どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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講義選択を教室にて(3)

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 のんびりと散策気分で学校内の施設を確認しつつ歩き回る。
 かなり広いから一年生の時に使うところだけで十分のはず。
 と、言うか、全部見て回るには何日かかる事やら。
 そこまでの好奇心はない。

 行きたい場所はあるけどね。

 足取りは軽く。
 どことなく『スチル』で見た事のある場所を通り抜けて目的の場所を目指す。
 歩みがよどみない事に気づきクロイツが「<何処に行くんだ?>」なんて聞いてくるが、内緒と言いつつ歩き続ける。
 一般講義を受ける本館? を離れ、人が少なくなるのを感じつつも歩みは止めない。
 むしろワクワクする気持ちに連動して足取りは更に軽くなる。
 なんて言っても私がこの学園に通う最大の目的がこの先にあるのだ。
 気持ちが浮き立つのを抑えられない
 
 ああ、楽しみ!

 沸き立つ気持ちのまま目的の教室のドアを開ける。
 そのころにはクロイツにも場所がどこか分かったのか「<オマエ、ぶれないな>」なんて言われてため息をつかれたけれど、関係ない。
 そこがぶれるはずもない。
 そもそも『ゲーム』もこれが目的でプレイしていたのだから。
 教室――錬金術の実習室の中は想像よりも広かった。
 中には一定間隔開けられた錬成窯がおいてあり、その隣に個別の長机が設置されている。
 机の上にはビーカーやフラスコや試験管(多分呼び名は違わないはず)が案外整理されて配置されている。
 幸いにも使っている人はおらず、思う存分中を見る事ができる。
 今すぐにでも錬成ができそうな空間に私は完全に舞い上がっていた。

「(ああ。隅々まで確認したい。実習室って事は錬成窯も汎用なんだよね? じゃあ使い心地が違うはず。あ、あれって付加錬金用の台かな? 棚には鍵がかかってそうだけど素材がおいてある。じっくり観察したい。思う存分見ていたい)」

 顔が緩んでいる自覚がある。
 けれど問題ない。
 だってクロイツ以外誰もいないのだか……ら?

 ん?

 僅かながら違和感を感じ、ある場所を注意深く観察する。
 窯がおかれていない窓のそば。
 棚もないし、特に異変はない?
 ううん?
 ……何となく空間が歪んでいるような?
 違和感の塊は大きく、人がいるような大きさ、のような?
 まさか?

「誰かいますの?」
「へぇ。気づくのか。案外鋭いお嬢さんだな」
「!?」

 突然響いた声に体が臨戦態勢を咄嗟にとる。
 武器の召喚は城と同じくペナルティがある。
 なら、攻撃方法は魔法一択。
 後ろに視線を流す。

 ドアは……開いている。

 視線を戻しつつ頭の中では今、この場でできる最善を模索し続けていた。

 一撃入れた後離脱、そのあと人の居る所に駆け込めば問題ない?

 作戦が決まればすぐに実行しなければいけない。
 私が何かをすると気づいただろう、腰を落として魔法を発動させようとしたその時、不審者は慌てた様子で近づいてきた……と思う。
 声が近づいてきたから、多分?

「ちょっと待った! 不審者扱いはやめてくれ!」
「……姿を消していらっしゃるのに?」
「おおっと。確かにそれは不審だ。だが、勘弁してくれ。俺は不審者じゃないっての。……今、魔法を解くから逃げないでくれよ?」

 不審者はみんなそういうだろうに、と思いつつも私はその場に留まる。
 不審者男への信用というよりもこの学園への信頼故だ。
 王侯貴族の通う学園のセキュリティがそこまで甘いわけはない。
 不審は不審だが大丈夫だろう……多分。
 内心はともかく私が逃げないと分かったのか安堵の息を吐いた男の姿があらわになる。
 
「(案外若い? いえ、結構お年ね。こげ茶の髪に青い瞳。それなりに整っている、けど。なんだろう? 存在感が薄い?)」

 長身で体格もそれなり。
 だというのに何と言うか存在感が希薄なのだ。
 これも魔法の効果だろうか?
 
「(ただ白衣って事はこの学園の関係者かな? 『ゲーム』では錬金術の講師はもっとお年を召した方だったけど。助手とか)」

 まだ不審者である可能性はあるが、どうやら学園関係者の可能性が高いらしい。

「お前さん。もうちょっと優しい目をくれんかね? どこをどうみても不審者じゃないだろう?」
「疑いが完全に晴れていませんので」
「これで!?」
「初対面の印象って大事だと思いませんこと?」
「それを言われると痛い! 納得しそうになるな! 大人が言いくるめられちゃ世話ないが!」

 何この人、うるさくない?
 なんてことはおくびにも出さずに私はただひたすら不審そうなまなざしだけを送る。
 
「だが俺は不審者じゃない! この学園の教師だからな!」
「……それは他の方に聞いてみませんと?」
「これでも信用できないと!?」
「言葉だけならなんとでも?」
「それも最もだ! 困ったな。ことごとく論破されてる?」

 実の所、不審者の疑いは結構晴れている。
 姿を隠していた事はマイナスだが、彼からはルビーンやザフィーアのように暗殺者としての匂いがしない。
 それすらも演じているならば凄い事だが、それならばもはや私に打つ手はないだろう。
 諦観がないとは言わないが、まぁ自分の強運? 悪運を信じつつ、目の前の彼を信じていいだろうと思っている。
 ただ、今後関わるであろう人物への呆れは消えてはくれないが。

