いたずらはため息と共に

常森 楽

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1.恋愛初心者

25.彼女

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次の掃除の時間。
彼女の声が耳元で聞こえた。
なんとも心地良い目覚め。
一瞬目を開けそうになって、彼女の気配がすぐそばにあるのを感じて、グッと堪えた。
「起きないと、いたずらしちゃいますよ」
一気に鼓動が高鳴る。
なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ。
これがギャップ萌えの恐ろしさか。
私も例に違わずガキだった。
追い打ちをかけるように「綺麗」と言われ、悶えたくなる。
でもすぐに冷静になる。
彼女が諦めて、私から離れそうな気配があったからだ。
この時間を終わらせたくない。
このチャンスを見逃したくない。
だから、彼女の手を掴んだ。

彼女ともっと話したくて頑張って起きていたけど、千陽達に邪魔された。
わざと机の中にスマホを置いていって、クレープ屋に行く途中で学校に引き返す。
教室に戻っても、彼女はいなかった。
一瞬、もう帰ってしまったのかと焦ったけど、机に鞄がかかっていてホッとした。
彼女が帰ってきて喜んだのも束の間、彼女の顔を見て胸が痛んだ。すごく悲しそうな顔をしていたから。

その後、彼女がしどろもどろになっているのが可愛くて、つい“いたずら”する。
本当は普通に遊びに誘うはずだったんだけど、どうしても彼女が耳元で囁いた「いたずらしちゃいますよ」が脳裏にこびりついて離れない。
ポケットが振動して、また千陽に邪魔された。まあ、待たせてしまっている申し訳なさもないわけではないけど。
…と思っていたら、彼女からいたずら返しされた。千陽、ナイスだった。
彼女が子供みたいな言い訳をする姿はあまりに可愛くて、“好き”の気持ちは暴走寸前だ。
暴走しそうな気持ちを必死に抑えたら、危うく連絡先を聞き損ねるところだった。無事彼女の連絡先をゲットして、千陽達に合流した。
それから、どうせ千陽達に邪魔されるなら…と、ちゃんと放課後に起きるのはやめた。今まで通り、寝て過ごす。

彼女から送られてくるメッセージは簡素だった。うん、イメージ通り。
彼女は学校から徒歩20分くらいのところに住んでいると、メッセージで教えてもらった。
だから学校の最寄り駅に、土曜日、朝の10時半待ち合わせ。
お母さんが起きると面倒だから、朝8時に家を出た。少し散歩して時間を潰す。
近所の駄菓子屋(もはや絶滅危惧種)でガムとペロペロキャンディを買う。おじいちゃんが店主だから、朝が早いのはとても良い。
小さな箱に3粒入ったガムを、一気に口に放り込んだ。3粒もあるのに、すぐに味がなくなる。
味のないガムを噛みながら、電車に乗った。まだ9時だった。ここから30分で学校の最寄り駅につく。
約束の1時間も前についちゃうな…と思いながら、窓の外を見る。少し目を閉じると、すぐに意識がなくなった。

気づいたら降りる駅だった。慌てて降りて、ホーム中央にある椅子に座る。隣にゴミ箱があったから、ガムを捨てた。
また目を閉じる。目を開けるとびっくり、30分も経っていた。
まだ約束の時間になっていなくてホッとした。
このまま椅子に座っていたらまた寝てしまうと思い、改札を出て時計台に寄りかかった。ポケットに突っ込んでいたペロペロキャンディを舐める。
これはけっこう分厚くて、しばらくは保つだろう…と思っていたら、5分後に彼女が来た。
早い。…うん、まあ、これもイメージ通り。さすがに早すぎだと思うけど…そんなところも素敵だ。
初めて見る、制服以外の姿。
今までこういうのにキュンとしたことなんてなかった。初めてだ。…なんというか、下腹部が疼くと表現すればいいのか。…そんなゲスな考えは彼女に抱いてはいけない、と自分を律する。
とにかく可愛い。最高だ。以上。

去年は夏休みに千陽と複数人のクラスメイトと海に来た。
千陽は可愛いうえに巨乳で、本人は「太って見えるから嫌だ。人から変な目で見られることも多いし」と言うけど、その主張が嘘と思えるくらい武器にしている。
実際、着てきた水着はビキニで、何度かナンパされていた。
「そんな格好してたら襲われるぞー」と言ったら「永那にならいいよ♡」と言ってきたから無視した。
とりあえず夏用の薄手のパーカーを羽織らせると「永那大好き」と抱きつかれた。
こういうのがいちいち鬱陶しい。
…ああ、空井さんはどんな水着を着るんだろう?夏休み、また海に誘いたいな。
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