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契約
屋上
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本社入りは、九時に間に合った。
「おはようございます」
「あ、おはようございまーす」
二人同時に入室すると、上野さんが藍野さんの方だけを見る。
「群馬どうでした?」
「良い所だったよ」
「まぁ、そうでしょうけど」
欲しい答えじゃなかったのか、そもそも何を聞きたかったのか、上野さんは不機嫌になっている。
「はい、定番のラスク」
彼が土産を差し出すと、さらに口角を下げた。
「部長に渡してください」
「竹林さん、いないじゃん」
事務所内を見回すも、部長の姿はない。
「きっと喫煙所です」
黙っていた私の背中を、軽く藍野さんがつつく。
「?」
意味がわからない。
「報告したい事あるから呼んできて」
口調は穏やかだが、眼鏡の奥の瞳はけして笑ってはいない。
なんで頼んでる癖に不機嫌なの?
「わかりました」
私が彼らに背を向けると、上野さんや他の女子社員が藍野さんに一斉に話しかけていた。
きっと、人気者の彼を私が丸一日独占して鬱憤が溜まっていたんだろう。
確かに、こんな状況で二人の関係がバレれば面倒くさい。
それにしても、竹林さんが煙草を吸うのは珍しい。
非常階段を昇って屋上に行くと、竹林部長が一人でいた。屋上の隅で煙を吐いている。
「おはようございます」
声をかけるとやつれた笑顔で応えてくれた。
「おはよう。お帰り」
私に″お帰り″なんて言ってくれる人、部長しかいない。
「……何かありました?」
心配だ。
藍野さんと私が居ない間、継母である美里が無理難題を部長に押し付けたりしなかったか。
「いや。報告するような事は。それよりミドリ営業所はいい人ばっかりだっただろ?」
気を遣ってるのか、竹林部長は柔和な笑みで返した。
「はい。親睦会まで開いて貰って……」
緊張したが楽しかった。だけど、その後が濃厚過ぎて忘れそうになっていた。
「そっか。藍野さんと一緒で良かった」
部長の一言で、自然と顔が熱くなっていくのがわかった。
「明日美さんこそ、何かあった?」
尋ねられ、焦った私はわかりやすく行動に出た。
「あ、藍野さんから部長を呼んでくるように言われたんでした! 事務所へ……あッ……」
先に戻ろうとして、足元に張り巡っていた室外機の冷媒管に躓いてしまった。
「危なっ……」
咄嗟に、前によろけた私の腰を部長が支える。
その力強さに、私は部長の顔を思わずじっと眺めた。
「あ、ありがとうございます」
「明日美さん、意外とおっちょこちょいだな」
私の身体から離れた部長の手は、やっぱり逞しかった。ドキドキはしたが、それも直ぐに空気のようになくなった。
踏ん張った時に股間が痛み、昨夜の事を鮮明に思い出したからだ。
「あ、藍野さん、おはようございます」
そして、その痛みを与えた張本人が、屋上入口にまで足を運んでいた。
向かってくる私に、″遅い″と冷めた視線を投げている。
来るなら、始めから自分で呼びに来ればいいのに。
「竹林さん、事務所に戻らずここで話しませんか?」
「いいですよ?」
それから藍野さんの視界から私は完全にシャットダウンされ、二人が事務所に戻ったのは、三十分以上経過してからだった。
一体、何の話をしていたんだろう?
まさか。私との事話したりしていないよね?
それとも、買収の話?
竹林部長は優秀だから、ここに残すつもりで協力を仰いだ?
どっちにしても気になる。
「おはようございます」
「あ、おはようございまーす」
二人同時に入室すると、上野さんが藍野さんの方だけを見る。
「群馬どうでした?」
「良い所だったよ」
「まぁ、そうでしょうけど」
欲しい答えじゃなかったのか、そもそも何を聞きたかったのか、上野さんは不機嫌になっている。
「はい、定番のラスク」
彼が土産を差し出すと、さらに口角を下げた。
「部長に渡してください」
「竹林さん、いないじゃん」
事務所内を見回すも、部長の姿はない。
「きっと喫煙所です」
黙っていた私の背中を、軽く藍野さんがつつく。
「?」
意味がわからない。
「報告したい事あるから呼んできて」
口調は穏やかだが、眼鏡の奥の瞳はけして笑ってはいない。
なんで頼んでる癖に不機嫌なの?
「わかりました」
私が彼らに背を向けると、上野さんや他の女子社員が藍野さんに一斉に話しかけていた。
きっと、人気者の彼を私が丸一日独占して鬱憤が溜まっていたんだろう。
確かに、こんな状況で二人の関係がバレれば面倒くさい。
それにしても、竹林さんが煙草を吸うのは珍しい。
非常階段を昇って屋上に行くと、竹林部長が一人でいた。屋上の隅で煙を吐いている。
「おはようございます」
声をかけるとやつれた笑顔で応えてくれた。
「おはよう。お帰り」
私に″お帰り″なんて言ってくれる人、部長しかいない。
「……何かありました?」
心配だ。
藍野さんと私が居ない間、継母である美里が無理難題を部長に押し付けたりしなかったか。
「いや。報告するような事は。それよりミドリ営業所はいい人ばっかりだっただろ?」
気を遣ってるのか、竹林部長は柔和な笑みで返した。
「はい。親睦会まで開いて貰って……」
緊張したが楽しかった。だけど、その後が濃厚過ぎて忘れそうになっていた。
「そっか。藍野さんと一緒で良かった」
部長の一言で、自然と顔が熱くなっていくのがわかった。
「明日美さんこそ、何かあった?」
尋ねられ、焦った私はわかりやすく行動に出た。
「あ、藍野さんから部長を呼んでくるように言われたんでした! 事務所へ……あッ……」
先に戻ろうとして、足元に張り巡っていた室外機の冷媒管に躓いてしまった。
「危なっ……」
咄嗟に、前によろけた私の腰を部長が支える。
その力強さに、私は部長の顔を思わずじっと眺めた。
「あ、ありがとうございます」
「明日美さん、意外とおっちょこちょいだな」
私の身体から離れた部長の手は、やっぱり逞しかった。ドキドキはしたが、それも直ぐに空気のようになくなった。
踏ん張った時に股間が痛み、昨夜の事を鮮明に思い出したからだ。
「あ、藍野さん、おはようございます」
そして、その痛みを与えた張本人が、屋上入口にまで足を運んでいた。
向かってくる私に、″遅い″と冷めた視線を投げている。
来るなら、始めから自分で呼びに来ればいいのに。
「竹林さん、事務所に戻らずここで話しませんか?」
「いいですよ?」
それから藍野さんの視界から私は完全にシャットダウンされ、二人が事務所に戻ったのは、三十分以上経過してからだった。
一体、何の話をしていたんだろう?
まさか。私との事話したりしていないよね?
それとも、買収の話?
竹林部長は優秀だから、ここに残すつもりで協力を仰いだ?
どっちにしても気になる。
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