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変わった事と変わらない事

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 王都での一連の騒動が無事とは言いづらいけど沈静化したから、私達は領地の屋敷へと戻ってくることが出来た。
 いやまぁ結局第一王子とも第二王子とも縁が切れる事は無くて、領地に帰ってくるまでも交流は続いたし、今後も切れそうにはないけど。
 この世界は『ゲーム』じゃない訳で、必要以上に王子達を避けるのは間違っているだろうし、別に個人的に嫌いな訳じゃない……んだけどね?
 ただ今後交流していけば地位に付随する面倒事には巻き込まれる訳で。
 其処までしても彼等と付き合っていきたいか? と問われると、ねぇ?
 それなりの距離で親しい知人程度ならともかく彼等が今後私の懐に入る程付き合いが出来るか、となると難しいと思うんだよねぇ。
 ま、未来の事は分からないから断言は出来ないんだけどさ。
 取り敢えず現時点では交流が途切れないかもなぁと言った程度にとどめておく事しか出来ないし、これ以上考えても仕方ない。
 手紙だけの付き合いなんて早々に途絶えるってなら、それはそれで必然って奴だろうしね。
 ただ『ヒロイン』であろう女性との恋愛相談なんぞされる、なんて事が無ければいいんだけど。
 それって相当親しい仲になっているって事だし、其の上私じゃあ『ヒロイン』に大して思う所有り過ぎるしで、相談相手として最悪だと自覚しています。
 『ゲーム知識』が乏しいから王子達と『ヒロイン』が幼い頃に会った事があるかどうかなんて知り様も無いんだけどね。

 とまぁ王子達と円満(?)にさよならをしてきた私は行きよりも二人程増えた状態で領地に帰還した。

 増えた二人は私の従者、多分護衛扱いになるであろう獣人のルビーンとザフィーアである。
 この二人は元々私達を城で襲撃した暗殺者だ。
 んだけど、何をとち狂ったのか私を【主】と言い出し最終的に【従属契約】を結ぶ事で生き延びたんだよねぇ。
 本来なら王族襲撃なんてどんな理由があっても処刑だと思うんだけど……獣人にとっての【従属契約】はそれを覆す事が時に可能となる程重いモノらしい。
 あれから調べてはみたんだけど、色々な獣人の暴走伝説が出てきて頭痛を感じたわ、本当に。
 敵対していた私達が「マシな状態だ」と思う程ってどういう事さ。
 ルビーン達に真実かどうか聞いたら、もっとエッグい話を聞かされたし。
 うん、まぁ、そうだよね。
 幾ら貧民街の子供だろうと誘拐は誘拐だよね。
 諫言を奏上した臣下を一呑みって……はい、蛇の獣人なら可能なんですか、そうですか。
 御忍び貴族サマを一集落の村長にしようとしたらそりゃ反発も食らいますよ。
 絶縁された御家の人って訳じゃあるまいし、いや、その方がマシだったんだろうなぁと思っちゃったんだけどね。
 相手方の貴族さん達大変だったろうなぁ。
 最強の軍団を手に入れたって喜ぶよりもたった一人の言葉しか重視しない究極の親衛隊みたいな存在は良くも悪くも扱いづらいだろうからね。
 私兵団が全滅しても内に抱え込みたくはないと思うのが普通。
 だと言うのに、それをしたって事は、まぁ其処に至るまで過労死寸前まで忙しかったんだろうなぁと想像がついてしまうのだ。
 うん、結果として獣人たちの圧勝だったんだと思う。
 高位だろうと一貴族で良かったと思うべきだ。
 これが王族なら……場合によっちゃ国相手に戦争になりかねない。
 それでも勝てるかも? と思っちゃう程には本能のままに暴走した獣人たちは手に負えない存在らしいから。
 
 これだけでも頭痛を感じるってのに、これが可愛く思えるような話もあちらこちらにチラホラと。
 しかもそれらはほぼ本能で成されているために、獣人たちにとっちゃ武勇伝みたいなモンらしいです。
 そりゃ国の上層部が獣人のその【性質】に理解があるわけですよ!
 【従属契約】さえ結べば処刑回避なんて事になっても可笑しくないよね? 相当の無茶ですけどね! 

 【従属契約】は魂を縛る事が可能な【儀式魔法】ともいえる魔法だ。
 現に私は今二人の「魂」を握っている。
 彼等は私の命令一つでどれだけ理不尽な事だろうと、生存本能に反する事だろうと「歓喜」すら浮かべて実行する。
 お遊びでなされた命令が「死」だろうと幸福感のままに自死すると言われた時、私は頭を抱えてしまった。
 仕方ないよね?
 私、彼等に「一番に信用する事は無い」って言い切ったんだよ?
 下手すれば一生懐に入る事はないと宣言した相手に対して「魂」を捧げるって。
 理解出来ないし、理解したらダメな気がする。
 獣人とはそういう生き物なのだと割り切るには時間が欲しいと思った。
 まぁ流石にそれだけ強い命令だと【命ずる】必要があるってのは不幸中の幸いって奴かなぁ。
 普段の些細な指示も満面の笑みで実行するから微妙な気持ちになるんだけどね。
 
 これだけの重たいモノを貰っても私は今の所二人を内側に入れるつもりになれない。
 正直、この二人が私の内側に入れるかどうかとなると、ねぇ?
 難しい気もする。
 二人の性格がどうとじゃなくて、もっと根本的な所で私は二人を「信頼」出来ない。
 私の命令ならば死ぬ事すら受け入れるってのは相当重たい契約だ。
 元々が敵だったとしても、そんな重いモノを差し出してきたのだ。
 本来なら今は無理でも私は受け入れるべきなのかもしれないし、言い方は悪いけど絆されても可笑しくはない。
 けど、私の両手はそんな大きくない。
 そんな中に余剰分を引き入れる事は出来ないのだ。
 失えば狂ってしまうかもしれないと思わせる、たとえ裏切られてもそのまま受けれて、先行きの安寧を願ってしまう程の存在。
 私にとって内側に入っている人間というのはそういった人達だ。
 深すぎる思いは他者には理解されにくいし私も理解を求めてはいない。
 だけどそれ程までに深く思う存在は多くは無いし、其処まで懐は広くない。
 自然と基準は厳しくなるし、多くの人を受け入れる事は無い。
 ってな訳だから私がこの二人を懐に抱え込む事は無い、だろう。
 人でなし要素が一つ増えようともまぁ良いんだけど、それをあの二人は理解しているのだろうか?
 魂すら捧げた相手は自分達を抱え込まないと断言しているってのに。
 一度結んだ【従属契約】は解けないし、他の【主】を求める事も出来ない。
 それだけ重い契約ならば仮契約でも何でもして見極め期間を設ける事だって出来たのに。
 結局、二人は何に後押しされたのか契約を強引に進めた。
 結果として二人は私に魂を捧げ私の護衛として地位を確保し処刑を免れた。
 これが処刑を免れるための方便ならば私も此処まで悩まなかったってのに私を主にしたいと取引までした結果処刑を免れた、が正解なもんだから頭痛を感じてしまう。
 悩んでも仕方ない、仕方ないんだけどさぁ。
 はっきり言って面倒事が増えたとしか思えない。
 此処で二人の事を重いとしか思わない所が私が人でなしたる所以なんだろうねぇ。
 性格を変えるつもりもないけど、なんだかなぁとは思う。

 取り敢えず獣人の本能たる【従属意識】に関してはもう少し調べてみない事にはこれ以上思考を進めようがない。
 それまでは様子見するしかない。
 何か不審な行動をとれば拘束する事が出来るし最悪処分する事も出来る。
 出来れば回避できる人の死は回避しないからやりたくはないんだけどね。

「(でも、私の大切なモノに手を出すならば私は迷う事無く【命ずる】)」

 たとえ魂を捧げて来た相手だとしても関係無い。
 私はそれが出来る人間なんだから。
 そんな私を前にしても笑って命令を実行している二人の姿が思い浮かんでしまいため息が出てしまう。
 現状維持はある意味で問題を先延ばしにしているだけかもしれないけど、どうしようもないってのも正解なんだよねぇ。
 全く持って面倒事が向こうから全速力でやって来たもんだ。
 避けられなかったし。

「……取り敢えず義眼と義手の手配しないとダメなんだよねぇ」
「アイツ等にか? 別に要らないんじゃねぇの?」
「そうもいかないって。……分かって言ってない、クロイツ?」
「分かっちゃいるが、アイツ等が五体満足になったら面倒事が増えそうだしな」

 クロイツは私の肩に乗ると猫にあるまじき表情で笑う。
 まぁクロイツが人臭いって事、というか元人であった事を知っているからそんな表情をしたとしてもオカシイとは思わないんだけどさ。
 生まれ変わりか記憶の継承か、理由は分からないけどクロイツは人として生きた記憶を鮮明に保持している。
 しかも二人分。
 その一つは私と同じ『地球』での記憶なモンだから、正直気を抜くと前世トークになる。
 知っている人の前ならともかく、知らない人の前でやったら問題だ。
 だからまぁ基本的にクロイツは私の影の中にいて頭の中でやり取りしている事が多い……多かった?
 んー、んー? ルビーン達と契約してから外に出ている事も多くなった気が?
 よくルビーン達と衝突しているんだけど、内容は聞いたり聞かなかったりしていて全部把握してはいない。
 クロイツに何かあれば契約している私は気づくわけだし、少々大人げない会話をしている分には問題ないだろう、周囲が煩いと思うくらいだからまぁ放置している。
 クロイツ自身も言いたくなさそうだったしね。
 一応信頼の下の放置だと思ってるけど。

「そもそも素直に受け取るのか? アイツ、リーノが創ったモンを欲しがってるんだよな?」
「そうなんだよねぇ」

 ルビーノとザフィーアは私によって目や腕を奪われた事に対しての恨みはない、と言った。
 心の底では違う事を考えているのかもしれない? とも思ったんだけど、どうも主である私に与えられたモノは痛みを伴おうとも喜びに変わる。らしいんだよね。
 従属契約ってのは後天的にマゾを作る魔法なの? と突っ込んだ私は悪くない。
 声に出してないからセーフです。
 なんて私の突っ込みはともかくとして、二人は一部が欠損していようとも問題はないと思っているらしい。
 だけど一応護衛として私の側に居るという事になったからには万全の状態で居る必要がある。
 別にそれを理由に放逐はしないけど、まぁ常に傍に居る事は出来なくなる。
 と言う事を二人も理解はしているらしい。
 だから二人には「欠損した状態でも万全に戦えるように鍛える」か「義肢や義眼を装着し前と同じ状態にする」のかを選んでもらう事になった。
 この世界にも義肢も義眼も存在する。
 魔法を駆使して作られているそれらは『前』よりも性能が高い。
 特に義眼なんかは失う前と同じ視界を得られるんだから『前』を知る身としてはとんでもないと感じてしまう。
 義手もまぁ同じように動かせるようだし……基本的に生活水準は『前』の方が良いのだろうけど、こういった部分は「今」の方が進んでいるなぁと思わなくもない。
 ま、どっちの世界が優れている、なんていう気は無いんだけどね。

 一応まぁ公爵令嬢である私の護衛という事になる訳だからそれなりに良いモノを作る事も可能だし、そっちを選ぶと思ってたんだけどね。
 二人はある意味で斜め上の答えを出してきました。

「錬金術の中には義眼や義肢を錬成するレシピをあるって事にびっくりだけどな、俺は」
「それに関しては私もびっくりでしたよ」

 どうもこの世界の錬金術って何かを作る事に関しては万能らしい……いやまぁ薬から爆弾、武具まで何でもござれなのは知ってたんだけどね。
 まさかそういった方面のレシピまで存在しているとは思わなかった。
 錬金術師が創る場合、装着する存在の魔力を使う事でより馴染むモノを錬成出来るって言うんだから……うん、錬金術師ってスゴイよね。
 なりたいモノの万能さに遠い眼になりつつ私は期待に溢れた目でこちらを見ている二人からそっと視線を逸らしました。
 幾ら何でも見習いにもなってない錬金術師の卵にどんだけ無理難題を突き付けると云うのか。
 正直「無理です」と断りたい気持ちで一杯でした。
 実際力量的に何時になるか分からないし、出来るようになった頃には欠損状態に慣れて万全になってると思う。
 だからまぁ断ったんだけど、中々引き下がってはくれませんでした。
 短くない攻防の結果「何時か作れるようになった私が彼等に義手と義眼を錬成する事」を前提に「今は他の人の作品であるモノで我慢する」と言う事になりました。
 うん、負けましたけど何か?
 アイツ等押し強すぎでしょう!
 私だって別に押しが弱い訳でも流されやすい訳でもないのにさ。
 一歩も引かない相手にどうすれと云うのか。
 結局将来的には錬成する約束させられました。
 別に魔法とかで縛られている訳じゃないし? 破る事は可能だけどさ。
 理由も無いのに約束破って平然として居られる程私の神経は太くありませんから!
 ……理由があれば平気で約束なんぞ破りますけど、何か?
 そこはそこ、これはこれでしょう?

「んで? そんな直ぐに作れるようになるのか?」
「無理!」

 ざっと目を通しはしたけど微調整を事を考えなくとも上級レシピだったし。
 今の私が錬成しようとしても魔力不足になるか、黒いゴミになるかのどっちかになるだろう。
 材料の無駄だ。
 その材料も高価なモノみたいだし。
 現時点では知らない名前もちらほら。
 今すぐ作ろうと思っても色んな側面から無理です、と言う事しか出来ない。

「だからまぁ変わりに私が手配した義手とかなら、って妥協の末の結論だよ」
「……メンドクセェ。そこまでしなきゃなんねーの?」
「私、一応【主】だからねぇ」  
「押しかけもいい処だけどな」
「まぁねぇ」

 いや、本当にそうだよね。
 何と言うか此方に忠誠心を持った自由人って扱いづらい。
 本気で扱いづらい。
 
 リアとも微妙に相性が悪いのか時折火花が散ってるし……いやまぁ性格的には合わないのは分かってるんだけどね。
 リアは基本的に喜怒哀楽の感情を表に表すのが苦手だ。
 勿論リアは感情があるし、一定の物事に関してはむしろ分かりやすい。
 けどそれを表に出す事がスゴイ苦手だから、付き合いの短い相手はリアは感情が無いと勘違いしている。
 自分の物差しでリアを計らないでよね! と思うけど、アンタなんかがリアを理解出来る訳無いじゃない? と鼻で笑いたくもなる。
 リアの良い所は分かる人だけ分かれば良いって事。
 とまぁリアの感情が出にくい所は私にとってはチャームポイントでしかないと思うし、私はリアがそこまで感情表現が薄いとも思わないから問題無いし。……これを言うと周囲に「貴女の前だからです」とか言われるんだけど、そんな事ないと思うんだけどねぇ?

 と、基本真面目で私の側に居る事を最上位に置いてるようなリアとは打って変わって獣人二人、特にルビーンは感情表現が豊かだ。
 ただし、本音かどうかは分からない、っていう注釈が付くけどね。
 襲撃され対峙していた時も思ったけどルビーンは刹那の快楽を求めていると言えば良いのか享楽的な所がある。
 喜怒哀楽も「喜」と「楽」に偏っているように見える。
 とは言え、ただ単に他の感情を表に出さないだけだと思うけど。
 笑顔の仮面、ポーカーフェイスの亜種がルビーンの常態ってなわけ。
 その上、人を揶揄い嘲るのが常となれば、ねぇ?
 相性が良い訳がない。
 共通点と言えば私に対する忠誠心? ぐらいのもんだ。
 しかも本人達に言わせれば、そういった忠誠心だって別物だと思っているらしいし。
 現状を見ているとリアとルビーン達が仲良くする日は来ない気がする。

「ルビーン達は何かやらかせば即放逐するか処罰の対象なんだけどね。何でかそこら辺はうまーく避けるんだよね。……だからこそ業とやってるって事だから性質の悪さは倍増する訳だけど」
「曲者に好かれたモンだ」
「他人事とは言えあっさり言い切られると思う所が無い訳じゃないんだけどなぁ、クロイツ?」

