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緊急速報:本日午後七時、地球周回軌道上に巨大構造体が確認されました
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八月、蒸し暑い夜だった。
テレビでは巨人対スワローズ戦。
五回裏、二対二。
アナウンサーの実況と、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえる。
「――第六球目、投げました――」
その瞬間、画面がパッと切り替わった。
青地に白い文字で「緊急速報」。
すぐにニューススタジオが映る。
スーツ姿の男性アナウンサーが、真面目な顔でこちらを見つめていた。
「こちら報道センターより、緊急速報をお伝えします」
祖父も母も、麦茶のグラスの水滴も、そのまま動かない。
アナウンサーが、やけにゆっくり口を開いた。
「アメリカ航空宇宙局、NASAは、日本時間・本日午後七時、地球周回軌道上にて巨大構造体を確認したと発表しました。全長は推定三百キロメートル。現在、詳細は不明とのことです」
映像はアナウンサーだけ。
静かな声だけが、部屋に響いていた。
祖父はふう、とため息をつき、タバコをくわえたまま言った。
「……また、妙なもんが来たもんだな」
――翌朝。
新聞の一面には「巨大構造体、なお周回中」。
だが、町の様子は特に変わらない。
ラジオからは演歌が流れ、商店街では半額セール。
遠い出来事のように、ただラジオを聞き、テレビを眺め、鍋に火をかける。
辺りには、蚊取り線香の香りが漂っていた。
「おまえたちも、いつもどおりにしとけ」
祖父はそう言って、団扇であおぎながら、少しだけ遠くを見る目をした。
翌日からは、自衛隊の緑色のトラックが、何度も静かに通り過ぎていった。
荷台には覆いがかけられ、中身は見えない。
誰も騒がず、ただ見送るだけ。
夜になると、空は青白く光り、ラジオは時折ふっと途切れ、テレビ画面にはノイズが走る。
それでも人々は、何も言わないまま日々を続けていた。
まるで、もうどうにもならないと、とうにわかっていたかのように。
ただ静かに――“それ”が、ゆっくりと地上へ降りてくるのを感じながら。
テレビでは巨人対スワローズ戦。
五回裏、二対二。
アナウンサーの実況と、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえる。
「――第六球目、投げました――」
その瞬間、画面がパッと切り替わった。
青地に白い文字で「緊急速報」。
すぐにニューススタジオが映る。
スーツ姿の男性アナウンサーが、真面目な顔でこちらを見つめていた。
「こちら報道センターより、緊急速報をお伝えします」
祖父も母も、麦茶のグラスの水滴も、そのまま動かない。
アナウンサーが、やけにゆっくり口を開いた。
「アメリカ航空宇宙局、NASAは、日本時間・本日午後七時、地球周回軌道上にて巨大構造体を確認したと発表しました。全長は推定三百キロメートル。現在、詳細は不明とのことです」
映像はアナウンサーだけ。
静かな声だけが、部屋に響いていた。
祖父はふう、とため息をつき、タバコをくわえたまま言った。
「……また、妙なもんが来たもんだな」
――翌朝。
新聞の一面には「巨大構造体、なお周回中」。
だが、町の様子は特に変わらない。
ラジオからは演歌が流れ、商店街では半額セール。
遠い出来事のように、ただラジオを聞き、テレビを眺め、鍋に火をかける。
辺りには、蚊取り線香の香りが漂っていた。
「おまえたちも、いつもどおりにしとけ」
祖父はそう言って、団扇であおぎながら、少しだけ遠くを見る目をした。
翌日からは、自衛隊の緑色のトラックが、何度も静かに通り過ぎていった。
荷台には覆いがかけられ、中身は見えない。
誰も騒がず、ただ見送るだけ。
夜になると、空は青白く光り、ラジオは時折ふっと途切れ、テレビ画面にはノイズが走る。
それでも人々は、何も言わないまま日々を続けていた。
まるで、もうどうにもならないと、とうにわかっていたかのように。
ただ静かに――“それ”が、ゆっくりと地上へ降りてくるのを感じながら。
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