Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

文字の大きさ
23 / 35
2. No penny, No pardon.

5

しおりを挟む

 手に入れた二千円は計画的に使った。母に不審がられないように、欲しいものがあっても我慢した。だけど、期限が来れば手に入る我慢へ変化していったことで、今なかった余裕が生まれていた。

 お金が欲しい。お金さえあれば何にでもなれる。マリアさんは小学生ながら、躊躇いなく二千円を差し出せるほどたくさんのお小遣いをもらっている。育ちが良くて誰からも愛されて何不自由ない人生。産まれながら私に持っていないものを全て持っている存在。将来は絶対にマリアさんのような人になる。私だったらなれるはずだ。

 ネイルポリッシュをマリアさんに売ってから一か月後。学校が休みのため、一人スーパーで値引きされていたお握りをチビチビ食べながら、次は何を盗ろうか考えた。バレてしまった時どうのように母を誤魔化すかも。価値があるものないものの区別がつかないから、手当たり次第試すしかない。母は早朝から昼の仕事へ出かけていて夕方まで帰ってこないはずだ。その間に目星を付けておかなければ。
 
 しかし、物事はそう上手く進まなかった。ドレッサーの引き出しの中を物色していたその時、鍵の開く音が聞こえたと思ったら、部屋に突風が入ってきた。

 驚きのあまり、手に持っていたネイルポリッシュが音を立て散乱する。乱暴に開かれたドアの前は母がいた。彼女は大股で、固まって動けなくなっている私の前までやって来た。そして、冷たい視線で見下ろし静かに問う。

「私のネイル、盗んだでしょ?」

「え……。いや……、私じゃないよ……」

 震える声で応えた。用意していた言い訳が出てこない。

「だったら誰が盗んだって言うの! アンタしかいないでしょ!」

 母は金切り声を上げ、叱咤した。見えない空気の波が私を後ろへ退けたさせた気がした。あまりの剣幕に全てを白状した。

「このバカ!」

 パンッ! と渇いた音がこだました。

 母が頬を叩いたのだ。

「アンタを育てるために、私がどれだけ苦労しているか分かってんの? 我慢してるのは、アンタだけじゃない!」

「ごめん……ごめんなさい……」

 母がここまで怒りを露わにすることなど、今までなかった。人のものを盗み勝手に売るなど、絶対にやってはいけないことだった。私は土下座をするような格好で泣きながらひたすら謝った。

 すると、母は上半身を起こし抱きしめた。

「ごめんね……。叩いちゃって、痛かったでしょう……。ごめんね」

 今度は母も涙を流し謝り始めた。叩かれた頬はジンジンと痛いまま。だけど、母から伝わる温もりは心地よかった。

 この瞬間、彼女は自分の母親なのだと確信を持てた。

 それ以来、マリアさんから他にブランド品を持っていないか訊かれることがあったが、持ってないと答え続けた。どれだけせがまれても母の私物を盗むことはしなかった。もう私がブランド品を持っていないことを察すると、マリアさんはすぐに交流を止めた。

 やがて中学校へ進学するも、変わらず質素な生活は続いていく。一時期軟化していた母の態度はすっかり元に戻っていた。高校は自由に選ぶことができるのだろうか。今の生活水準のままであれば、受験できるかどうかすら危うい気がする。高校に進学できないとなれば最悪、父を頼ることにしよう。背に腹は代えられない。

 その矢先、私の不安は歪な形で実現した。部活から帰るとアパートの駐車場付近に一人の男性が立っていた。日はとっくに暮れていて、母はこの時間帯夜勤に出ている。誰かを待ち伏せているようで怖かったが、前を通らないと部屋に行くことができない。

 顔を伏せて早足で通り過ぎようとしたら、「ねぇ、ちょっと」と私を呼び止めた。聞いたことがある声。振り向くと、その男性は近づき言った。

「やっぱ嗣乃だったか。忘れたのか? お前の父親だよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...