 私はクロイツの頬を掴みグニグニとこねくり回す。
 何か言いたそうだけど無視します。
 モフモフ、モフモフ。
 ……別にモフり願望がある訳じゃないけど、毛並みいいよねクロイツって。
 何となく現実逃避ギミなのは、目の前でリアとルビーンが何度目かの火花を散らしているからです。
 うん、空が青いなぁ、いい天気だなぁ。

「お前、それはちょっと露骨すぎだろ」
「…………」

 猫が肩で何か言っているけど無視です。
 そろそろ中庭の花が咲き誇る時期だなぁ。
 見に行かないと。

「その内巻き込まれるだろうに往生際がわりーな」
「うっさい」

 巻き込まれ確定だからこその現実逃避だっての。
 クロイツだって分かってる癖に。

「どうせクロイツだって巻き込まれ確定のくせに」
「アイツ等妙に俺に突っかかってくるからな。売られた喧嘩は買うしかねーだろ?」
「アンタも大概血の気が多いよね」

 気が長いとは最初から思ってなかったんだけどさ。
 フェルシュルグの時だって、自分の気にかかった事を自ら聞きに来たぐらいだしねぇ。
 クロイツも黙って耐えるって事はしないし。
 まぁひたすら耐えていれば救われる、なんて簡単な物事ばっかりじゃないからこの世界で生きてれば誰でもそうなるんだろうけどねぇ。
 ――耐えるだけ耐えて壊れてしまえば、其処で終わりな訳だし、ね。

「アイツ等はお前以外には挑発、嘲笑がデフォルトだからな。しかも流せば流しただけ倍増して喧嘩売ってきやがる。メンドクセェ限りだ」
「性格形成に関しては、生まれと育ちが、ね。真っ当な道は歩んできてないみたいだから。ただまぁ本人達そこら辺まったく気にしてないみたいだけどねぇ」

 別に同情なんて最初からする気はないけど、多分同情する人間がいれば逆に鼻で笑うくらいすると思うよ、あの二人。
 同情や憐れみは自栄心や優越感と紙一重だから、そこら辺を鋭く感じ取って嘲笑の対象にしてる、って所だろうけどね。
 ま、気持ちは分からなくもない。
 『わたし』だって向けられた同情の裏にある「自分じゃなくて良かった」という気持ちと「可哀想な相手を気遣ってあげる優しい自分に酔っている」気持ちが透けて見えて気持ち悪かったし。
 心から悲しみ共感してくれた人間が居なかったわけじゃないとは思うけど、数多のそういった存在から少数をかぎ分けるなんて至難の業だった。
 だからまぁ『わたし』は一緒くたにして遠ざけたんだよねぇ。
 少数の人には悪い事をしたと思わなくも無いけど、それ以上に大半がウザかったし。
 ま、だからか同情は排除に変わったし遠巻き、嫌悪の対象になった訳だけど。

「(本当に心許せる『友人達』を得る事が出来た訳だから、決して悪い事でも無かった……と思ってるんだけどね)」

 周囲には敵と言える存在ばかりでも普通に生きていけた所『わたし』も欠けていて普通じゃなかったって事なんだろうなぁ。
 まぁ「私」なんだから当然と言えば当然だけど。

「類友って言われれば否定できないのだけが悲しい所だわぁ」
「それだと俺も同類になるからやめてほしーんだけど?」
「え? クロイツ、何言ってんの? いや、普通だと思ってたの?」
「そこで言い切るんじゃねーよ。……否定はしねーけどよ」

 結局私を『同胞』を感じた時点でクロイツも同類だって事だから諦めてよね。
 ま、そういう意味ではフェルシュルグも同類だったのかもしれないけれど。
 ……そういえばフェルシュルグのお墓周辺で変わった事があったんだっけ。
 フェルシュルグの事を思い出したからか戻って来た屋敷で聞いた報告の一つを思い出した。

