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なんでもあり〼
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高田馬場の駅を出て、ふと気まぐれに裏道へと入った。
昼間なのに、どこか陰った通り。飲食店の看板は色褪せ、ビルの壁面には時代の埃が貼りついている。
――このへん、あまり来たことなかったな。
そんなことを考えながら、角を曲がったその先に、妙な露店が現れた。
「なんでもあり〼」
と書かれた赤いのぼりが、ぱたぱたとはためいている。
カラフルな布製パラソル。
そして、ガムテープで補強された折りたたみテーブルの上に、得体の知れない商品がずらりと並ぶ。
特に多いのが、さまざまな形の小さなガラス瓶。中には何やら液体が入っていた。
……その瞬間、脳裏に浮かんだのは――
池袋駅の北口から出た路地裏で、たまに現れるという「なんでもあり〼」の露店の都市伝説だった。
そんな馬鹿な、と思いながら近づいてみると、突然ひょいと男が現れた。
え、今、何もない空間から出てきた……?!
アフロが手入れされずに伸びきったような、ふわふわと広がった髪。
サングラスに、派手なアロハシャツ、黒いサルエルパンツ。
胡散臭さ100%、信用度マイナス300%。
「いらっしゃーい! さぁさぁ、見てくれたってかまわないッスよ~!」
「あの……ここって……高田馬場ですよね?
確かこのお店って……」
「細けぇことは気にすんな☆ 駅の気まぐれで場所がズレるんスよ~!」
はあ?
「池袋の北口に出るって聞いたんですけど?」
「いや~、最近の駅は自由人ッスから~」
どういう理屈だ。
「で、何を売ってるんですか?」
「なんでもあり〼ッス~! ほら、見て見て!
絶対♡起きられないオルゴール、全て叶うキラッ☆お守り、あとこれ、自己肯定感キャンディ~!」
「……全部、名前が怪しすぎるんですけど」
「みんなそう言うッス。でもね、これは全部“気の持ちよう”を売ってるんスよ~」
いや、それもう詐欺じゃん。
「ちなみにこれ、今いちばん人気なんスけど……転生ポーション。
死んだあと、行きたい異世界に行ける、かもしれないやつ~」
そう言って男は、ガラス瓶を指差す。
「かもしれないって」
「確率は五分五分! 人生も死後も運ッスよ☆」
「そもそも、ほんとに効くんですか?」
「効いたかどうかは、飲んだ人にしかわからないッス~!」
やっぱ詐欺では?
「今なら異世界行きガチャ券もセットでついてき〼!」
……どこで使うんだよ、そのガチャ券。
「試飲、してみます?」
「えーと、無料ですか?」
「一口だけ、ね。ただし、その一口が最後の一口になるかも~☆」
あ、そうなると実質無料かぁ、とぼんやり考えたそのとき。
男が、にやりとサングラスの奥で笑ったような気がした。
気がつけば、周囲の音が消えていた。
人通りのあるはずの裏道に、自分しかいない。
風もない。
音もない。
まるで、この場所だけ、切り離されてしまったような。
「……や、やめときます」
「残念~! また来てね~!」
男は軽くウインクして、親指を立てた。
その瞬間、ぐらりと視界が揺れて――
気づけば、自分は駅前に戻っていた。
露店も、裏道も、なかった。
その夜、検索してみると、やはりあの噂だけが引っかかった。
【都市伝説】池袋駅北口の「なんでもあり〼」露店。
売っているのは運命や願望。
その店に出会った者は、二度と同じ人生には戻れない――
あれは夢だったのか。
それとも、現実の隙間にある、もうひとつのレールだったのか。
――また会う気がする。
気まぐれな駅が、道をズラしたそのときに。
昼間なのに、どこか陰った通り。飲食店の看板は色褪せ、ビルの壁面には時代の埃が貼りついている。
――このへん、あまり来たことなかったな。
そんなことを考えながら、角を曲がったその先に、妙な露店が現れた。
「なんでもあり〼」
と書かれた赤いのぼりが、ぱたぱたとはためいている。
カラフルな布製パラソル。
そして、ガムテープで補強された折りたたみテーブルの上に、得体の知れない商品がずらりと並ぶ。
特に多いのが、さまざまな形の小さなガラス瓶。中には何やら液体が入っていた。
……その瞬間、脳裏に浮かんだのは――
池袋駅の北口から出た路地裏で、たまに現れるという「なんでもあり〼」の露店の都市伝説だった。
そんな馬鹿な、と思いながら近づいてみると、突然ひょいと男が現れた。
え、今、何もない空間から出てきた……?!
アフロが手入れされずに伸びきったような、ふわふわと広がった髪。
サングラスに、派手なアロハシャツ、黒いサルエルパンツ。
胡散臭さ100%、信用度マイナス300%。
「いらっしゃーい! さぁさぁ、見てくれたってかまわないッスよ~!」
「あの……ここって……高田馬場ですよね?
確かこのお店って……」
「細けぇことは気にすんな☆ 駅の気まぐれで場所がズレるんスよ~!」
はあ?
「池袋の北口に出るって聞いたんですけど?」
「いや~、最近の駅は自由人ッスから~」
どういう理屈だ。
「で、何を売ってるんですか?」
「なんでもあり〼ッス~! ほら、見て見て!
絶対♡起きられないオルゴール、全て叶うキラッ☆お守り、あとこれ、自己肯定感キャンディ~!」
「……全部、名前が怪しすぎるんですけど」
「みんなそう言うッス。でもね、これは全部“気の持ちよう”を売ってるんスよ~」
いや、それもう詐欺じゃん。
「ちなみにこれ、今いちばん人気なんスけど……転生ポーション。
死んだあと、行きたい異世界に行ける、かもしれないやつ~」
そう言って男は、ガラス瓶を指差す。
「かもしれないって」
「確率は五分五分! 人生も死後も運ッスよ☆」
「そもそも、ほんとに効くんですか?」
「効いたかどうかは、飲んだ人にしかわからないッス~!」
やっぱ詐欺では?
「今なら異世界行きガチャ券もセットでついてき〼!」
……どこで使うんだよ、そのガチャ券。
「試飲、してみます?」
「えーと、無料ですか?」
「一口だけ、ね。ただし、その一口が最後の一口になるかも~☆」
あ、そうなると実質無料かぁ、とぼんやり考えたそのとき。
男が、にやりとサングラスの奥で笑ったような気がした。
気がつけば、周囲の音が消えていた。
人通りのあるはずの裏道に、自分しかいない。
風もない。
音もない。
まるで、この場所だけ、切り離されてしまったような。
「……や、やめときます」
「残念~! また来てね~!」
男は軽くウインクして、親指を立てた。
その瞬間、ぐらりと視界が揺れて――
気づけば、自分は駅前に戻っていた。
露店も、裏道も、なかった。
その夜、検索してみると、やはりあの噂だけが引っかかった。
【都市伝説】池袋駅北口の「なんでもあり〼」露店。
売っているのは運命や願望。
その店に出会った者は、二度と同じ人生には戻れない――
あれは夢だったのか。
それとも、現実の隙間にある、もうひとつのレールだったのか。
――また会う気がする。
気まぐれな駅が、道をズラしたそのときに。
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