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契約
試験紙
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見下ろす彼の瞳は優しかった。私はそんな藍野さんの手を掴んでいた。冷たかったのは、彼の手だったのだ。
「悪い夢見た?」
藍野さんが氷嚢の氷を替えてくれている。
「……はい、楽しい団欒からの暗転でした」
普段は思い出さないようにしている家族のこと。夢に見るのも久しぶりだった。
「なら、起こして良かった」
ニコッと笑う藍野さんが包み込むような目をしていて、急に堪らなくなった。
重い体を起こし、彼の首にしがみつく。
らしくないと咎められるかと思ったけど。
「どうした? まだ寝ぼけてる?」
「……は、い」
藍野さんは、氷嚢を洗面器に移し手を拭いてから、抱き締め返してくれた。
「″楽しい団欒″て事は両親が夢に出てきた?」
「はい、祖父も……」
「そっか」
彼の手が、私の背中を撫でてくれる。冷たい手が心地良い。
ずっと、こうしていて欲しい。
心の中で願いながら、体を藍野さんに預ける。
髪や背中を触られているうちに、まるで睡眠剤を飲んだかのように、とろっと眠くなって、次に目を覚ましたのは朝方だった。
閑静な住宅街に、鳥のさえずりが響き渡る。
それを、私は藍野さんの腕の中で聞いている。
契約で構わない。
私がМだから、でもいい。
側にいて欲しい時に、こうやって抱擁してくれる人がいるのは幸せだ。
いつか、私を本当に好きになってくれたらいいのに。
「すっかり下がったな」
体温計を見た藍野さんが感心したように言った。
「解熱剤、必要無かったですね」
時計を見て、条件反射で家事をしなきゃと体が起き上がる。
髪をまとめていると、腕を引っ張られた。
「何してる?」
「朝の仕度を」
「は? あと二日は休むんだよ」
「え、でも、もう……」
「熱は朝下がって夜になると上がっていくものだろ? それに、会社にはインフルの可能性ありで連絡してるから」
――あ。
会社への連絡も藍野さんに任せてしまった。余程の重症だと思われてるかもしれない。
「インフルじゃない場合も数日有給を取るって竹林さんに言ってるから」
藍野さんが眼鏡を掛け、私の表情を窺っている。彼にとって、″竹林さん″が、私の気持ちを確かめるリトマス試験紙になっている?
「……じゃあ、私、まだここに居ていいんですか?」
「ああ」
勿論、と返して彼は立ち上がった。
「悪い夢見た?」
藍野さんが氷嚢の氷を替えてくれている。
「……はい、楽しい団欒からの暗転でした」
普段は思い出さないようにしている家族のこと。夢に見るのも久しぶりだった。
「なら、起こして良かった」
ニコッと笑う藍野さんが包み込むような目をしていて、急に堪らなくなった。
重い体を起こし、彼の首にしがみつく。
らしくないと咎められるかと思ったけど。
「どうした? まだ寝ぼけてる?」
「……は、い」
藍野さんは、氷嚢を洗面器に移し手を拭いてから、抱き締め返してくれた。
「″楽しい団欒″て事は両親が夢に出てきた?」
「はい、祖父も……」
「そっか」
彼の手が、私の背中を撫でてくれる。冷たい手が心地良い。
ずっと、こうしていて欲しい。
心の中で願いながら、体を藍野さんに預ける。
髪や背中を触られているうちに、まるで睡眠剤を飲んだかのように、とろっと眠くなって、次に目を覚ましたのは朝方だった。
閑静な住宅街に、鳥のさえずりが響き渡る。
それを、私は藍野さんの腕の中で聞いている。
契約で構わない。
私がМだから、でもいい。
側にいて欲しい時に、こうやって抱擁してくれる人がいるのは幸せだ。
いつか、私を本当に好きになってくれたらいいのに。
「すっかり下がったな」
体温計を見た藍野さんが感心したように言った。
「解熱剤、必要無かったですね」
時計を見て、条件反射で家事をしなきゃと体が起き上がる。
髪をまとめていると、腕を引っ張られた。
「何してる?」
「朝の仕度を」
「は? あと二日は休むんだよ」
「え、でも、もう……」
「熱は朝下がって夜になると上がっていくものだろ? それに、会社にはインフルの可能性ありで連絡してるから」
――あ。
会社への連絡も藍野さんに任せてしまった。余程の重症だと思われてるかもしれない。
「インフルじゃない場合も数日有給を取るって竹林さんに言ってるから」
藍野さんが眼鏡を掛け、私の表情を窺っている。彼にとって、″竹林さん″が、私の気持ちを確かめるリトマス試験紙になっている?
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勿論、と返して彼は立ち上がった。
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