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契約
獣たちの家
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「おい、明日美!」
脱衣場でいきなりドアが開けられ、私は悲鳴を上げた。雅夫兄さんだ。
「な、なんですか?」
ノックぐらいしたらどうなの? 急いでバスタオルをあてがうも、多分、裸、見られた。
「瑠衣、昨日から外泊してるけど、男んとこ逃げたんじゃないよな?」
そういえば、反対されても家を出たいって言ってたっけ。まさか本当に強行しちゃったの?
「……知りません、今日は帰らないとメッセージ来たけど」
義姉の葉月からも。
だから、こんなに機嫌悪いのか。口元がわかりやすく曲がっている。
「お前と瑠衣、他人の癖にわりと気が合ってるじゃんか。何か相談されただろ?」
「されてません。髪を乾かしたいので出ていってください」
確かに家を出たいと言っていたが、私は何のアドバイスも出来なかった。だけど、心の中では応援している。
この兄の毒牙が、瑠衣に向かないように祈っている。
「なんだ? ちょっと顔合わさない間に生意気になりやがって」
言い方が癪に障ったようで、雅夫兄さんが濡れた私の髪を引っ張る。
「……いっ、たっ……」
「乾かすの大変なら切ってやろうか? チャラチャラしやがって」
男の癖に肩まで伸ばしている人に言われたくない。私がロングヘアなのは、極貧で美容室に行けないからだし。
「はさみ、ここにはねぇか。あ、」
脱衣所を見回す兄の視線が、棚の顔剃り用のカミソリに留まり、ゾッとした。
「母さん、ここで眉毛剃ってんだな。これ、髪切れるかな」
口元を歪めた雅夫兄さんが、片手でカミソリを掴んだ。
「や……めて」
「何ビビってんだよ? 髪だよ、髪」
「そ、そんなので髪は切れませんから」
「いけんじゃね? お前猫毛だからさ」
狂気じみた笑顔で髪を掴む手に力を込めた。
「ほら、もっとこっちに来い。じゃないと間違って顔切っちまうぞ」
刃先が髪にあてられ、私は咄嗟に悲鳴を上げた。自分でも驚くくらい甲高い声だった。
「なにデカい声出してんだよ。母さん起きたら面倒くせーだろ」
兄が怯んだ隙に、私は脱衣所を飛び出した。
タオル一枚で寒かったが、恐怖には勝てない。髪から雫をまき散らし、二階まで駆け上がった所で、また会いたくない男に出くわす。
「何してんの? お前」
片手にアイスペールを持つ義弟の凱也。
もう寝ていると思ったのに。
酒の匂いを漂わせて笑っている。
凱也の部屋にはワインラックがあり、ぎっしりと酒が並べられている。恐らくアル中だ。
いかにも不健康そうな、ずんぐりした体を揺らしながらこっちに近寄ってきた。
「退いて」
交わして自室に入りたかったが、酔っぱらいだけにタチが悪く、私の巻いているバスタオルに手を伸ばす。
「……ちょ、」
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
鼻の穴を膨らませて私を羽交い締めにする。身体をよじり凱也の腕から逃げようとすると、巻いていたバスタオルが、ハラリと落ちてしまった。
「おっ……!」
更に鼻翼を広げた凱也の視線が、ある部分に留まる。私は慌ててタオルを拾ってそのまま自室に向かった。
「お前、男いんのかよ?」
醒めた声が聞こえたが、無視して部屋のドアを閉めた。
まだ鳥肌が立っている。
脅しやセクハラまがいの言葉は多々あったが、実際に性的な被害は受けてはいなかった。
さっき凱也が見たであろう、胸のキスマークを震える指で覆う。
――触られたくない。
その感情が以前よりも大きくなったのは、処女をなくした事と関係してるのかもしれない。
脱衣場でいきなりドアが開けられ、私は悲鳴を上げた。雅夫兄さんだ。
「な、なんですか?」
ノックぐらいしたらどうなの? 急いでバスタオルをあてがうも、多分、裸、見られた。
「瑠衣、昨日から外泊してるけど、男んとこ逃げたんじゃないよな?」
そういえば、反対されても家を出たいって言ってたっけ。まさか本当に強行しちゃったの?
「……知りません、今日は帰らないとメッセージ来たけど」
義姉の葉月からも。
だから、こんなに機嫌悪いのか。口元がわかりやすく曲がっている。
「お前と瑠衣、他人の癖にわりと気が合ってるじゃんか。何か相談されただろ?」
「されてません。髪を乾かしたいので出ていってください」
確かに家を出たいと言っていたが、私は何のアドバイスも出来なかった。だけど、心の中では応援している。
この兄の毒牙が、瑠衣に向かないように祈っている。
「なんだ? ちょっと顔合わさない間に生意気になりやがって」
言い方が癪に障ったようで、雅夫兄さんが濡れた私の髪を引っ張る。
「……いっ、たっ……」
「乾かすの大変なら切ってやろうか? チャラチャラしやがって」
男の癖に肩まで伸ばしている人に言われたくない。私がロングヘアなのは、極貧で美容室に行けないからだし。
「はさみ、ここにはねぇか。あ、」
脱衣所を見回す兄の視線が、棚の顔剃り用のカミソリに留まり、ゾッとした。
「母さん、ここで眉毛剃ってんだな。これ、髪切れるかな」
口元を歪めた雅夫兄さんが、片手でカミソリを掴んだ。
「や……めて」
「何ビビってんだよ? 髪だよ、髪」
「そ、そんなので髪は切れませんから」
「いけんじゃね? お前猫毛だからさ」
狂気じみた笑顔で髪を掴む手に力を込めた。
「ほら、もっとこっちに来い。じゃないと間違って顔切っちまうぞ」
刃先が髪にあてられ、私は咄嗟に悲鳴を上げた。自分でも驚くくらい甲高い声だった。
「なにデカい声出してんだよ。母さん起きたら面倒くせーだろ」
兄が怯んだ隙に、私は脱衣所を飛び出した。
タオル一枚で寒かったが、恐怖には勝てない。髪から雫をまき散らし、二階まで駆け上がった所で、また会いたくない男に出くわす。
「何してんの? お前」
片手にアイスペールを持つ義弟の凱也。
もう寝ていると思ったのに。
酒の匂いを漂わせて笑っている。
凱也の部屋にはワインラックがあり、ぎっしりと酒が並べられている。恐らくアル中だ。
いかにも不健康そうな、ずんぐりした体を揺らしながらこっちに近寄ってきた。
「退いて」
交わして自室に入りたかったが、酔っぱらいだけにタチが悪く、私の巻いているバスタオルに手を伸ばす。
「……ちょ、」
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
鼻の穴を膨らませて私を羽交い締めにする。身体をよじり凱也の腕から逃げようとすると、巻いていたバスタオルが、ハラリと落ちてしまった。
「おっ……!」
更に鼻翼を広げた凱也の視線が、ある部分に留まる。私は慌ててタオルを拾ってそのまま自室に向かった。
「お前、男いんのかよ?」
醒めた声が聞こえたが、無視して部屋のドアを閉めた。
まだ鳥肌が立っている。
脅しやセクハラまがいの言葉は多々あったが、実際に性的な被害は受けてはいなかった。
さっき凱也が見たであろう、胸のキスマークを震える指で覆う。
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