「ねぇクロイツ。フェルシュルグのお墓の事なんだけどさぁ」
「……言いたい事は分かるが微妙な気分になる言葉だな、おい」
「仕方ないでしょ? それであの森なんだけど、なんか不思議な空間が出来たんだって」
「割り切るのは難しい問題なんだがなー。……ん? 不思議な空間?」
「そ。何て言うか結界が張られているのかぽっかり空いたような、けど誰も足を踏み入れる事が出来ない空間が発生したらしいんだよね」
「それ結構問題大きくねーか?」

 いやまぁ確かに領地内にそんな場所が自然発生したら大問題なんだけどさ、何と言うか入れないだけで害がないらしいんだよね。

「ほら、よくあるでしょ? 入らずの森とか。霧に覆われた迷いの森とか。ああいった感じらしいよ?」
「一体どこのエルフが住み着いたんだよ、あの森に」
「いや、エルフが住処に選ぶ程深い森じゃないから、あそこ」

 それなりの規模はあるけど、一般人の足で通り抜ける程魔物は強くないし、迷わせるほど広くもない。
 人の来ない所にひっそりと住む自然と生きる種族であろうエルフが住処に選ぶ程良き森じゃないと思う。
 この世界のエルフがどういった基準で住処を選ぶかなんて知らないけどさ。

「明確な場所を教えてもらったんだけど、どうもフェルシュルグのお墓も空間内の可能性があるんだよね」
「元々あそこには誰の死体もねーし、別にいいんじゃね?」

 アンタも充分割り切ってると思うんだけど。
 人の事言えないけど、もう少し何かしらの感情を抱こうよ。
 あそこ一応フェルシュルグのお墓なんだからさ。
 まぁ他人とまで思ってなくとも微妙にズレがあるからだろうけど。
 ともかく、あそこはラーズシュタインの領地内だし、領民が入る事もある森だからねぇ。
 流石に放置は出来ないんだよね。

「ま、一度確認にいかないといけないんだけどね」
「そーかい。まぁ俺はオマエの使い魔だからな。付き合うさ」
「素直じゃないなぁクロイツは」

 私は今度はグリグリと頭を撫ぜ回す。
 ペットなんて飼った事はないけど、クロイツは多少の力じゃ揺るがないから結構好き勝手出来るんだよねぇ。
 外見子猫だけど、私もまだ幼女だし問題ないよね?

 と、クロイツを撫ぜていると視線を感じた。
 そっちを見ると何故かルビーンとザフィーアが私達、より正確に言うとクロイツをじとーとした目で見ていた。
 何とも湿度のある視線にクロイツも気づいたのか、二人を見た後、「はっ」と鼻で笑った。
 ……うん、結構クロイツも喧嘩売ってるよね。
 虐待には見えないと思うから安心して構えます。

 クロイツを構っているのが無駄に良い視力で視えていたのか、獣人二人の視線をすっごい感じるんですが。 
 案の定今度はリア&クロイツVSルビーン&ザフィーアの対決に。
 クロイツも嬉々として喧嘩売ってるし、これはしばらく止まらないだろうなぁ。
 出来れば私は巻き込まない方向でお願いします。

 現実逃避も含めて見ているとふと隣に気配を感じた。
 隣を見るとお兄様が苦笑して立っていた。

「お兄様?」
「いや。にぎやかだなぁと思ってね」
「それは……否定できないかも」

 リアは普段誰かを睨みつけて火花を散らす事なんて無いし、クロイツだって影に居る事が多かった。
 と言うよりもクロイツだって出逢ってから然程時間はたってない。

 少し前まではこの中庭に居るのは私とお兄様、そしてリアぐらいだった。
 お兄様は騒がしい方という訳でも無いから、相応にお話する事あれど、こういった賑やかさとは無縁だった気がする。
 それが今はクロイツが居て、あのリアが誰かと火花を散らして……まぁ護衛兼任の従者のような獣人達が居る。
 改めて考えてみると確かに賑やかになったなぁと思う。

「僕も信頼できる友が出来ればいいのだけれど」
「お兄様」

 今までラーズシュタインの派閥は特殊だった。
 どうやらお父様なりにお考えがあったようだけれど、普通ならば同派閥で交流を深めて近しい世代の子供達と仲良くなる、という事が私達には出来なかった。
 多分許されなかった、と言った方がいいと思う。
 
