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夜間歩行

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 「スネイキングがいる!」

「角のコンビニにコレダーニャも!」

  昔のゲームが大好きな私たちは、目的地の展望台まで、モンスターを十数体ゲットして、いつの間にか先頭を切ってたどり着いていた。

「あ、あそこに点呼係の人がいる」

 颯斗くんが、展望台の駐車場に一台だけ止まった車を、目をしかめて見ていた。

「あれ、美海のお母さんじゃね?」

「ほんとだ」

  琢磨の学校ならまだしも、私の学校のPTAの仕事は殆ど引き受けたことがなかったお母さん。

 なのに、今夜は参加してくれていた。

 点呼してもらうために寄っていくと、お母さんは、少し照れ臭そうに私達の名前を呼んだ。

「美海、熊川くん。お疲れ様。一番のりね。皆が到着するまで星でも見てなさい」

 ……星。

 そっか。
 ここは星と海が見える展望台だった。

  私たちは手を取って、展望台の一番上に上がり空を眺めた。

 寒い。
 吐く息も白い。
 夜の海鳴りは怖かったけれど、それにも次第に慣れてきた。

「颯斗くんて、星とか興味ある?」

  星座を探しながら尋ねると、颯斗くんは、苦笑いして首を横に振った。

「残念ながら、俺はアニメとゲームのオタクですから」

「あはは、そうだったね。同じく。私も星にはあんまり興味ないよ」

 それでも、好きな人と見る星空は別格。
 壮大な宇宙に、私達しかいないような感覚に陥る。
 
 「星って小さく見えるけど、実際はデカイ石なんだろうな」

 「うん……」

 砕け散るまでの星の命は何年だろうか?
 何千年 ?
 それとも何万年?

 人間の命は、それに比べたら、とても儚い。
 
 若くして亡くなっても、どんなに長生きしても、その時間はとても貴重だ。


 しばらく二人とも無言で星を見つめる。

 時々、端正な颯斗くんの横顔を盗み見た。

 彼の目元が微かに濡れているように光っていた。

 こんなに、きれいな男の人。
 見たことない。

 外見も中身もきれいな颯斗くんと両思いになれた奇跡に心から感謝した。
 
  数分後、颯斗くんは、

「ちょっと座りたい」と言って、冷たい石でできた椅子に腰を下ろし始めた。

  このときは、颯斗くんは疲れたんだとそう思っていた。

「それにしても寒っ……」

 私も颯斗くんの隣に座って、くっついて寒さをしのごうと思った。
  だけど、いくら寄り添っても、腕を組んでも体温は上がらない。

「颯斗くん、動いてたほうが温まって寒くないかもよ、ここにもモンスターいるみたいだから、探しに行こう」

  颯斗くんの肩を揺さぶると、グラッ!!とその体は態勢を崩して前のめりに倒れ出した。

「……っ?!  颯斗くん?!!」

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