「(此処にいるって事は多分錬金術の講師よね? これならおじいちゃん先生がよかった。比べるのも悪いくらい『ゲーム』で出てきた先生がよかったなぁ)」

 実力は分からないが性格がこれでは。
 私と合わない気がしなくもない。
 
「俺は教師だ! それよりもお嬢ちゃん新入生だろう? なんでこんな所にいるんだ?」
「何故、言われましても」

 学園内を探検?
 というよりも今後一番通うであろう場所に来ただけなのだが。
 いってもいいものだろうか?
 いまいち判断がつかない。

「(ただ、言わないで去るのも得策じゃない、か)――ワタクシ、錬金術に興味がありますの。だから今後来るであろう実習室を見てみたかった、と言った所ですわ」
「ふーん?」

 先ほどとは一転、どこか私を探るように見てくる男に眉を顰める。
 一体どういった感情からの言動だろうか?
 そんな目で見られる筋合いは全く無いが?

「貴族令嬢が錬金術をねぇ。どっかに嫁ぐ限り必要ない能力なんだがねぇ」
「そんな事わかっておりますが?」

 ……なるほど。
 この男、私が錬金術を道楽としてしか思っていないと考えているわけね。
 大変腹立たしいが、その思考自体は強ち間違ってはいない。
 実際の所、嫁いだ先でも錬金術を学び続ける事は難しいだろう。
 相当婚家に理解ない限りは無理だと言っても良い。
 あとは、嫁ぎ先が錬金術でもって貴族である場合は間違い無く問題ないだろうが。
 と、まぁそういった特殊な状況以外ではいくら学生時代に熱心に学んでも卒業後に途切れる可能性が高い。
 そう思われるの仕方のない事ではある。

 あるのだが……。

「(イラっとしないかと言われると違うのよね)」

 仮に、仮にだ。
 私がそう言ったたぐいの人間だとしても、だ。
 あからさまに疑いのまなざしを向けるとは教師の風上にもおけないのではないだろか?
 学ぶ意欲をいの一番削るとは、この男は一体何様なんだろうか?
 
「(まぁいっか。そちらがその対応ならば、私も相応の対応で返すだけ。私にとって彼は肩書だけが教師という存在になりさがるだけの事)」

 深々とため息をつくと、私は今までしていた呆れていた演技すらも取っ払い素で対応する。
 今の私はとても冷たい目をしていると思う。
 だがまぁ自業自得というやつである。
 流石、教師。
 私の対応が変わった事自体にはすぐに気づいたらしい。
 目を丸くして私を見ている。

「ん? んん? あれ? もしかして俺見限られたか?! ちょい嬢ちゃん! 決断が早すぎないかい!?」
「学ぶ意欲をはじめから折るなんて、なんてスバラシイ講師なんでしょうね? 今後の判断材料にさせていただきますわ」
「言葉が鋭い嬢ちゃんだな! そしてなんの判断にされるの、俺!?」
「反面教師ですが?」
「本格的にあかんやつ認定! ……あ、まじで切り捨てられてね? ちょっと待った待った。ここは反骨精神を出して反論する所だろ?」
「貴方様が古い思考に囚われている事が明らかになっただけでは? 思う所と言えば……講師として柔軟な思考をお持ちではないのでしょうね、ですかね?」
「俺の心が切り刻まれていくんだが!? 俺の意図する事は悟っているのに、そこから俺に思惑があるとは考えてくれないわけだな!?」
「今、初めて会ったばかりのワタクシに何を求めていますの?」
「ごもっとも!」

 急に頭を抱えしまった彼を冷めた目で見つめる私。
 そろそろお暇したいのだが。
 ここまで意味のない会話だと苦痛になってくる。
 いや、正確に言えば、友人どころか知り合いでもない相手との生産性のない会話を、だが。

「他の場所も見て回りたいのですが?」
「暗に会話を終了させたいと! 待ってくれ! 流石にここで終わりは困る。このままだとお嬢ちゃんが錬金術を受講しない可能性があるからな!」

 俺のせいで生徒が減ると困る! と叫んでいる男を見つつ私は緩く首を振り、背を向け扉に向かって歩き出す。
 もう無視でいいだろう。
 私はただ実習室を見たかっただけなのだが、とんだ災難である。
 今後関わりあいになるだろうが、基本無視でいいだろう。
 などと考えていると後ろから声をかけられる。
 答える義務などない。
 だが、ふと思った。
 男は「錬金術を受講しない可能性」を示唆していたが、とんでもない。
 たとえ男が無礼千万で古い考えに凝り固まっていようとも私に錬金術をを学ばないという選択肢はない。
 私は振り返ると淑女としての最上礼の形をとると軽く頭を下げる。

「ワタクシ、どんな苦境だろうと、それこそ錬金術の才能が皆無だとしても……――」

 顔を上げるとどこか呆けた顔をしている男に微笑む。

「――……絶対に諦める事だけはいたしませんわ。それができたらワタクシとは言えませんもの」

 諦める事ができる程度の浅い思いならば、私はそもそもココにいないのだから。

「ですから先生の懸念は杞憂にございますわ。たとえ、どんな方だろうともワタクシは錬金術を学びに此処にきます。ですので、今後よろしくお願いいたしますわ、先生? それではごきげんよう」

 そう言うと私は今度こそ教室を出ていくのだった。

 ……引き留める声はなかった、とだけ言っておく。







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