「(そんな特殊な派閥だけど一体どんな考えで維持されてきたっていうのかが謎なんだよねぇ。しかも、考えすぎかもしれないけど……陛下達も関わっているんじゃないかな、と思うし)」

 もう元となるであろう王妃の実家が良く顔を出していたラーズシュタインの派閥。
 陛下の側近が集う派閥だから、まぁ場違いと言う程では無いけど、お父様よりもあの老人を上に見る人間がチラホラ見られたらしいラーズシュタインの派閥ははっきり言って異質だ。
 明らかに向こう側はお父様達ラーズシュタインの人間を見下していた。
 理由を私が知る術はないけれど、お父様達が王妃様方と本心で友好的だったとは思えない。

「(ツィトーネ先生の恋人の事がある以上、幾ら表面を繕ったとしても心の底から同派閥でいられるとは思えない)」

 つまりお父様が傍から見て異質な派閥を今まで築いていた事も、それを維持してきていた事も独力じゃない可能性がある。
 その助力していた相手が陛下である可能性は低くないと思う。
 勿論目に見えての助力をしていた訳じゃないだろうけど。

「(派閥を独力で纏められないというのも家の名に傷がつく)」

 嬉々として其処を突く人間が居る宰相と言う地位にお父様がついているならば尚更。
 だから陛下達の助力があったとしても細やかなモノか精神的な支えであった程度のモノなのだろうけど。
 
 だとしてもそれらの余波が私達に降りかかっているという事だった。
 同世代との交流が少ない、というある種致命的な形で。

 正直私は問題ないと思う。
 私はどう考えても異質だ。
 化け物と罵られても可笑しくはない程「普通の子供」ではない。
 表面上演技する事は可能でも付き合いが続けばその内面は知れ渡る。
 そうなってしまえば異質なモノを嫌う子供達がどんな目で見られる事か。
 貴族として教育がなされているとはいえ子供である事には違い無いから、辿る道が見える気がする。
 最後には遠巻きされるか……排除こそされないだけの地位があるから遠巻きがいい処だろう。
 人脈と言う意味では作る事に苦労しそうだが、私が私である以上仕方無い、と多少諦める事は出来る。

「(それに私はリアというある程度身分を気にせずにいられる友達が居る)」

 不本意とは言え裏社会に身を置いていた獣人というコネクションも手に入れた。
 今後上手く使えば情報には困らないだろう。
 受けれていない相手のコネクションは使うというある意味で褒められた事ではないそれに思い悩む程私は可愛い性格をしていないのだから何の問題もない。

 でも、だからこそお兄様だけがこの負責を背負い苦労する事になってしまった。

「(私とは違い、賢くとも真っ当な子供であるお兄様だけが苦しむ事になる)」

 私はお父様が大好きだけど、もし私の考えが間違っていないのならば文句の一つも言いたくなってしまう。
 家族を真っ当に愛して下さっている宰相もしている故に貴族としての思考を有していらっしゃるお父様。
 多分子供に惜しまない愛情を注ぎ込んで下さっているお母様。
 だからこそお兄様は歪まず生きているのだけれど、出来ればお兄様のフォローをして欲しい、と少し思ってしまった。

「(そこら辺は多分もう少しすれば分かる事だろうけど)」

 今回の事について説明をしてくれるとお父様ははっきり言っていたのだから。
 私のこの考えが考えすぎなのか、それとも当たっているのか、その時分かるだろう。

「(貴族らしい側面を見て安心はできたけれど……こればっかりは)」

 どう転がるか分からない。
 けどまぁお父様とお母様が私やお兄様を愛して下さっている事は違えようのない事実だからそこまで悪い事にはならないだろう。
 其処まで心配する事ではないと思えるほど愛情深い人達なのだから。
 
「大丈夫ですわ、お兄様。これから交流が増えればきっと気の合う方々も出来ますわ」 
「そうだね。……ありがとうダーリエ」

 苦笑しているお兄様に私も微笑む。
 
 決して悪い方向に進むとは思っていないし、私が家族を愛している事には違いが無いけれど。
 ……少しだけその時が来るのが億劫だなぁと思ってしまったのは仕方ない事だと思う。


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