘お嬢様の仮面も、不審がられないようにあくまで傍付きの人間がいると思っている程度の視線しか向けなかった事も、今までの努力の全てが一時的にすっぽ抜けた、と思う。
 ただ未知の現象を探る事に私の意識は持っていかれていた……痛恨のミスだった。

「(一体彼は何者? この世界では一般的なはずの茶色の髪と琥珀の眸のはずなのに、【土】の精霊よりも【光】の精霊の方を多く纏っているなんて。それによくよく見ていると【闇】の精霊にも随分好かれているように見える。色の判別が少し難しいけど……【眼】の標準を見分ける事にシフトチェンジすれば分かるはず。――あれ? 今フェルシュルグの輪郭が歪んだ気が?)」

 頭はスゴイスピードで回転していた。
 けどそれは私の好奇心にも探求心を満たすためのモノで。
 今まで「何故」耐えていたか、それをすっかり忘れていた。
 だって……――

「ダーリエ? コイツがどうかしたのかい?」

 ――……とタンゲツェッテに、あのタンゲツェッテに気づかれて問いかけられる程凝視していたのだから。
 我に返った時はもう遅かった。
 私はその場にいる全員の視線を一心に受けていた。
 
「(不味い!)」

 シュティン先生とトーネ先生は問題無い。
 後で事情を説明すれば良い。
 少々内部事情にも触れるが、お父様と御友人、という訳だけではない関係だと思うお二人ならば既に知っている事柄の可能性が高い。
 だからそっちは取りあえず問題は無い。
 タンゲツェッテもまぁどうでも良い。
 誤魔化す事はきっと出来るだろう。
 彼は私の事を我が儘お嬢様だと疑いもしないのだから。
 だから問題は……今なお表情一つ変えない目の前にいるフェルシュルグだった。
 今更見ていないなんて言葉言えない。
 鈍い人間ですら気づいていたのに気づいていない訳がない。
 私を見る目には何時だって無感動を装い、眸の奥底に悪意を宿している。
 この悪意に晒されると私は何時だって一瞬身がすくむのだ。
 私は目の前の相手に悪意を持って害されたのだから。
 今だって何を考えているか分からない。
 けど、それが私にとって良くない事だと言う事は分かる。

「(私が何処まで普通じゃないと知られているか分からない。これ以上私の素を晒す訳にはいかない。手札は、切り札は多い方が有利に決まっているのだから)」

 最善策は……見ていた事は認めつつ、理由を誤魔化す事。
 嘘をつく時バレにくいのは数多の嘘の中に真実を混ぜる事。
 ……まぁ本来は数多の真実の中に混ぜられた一欠けらの嘘、なんだけど、今回はその手は使い無いから仕方ない。
 虚実を混ぜる事でどれが真実なのかをくらませるしかない。

「(理由を考えろ。我が儘お嬢様らしい、呆れるような幼稚な理由を!)」

 その時私は僅かに花の香を感じた。
 此処には花は無い。
 だって魔法や戦闘を行う際、ぶつかったり、踏んでしまったりしては悲しいから。
 なら、この花の匂いは?
 視線を分からない程度に下におろす。
 それを見つめて私は内心安堵の息を付く事が出来た。

「(有難う。これで言い訳が出来る)――おみあげがあるならさっさと出せばよろしいのに。それとも他のだれかにおくり物でもなさるつもりでしたの?」

 私は面白くなさそうに笑いフェルシュルグが持っている花束を指さした。
 こんなに目立つ物に今まで気づかなかったってのも結構問題なんだけど。
 今、そこを反省してもしょうがない。
 私の背が低くて初めて良かったと思った……今はまだ子供だから背が低い事は仕方ないし年相応なんだけどね?
 お詫びの品として最初に持ってきた匂いのキツイ花。
 好みではない自己顕示欲だけは強い彼のような花。
 だけど私は今それに救われてしまった。
 ……あまりいい気分はしないけど、致し方ない。
 綻びを先に私が作る訳にはいかないのだから。

 案の定タンゲツェッテは私がこの花を……ひいては自分に気があると勘違いして「君以外に目を向けた事はないよ、愛しのダーリエ」と囁き私に花を持たせた。
 地面に叩きつけてやりたいけど我慢する……私、今相当無理矢理笑顔を作ってる気がする。

「ふん! 花をこれみよがしに持っていたから気になっただけですわ!」
「君に渡そうと思い持ってきたものだよ。だからそんなに怒らないでくれ」

 謝罪に全く誠意が感じられない。
 これって一種の才能な気がする……心底要らない才能だけど。

 タンゲツェッテはその後も公爵家の庭を貶しつつ、戦闘技術を野蛮と言いつつ、言うだけ言って帰っていった。
 侮辱罪だけで捕まえられる程度の暴言を聞き流して、意識の大半はフェルシュルグに向ける。
 今度は視線を向ける事は極力さけて、でも見た時は最大限情報を引き出せるように。
 御蔭で二人が帰った時、私は精神的に疲れてしまった。
 
「(けど、それだけの価値はあったと思う)」

 切欠がようやくやって来たと思った。
 この機会を最大限に活用しよう。
 堅牢な牙城ではなく、砂上の楼閣だと思い知らせて見せるわ。

「(さぁ切り崩してあげるわ。二度と同じ事を言えないように確実に、けれど完膚なきまでに。それだけの事を貴方方はしたのだから)」




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