Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

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1. No pain, No gain.

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 各々、冷めた食事を食べ始めた。俺が頼んだパンケーキは、上に乗ったアイスクリームが溶け原形を留めていなかった。メイプルシロップで味付けしなくとも、生地は甘味を吸っている。佐環と嗣乃はドリンクバーのみ注文したが、コーヒーを一杯飲んだだけでその場を動こうとしなかった。

 しかし、五分も経たない内に手が止まる。頼んだ食事を残し重く口を閉ざしていた。この状況で明るくいつも通りの振る舞いをすれば、もし裏切り者が出たとき真っ先に疑われてしまう。

 浅くなっていた呼吸を整える。考えすぎだ。明後日にはきっと、ひき逃げのことなんて忘れていつも通り食事をするみんなの姿が想像できた。たかがひき逃げ事件。すぐに解決するだろうと誰もが思っていた。

 次第に昼のピーク時間が近づき、作業着を着た会社員らしき人や子連れの母親たちが席の順番を待ち始めていた。

「そろそろ行こう。人が多くなってきた」

 甘すぎたパンケーキを半分残し、フォークとナイフを置く。

「そうだね。私も、もういいや」嗣乃が口を拭う。「次の目的地は俺のマンションでいいよね? そこで、カメラのデータを消す。確認できたら解散ってことで」

「オッケー。伊吹んとこまで、あと少しだ。頑張ろう」颯が伸びをしながら言う。「あ、だけど、財布。本当に諦めていいの?」

 今事故現場に戻ったら変な疑いをかけられてしまうかもしれない。それならいっそ「知らない」とシラを切ろう。迷った結果、戻らないことを伝える。

「大丈夫。キャッシュカードと免許証を作り直せばいいだけだから」

「うーん。ま、それもそうか」

 俺は勝矢にお礼を言って外に出る。巻き上がった排ガスにむせた。交通量は昨日の倍以上に増えている気がする。秋晴れの爽やかな土曜日の空はどこまでも青かった。

『痛み無くして、得るものはない』という格言を胸に、俺たちはP市を脱出した。身軽になりたくて、僅かな罪悪感と倫理観を、浜辺に埋めて。

 ◇

 これが、俺の知っている事故直後の出来事の全てだ。ファミレスを出た後、マンションに移動してアクションカメラのデータの消去を確認した。だから、ネズミがあの映像を持っていたなんて想定外だった。

 今でも正しい決断をしたと思っている。被害者があの巴海沙だったと発表があってから、SNSは大荒れだ。「自業自得」「同情できない」「運転手は加害者ではなく被害者」とか、ここぞとばかり好き勝手言われていた。もちろん、反対する意見もあった。けれど、彼らに話題性があれば正義か悪かなんて関係ないんだ。その代表が熊猫くまねこパンダとそのフォロワーたちだ。
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