232 / 322
信じるモノ(4)
しおりを挟む礼拝堂を抜けた先は一本道だった。
信徒の姿は見えない。
教主含めた幹部しか普段入る事が許されない場所なのかもしれない。
誰もが口を開かず、足元だけが廊下に木霊している。
後ろから護衛の方々のもの言いたげな気配を感じて私は内心ため息をつく。
確かにお兄様さえ護ってもらえれば問題ないけれど、これはこれで煩わしいかも。とは言え、言いたい事なんて分かり切っているしなぁ。
先程の彼に言った言葉の数々を撤回する気はない。
失望した事により辛辣には物言いにはなったかもしれないが、言った事の葉の全てが本心だからだ。
感じた怒りも本物。
彼に言った事を全く恥じていない以上、失礼ながら有象無象に何を思われても何も感じない。
今の心境を鑑みれば鬱陶しいとすら感じるかもしれない。
むしろ先程、殿下達の反応を少しでも気にした自分に驚いたぐらいなのだ。
王都にやってきてから、心の変動に振り回されている気がする。
その中にある殿下達に対する感情の数々。
もはや認めるしかないのかもしれない。
私は殿下達に好意的な感情を抱いているのだと。
これから平穏な日常を送りたいのなら殿下達など『ゲーム』の事が無くとも最重要警戒対象だったのと言うのに。
いつの間にか交流を持ち、いつの間にか私は殿下達の存在を許容していた。
懐に入らないまでも「友人」として共に居る事に違和感を感じなくなっていた。
挙句、殿下達に嫌悪を向けられる事を忌避した。
多分殿下達に嫌悪を抱かれれば私は落ち込むだろう。
致命的にボロボロになるお兄様達からの拒絶とは違い、最終的に立ち直るとはいえ、殿下達が私にとってそういう対象になった事に驚きしかない。
気に掛ける存在が増える事に面倒くささを感じないわけでもない。
何かあれば私は殿下達と敵対する事も厭わないだろう。
勿論、お兄様達と敵対するなど、ほぼあり得ない状況下だけだろうが。
でも、殿下達と共に居る事は嫌ではない。
その事実が少しだけ重かった。
元々私の世界は然程広くはない。
このままではそろそろキャパオーバーしそうだ。
だと言うのに、切り捨てるという判断が直ぐに出てこない所、もはや溜息が出そうだ。
自分のメンドクササは分かっているつもりだったが、私は思っていたよりも不器用だったらしい。
改めて自身の面倒さを思い、先程はかみ殺す事が出来た溜息が漏れ出てしまった。
違う事を考えての事だったが、ため息をついた私に後ろから騒めく気配がする。
別に貴方方の視線のせいではないのだが、改めて弁解するのも面倒だ。
放っておこう。
今は首謀者と思われる青年が何を考えているかを推察していた方が建設的だ。
とは言っても、もうついてしまったのだけれどねぇ。
下品にならない程度に飾られた扉の前に立ち、私はもう一度溜息を零す。
意匠は悪くない。
だが、この中に教主がいると分かっているからだろうか?
とても扉が薄暗いモノに感じられた。
「行きますわよ」
「主。オレが先行すル」
「あら。では頼みますわ、ルビーン」
ルビーンならば先制攻撃を仕掛けられても避けられるだろう。
私の返答にルビーンはニヤリと笑うと一息で蹴り開けた。
……流石にびっくりである。
確かに鍵がかかっている可能性もあるとは思うけれど、なんて大胆なマスターキーなんでしょう。
一瞬飛んだ思考を無理矢理引き戻すとルビーンとザフィーアに次いで部屋の中に足を踏み入れる。
部屋は思っていたよりも広かった。
大きな窓から日差しが入り部屋を柔らかく照らしている。
シンプルな造りだが趣味は悪くない。
重厚感のある机が浮かない程度には品のよい調度品だった。
何となく貴族の執務室を彷彿とさせる。
先制攻撃が無かった事を確認した後、改めて数歩足を進めると、ようやく座っている人影の顔が見えた。
だが、その顔に私は眉を顰める。
人影の主は先程までうすら寒い笑みを浮かべていた青年では無かったのだ。
お兄様達も思っていた人ではない事に僅かに動揺している。
そんな私達を見て青年は笑った。
だが、それは嘲笑でも黒幕よろしくな笑みでもない。
どこか疲れた、諦観を含む老人のような笑みだったのだ。
主導権を取られるのは困る。
そのために、先制攻撃のつもりもあってその事を問いかける前に青年が口を開いてしまった。
「申し訳御座いません」
それは何に対して? と問いかける事が私には出来なかった。
青年の言葉に呼応するように足元が突然光りだしたのだ。
下を見ると私一人を包むように魔法陣が描かれていた。
「これはっ!?」
その場を離れる事も誰かに手を伸ばす事も出来ず、光が強くなっていく。
「「主!」」
「ダーリエ!」
お兄様とルビーンとザフィーアの声が聞こえるが、何故か私の声が出ない。
しかも体が動かない。
完全に罠に嵌められた事に内心歯噛みする。
私は無駄な足掻きと分かっていても、青年を睨みつける。
だが、私の悪足掻きに対して青年は勝ち誇る事もせず、むしろ悲し気な表情で目を伏せた。
貴方は一体何者? 一体何を嘆いているの? 罪を犯したくせに!?
疑問と罵倒を最後に私の意識は闇の中へと堕ちていった。
38
あなたにおすすめの小説
憧れの悪役令嬢にちょびっとだけにた3歳児に転生したので、なるべく平和に生きようとおもいます!
山見月あいまゆ
ファンタジー
ベッドから大きな音を立てて落っこちたのは、この国のお姫様、セレナイト。
そこで思い出す!!
自分は、病気で死んでしまったはず…
え?何で生きてるの!!
鏡を見ると。あ!おねいちゃんがはまってた、なんちゃらかんちゃらゲームの悪役令嬢!にちょびっとだけ似てる…ほんのちょびっとだけ。
だからと言って、私が悪役令嬢なわけではないとわかる。
なぜなら、悪役令嬢の小さい頃もゲームにうつってたけど、こんな顔じゃなかった!
ちょっと似てるけどね。
けど。やった!憧れの悪役令嬢に似てるってうれしい!
ん?待てよ。この体、セレナイトは、お兄ちゃんがいる。
名前は、サファイル。
ゲームの中で王子様だった人!
ならここはなんちゃらかんちゃらゲームの世界。
何のゲームか忘れた!
そのゲームの中で私は…特に何もしない!
モブの中のモブ!
王族がモブ…
とりあえず、憧れの悪役令嬢は最後、追放されちゃうからそれを回避!
みんな平和が一番!
自分の平和は周りによって左右されるもんね。
よぉし。平和のために頑張るぞぉー!
※平和のために頑張る話です。
スラム街の幼女、魔導書を拾う。
海夏世もみじ
ファンタジー
スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。
それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。
これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。
誤解は解きません。悪女で結構です。
砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。
二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。
その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。
漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。
しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」
夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる