13 / 35
1. No pain, No gain.
12
しおりを挟む
各々、冷めた食事を食べ始めた。俺が頼んだパンケーキは、上に乗ったアイスクリームが溶け原形を留めていなかった。メイプルシロップで味付けしなくとも、生地は甘味を吸っている。佐環と嗣乃はドリンクバーのみ注文したが、コーヒーを一杯飲んだだけでその場を動こうとしなかった。
しかし、五分も経たない内に手が止まる。頼んだ食事を残し重く口を閉ざしていた。この状況で明るくいつも通りの振る舞いをすれば、もし裏切り者が出たとき真っ先に疑われてしまう。
浅くなっていた呼吸を整える。考えすぎだ。明後日にはきっと、ひき逃げのことなんて忘れていつも通り食事をするみんなの姿が想像できた。たかがひき逃げ事件。すぐに解決するだろうと誰もが思っていた。
次第に昼のピーク時間が近づき、作業着を着た会社員らしき人や子連れの母親たちが席の順番を待ち始めていた。
「そろそろ行こう。人が多くなってきた」
甘すぎたパンケーキを半分残し、フォークとナイフを置く。
「そうだね。私も、もういいや」嗣乃が口を拭う。「次の目的地は俺のマンションでいいよね? そこで、カメラのデータを消す。確認できたら解散ってことで」
「オッケー。伊吹んとこまで、あと少しだ。頑張ろう」颯が伸びをしながら言う。「あ、だけど、財布。本当に諦めていいの?」
今事故現場に戻ったら変な疑いをかけられてしまうかもしれない。それならいっそ「知らない」とシラを切ろう。迷った結果、戻らないことを伝える。
「大丈夫。キャッシュカードと免許証を作り直せばいいだけだから」
「うーん。ま、それもそうか」
俺は勝矢にお礼を言って外に出る。巻き上がった排ガスにむせた。交通量は昨日の倍以上に増えている気がする。秋晴れの爽やかな土曜日の空はどこまでも青かった。
『痛み無くして、得るものはない』という格言を胸に、俺たちはP市を脱出した。身軽になりたくて、僅かな罪悪感と倫理観を、浜辺に埋めて。
◇
これが、俺の知っている事故直後の出来事の全てだ。ファミレスを出た後、マンションに移動してアクションカメラのデータの消去を確認した。だから、ネズミがあの映像を持っていたなんて想定外だった。
今でも正しい決断をしたと思っている。被害者があの巴海沙だったと発表があってから、SNSは大荒れだ。「自業自得」「同情できない」「運転手は加害者ではなく被害者」とか、ここぞとばかり好き勝手言われていた。もちろん、反対する意見もあった。けれど、彼らに話題性があれば正義か悪かなんて関係ないんだ。その代表が熊猫パンダとそのフォロワーたちだ。
しかし、五分も経たない内に手が止まる。頼んだ食事を残し重く口を閉ざしていた。この状況で明るくいつも通りの振る舞いをすれば、もし裏切り者が出たとき真っ先に疑われてしまう。
浅くなっていた呼吸を整える。考えすぎだ。明後日にはきっと、ひき逃げのことなんて忘れていつも通り食事をするみんなの姿が想像できた。たかがひき逃げ事件。すぐに解決するだろうと誰もが思っていた。
次第に昼のピーク時間が近づき、作業着を着た会社員らしき人や子連れの母親たちが席の順番を待ち始めていた。
「そろそろ行こう。人が多くなってきた」
甘すぎたパンケーキを半分残し、フォークとナイフを置く。
「そうだね。私も、もういいや」嗣乃が口を拭う。「次の目的地は俺のマンションでいいよね? そこで、カメラのデータを消す。確認できたら解散ってことで」
「オッケー。伊吹んとこまで、あと少しだ。頑張ろう」颯が伸びをしながら言う。「あ、だけど、財布。本当に諦めていいの?」
今事故現場に戻ったら変な疑いをかけられてしまうかもしれない。それならいっそ「知らない」とシラを切ろう。迷った結果、戻らないことを伝える。
「大丈夫。キャッシュカードと免許証を作り直せばいいだけだから」
「うーん。ま、それもそうか」
俺は勝矢にお礼を言って外に出る。巻き上がった排ガスにむせた。交通量は昨日の倍以上に増えている気がする。秋晴れの爽やかな土曜日の空はどこまでも青かった。
『痛み無くして、得るものはない』という格言を胸に、俺たちはP市を脱出した。身軽になりたくて、僅かな罪悪感と倫理観を、浜辺に埋めて。
◇
これが、俺の知っている事故直後の出来事の全てだ。ファミレスを出た後、マンションに移動してアクションカメラのデータの消去を確認した。だから、ネズミがあの映像を持っていたなんて想定外だった。
今でも正しい決断をしたと思っている。被害者があの巴海沙だったと発表があってから、SNSは大荒れだ。「自業自得」「同情できない」「運転手は加害者ではなく被害者」とか、ここぞとばかり好き勝手言われていた。もちろん、反対する意見もあった。けれど、彼らに話題性があれば正義か悪かなんて関係ないんだ。その代表が熊猫パンダとそのフォロワーたちだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる