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2.変化
98.夏休み
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■■■
音が聞こえた。
うるさくて、眉頭に力が込もる。
けたたましく鳴った後、止まった。
音が止まったことに安心して、私はまた微睡みのなかに引き寄せられていく。
でもそれは許されないかのように…いや、違う。
それは、優しく、導いてくれるかのように私に触れて、意識がハッキリしていく。
あたたかくて、少しくすぐったいような…心地よくて、ずっと触れていてほしいと願ってしまうような、そんな感覚。
目を薄く開くと、目の前に頭があった。
匂いで、すぐに穂だとわかる。
…そうだ。私は穂のベッドで寝ていたんだった。
私から『月曜から金曜まで毎日会いたいって言ったら迷惑?』と聞いた。
でもだからって、本当に毎日会えるとは全然思っていなくて。
そりゃあもちろん、毎日会いたい気持ちは本心だけど。
毎日家に来られたら普通に迷惑だろうし、家に来たところで私が寝てしまうなら、彼女にとって、有意義な時間になるとも思えなかったから。
数日くらいなら多少寝なくても過ごせる。
だからたまに家に来させてもらったり、一緒に遊んだりしてくれれば嬉しいと思っていた。
その程度のノリで、言っただけだった。
だから穂が、本当に毎日会うつもりでいてくれたのが嬉しくて。
当たり前のように、私が毎日来ると言ってくれる気持ちがたまらなく嬉しくて、心の底から、今が人生で1番幸せだと言える。
深呼吸すると、彼女の髪がふわふわと顔にかかってくすぐったい。
彼女は私の胸元に顔を埋めて、グリグリと肌を擦っているようだった。
…くすぐったさの原因はこれか。
首元にも彼女の髪がふわふわと当たっている。
くすぐったいっていうか、痒い。
ギュッと抱きしめられて、まるで母親に甘える子供みたいだ。
(痒い原因の)頭を撫でる。
すると彼女のグリグリは止まって、ゆっくり頭が上がっていく。
彼女の瞳が普段よりも垂れていて、心臓がトクンと鳴る。
「穂?」
「永那ちゃん」
その声も、普段よりもゆったりしていて、可愛らしい。
「寝てたの?」
そう聞くと、コクリと頷く。
あまりの可愛さに、口元が綻ぶ。
どうしようもなく私の体は、その姿に反応する。
下腹部が疼いて、今すぐ彼女を食べたくなる。
目を閉じて、フゥッと息を吐く。
今日、彼女は生理だと言っていた。
当然そういうことはできないから、我慢することになる。
我慢に我慢を重ねて、仕方ないことだとわかりつつも、私の脳みそは爆発寸前だ。
おあずけのおあずけを食らったようなものだから。
でも、それもいい。
“焦らなくていい、時間はあるのだから”
いつか彼女が言ってくれた。
私は彼女の頭を撫で続ける。
彼女の顔が近づいてきて、キスするのかと思ったら、コツンと額が合わさった。
「永那ちゃん」
「ん?」
「よく眠れた?」
「うん、ありがとう」
ふへへと笑う姿が、いつもしっかりしてる姿とは全然違くて、心臓がもちそうにない。
「起きた?」
突然声がして、心臓が跳ねる。
でも彼女が上に乗っていて、どうすることもできずに、ただ焦る。
「あー、もう。姉ちゃん」
強引に体温が引き剥がされる。
「永那ちゃん、ごめんね?」
誉が慣れた手つきで彼女を起こす。
彼女は正座して、目をクシクシ掻いていた。
「姉ちゃん、昼寝するといつもこうなんだ」
困ったように笑いながらも、どこか嬉しそうな誉。
「“こう”って?」
「んー…子供みたいになるっていうか…。まあ、顔洗わせたら、そのうち戻るから」
彼は穂の腕を引っ張って、洗面台に連れて行く。
私は何度か瞬きして、スーッと息を吸った。
“昼寝すると、いつもこう”か。
ペロリと唇を舐める。
悪くないなあ。…なんて。
私も立ち上がって、洗面台に向かう。
穂はちょうど顔を洗い終えたところだったらしく、誉が「ほら、顔拭いて」とタオルを渡していた。
「あ、永那ちゃんも洗う?」
私に気づいて、誉が聞いてくれる。
「うん、ありがと」
顔を洗い、うがいをする。
誉がタオルを渡してくれるから、なんだか嬉しくて、下唇を噛みながら笑う。
…家族みたい。
「ねえ、誉?」
「なに?」
「“ちゃん”つけなくていいよ。永那で、いいよ」
誉は目をパチパチと開閉して、ニコッと笑った。
「わかった」
“ちゃん”は穂だけでいい。
穂だけの、特別だ。
私達は床に座ってお茶を飲む。
床と言っても、ラグが敷かれているから、寝転がるのも気持ちよさそうだ。
だんだん穂は意識がハッキリしてきたのか、「永那ちゃん、よく眠れた?」と、さっきと同じことを聞かれた。
嬉しくて、笑いながら頷くと、彼女は首を傾げながらも「よかった」と笑った。
眠くて意識がハッキリしていなくても、私がよく眠れたかどうかを気にしてくれたのだとわかる。
穂の純粋な優しさに、心があったまる。
「また明日も来れるのかあ。夏休み、最高だな」
そう呟くと、「夏休み、嫌いな人なんていないんじゃない?」と誉が言った。
去年まで、私は嫌いだった。
千陽と過ごす日が多かったけど、毎日会うのは躊躇われて。
会うとなっても、たいていは公園かショッピングセンターで時間を潰すだけ。
1日か2日は千陽の家に遊びに行かせてもらったけど、どうもあの母親は好きになれなかったし、千陽の部屋にはびっくりするくらい何も物がない。
あるのは服とか化粧品だけで、他は何もない。
暇つぶしする物も特になく、ただダラダラと過ごして、時間を消費していくだけだった。
優里の家に遊びに行ったこともあったけど、それも1日だけ。
お母さんが優しくて、すごく気を遣ってくれる。
それがなんだか逆に申し訳なく思えて、ずっと笑顔を作っていなければならなくて、帰るときにほっぺが痛かった。
クラスメイトとの遊びを企画しても、私はそんなにお金があるわけじゃないから、だんだん自分が惨めに思えた。
音が聞こえた。
うるさくて、眉頭に力が込もる。
けたたましく鳴った後、止まった。
音が止まったことに安心して、私はまた微睡みのなかに引き寄せられていく。
でもそれは許されないかのように…いや、違う。
それは、優しく、導いてくれるかのように私に触れて、意識がハッキリしていく。
あたたかくて、少しくすぐったいような…心地よくて、ずっと触れていてほしいと願ってしまうような、そんな感覚。
目を薄く開くと、目の前に頭があった。
匂いで、すぐに穂だとわかる。
…そうだ。私は穂のベッドで寝ていたんだった。
私から『月曜から金曜まで毎日会いたいって言ったら迷惑?』と聞いた。
でもだからって、本当に毎日会えるとは全然思っていなくて。
そりゃあもちろん、毎日会いたい気持ちは本心だけど。
毎日家に来られたら普通に迷惑だろうし、家に来たところで私が寝てしまうなら、彼女にとって、有意義な時間になるとも思えなかったから。
数日くらいなら多少寝なくても過ごせる。
だからたまに家に来させてもらったり、一緒に遊んだりしてくれれば嬉しいと思っていた。
その程度のノリで、言っただけだった。
だから穂が、本当に毎日会うつもりでいてくれたのが嬉しくて。
当たり前のように、私が毎日来ると言ってくれる気持ちがたまらなく嬉しくて、心の底から、今が人生で1番幸せだと言える。
深呼吸すると、彼女の髪がふわふわと顔にかかってくすぐったい。
彼女は私の胸元に顔を埋めて、グリグリと肌を擦っているようだった。
…くすぐったさの原因はこれか。
首元にも彼女の髪がふわふわと当たっている。
くすぐったいっていうか、痒い。
ギュッと抱きしめられて、まるで母親に甘える子供みたいだ。
(痒い原因の)頭を撫でる。
すると彼女のグリグリは止まって、ゆっくり頭が上がっていく。
彼女の瞳が普段よりも垂れていて、心臓がトクンと鳴る。
「穂?」
「永那ちゃん」
その声も、普段よりもゆったりしていて、可愛らしい。
「寝てたの?」
そう聞くと、コクリと頷く。
あまりの可愛さに、口元が綻ぶ。
どうしようもなく私の体は、その姿に反応する。
下腹部が疼いて、今すぐ彼女を食べたくなる。
目を閉じて、フゥッと息を吐く。
今日、彼女は生理だと言っていた。
当然そういうことはできないから、我慢することになる。
我慢に我慢を重ねて、仕方ないことだとわかりつつも、私の脳みそは爆発寸前だ。
おあずけのおあずけを食らったようなものだから。
でも、それもいい。
“焦らなくていい、時間はあるのだから”
いつか彼女が言ってくれた。
私は彼女の頭を撫で続ける。
彼女の顔が近づいてきて、キスするのかと思ったら、コツンと額が合わさった。
「永那ちゃん」
「ん?」
「よく眠れた?」
「うん、ありがとう」
ふへへと笑う姿が、いつもしっかりしてる姿とは全然違くて、心臓がもちそうにない。
「起きた?」
突然声がして、心臓が跳ねる。
でも彼女が上に乗っていて、どうすることもできずに、ただ焦る。
「あー、もう。姉ちゃん」
強引に体温が引き剥がされる。
「永那ちゃん、ごめんね?」
誉が慣れた手つきで彼女を起こす。
彼女は正座して、目をクシクシ掻いていた。
「姉ちゃん、昼寝するといつもこうなんだ」
困ったように笑いながらも、どこか嬉しそうな誉。
「“こう”って?」
「んー…子供みたいになるっていうか…。まあ、顔洗わせたら、そのうち戻るから」
彼は穂の腕を引っ張って、洗面台に連れて行く。
私は何度か瞬きして、スーッと息を吸った。
“昼寝すると、いつもこう”か。
ペロリと唇を舐める。
悪くないなあ。…なんて。
私も立ち上がって、洗面台に向かう。
穂はちょうど顔を洗い終えたところだったらしく、誉が「ほら、顔拭いて」とタオルを渡していた。
「あ、永那ちゃんも洗う?」
私に気づいて、誉が聞いてくれる。
「うん、ありがと」
顔を洗い、うがいをする。
誉がタオルを渡してくれるから、なんだか嬉しくて、下唇を噛みながら笑う。
…家族みたい。
「ねえ、誉?」
「なに?」
「“ちゃん”つけなくていいよ。永那で、いいよ」
誉は目をパチパチと開閉して、ニコッと笑った。
「わかった」
“ちゃん”は穂だけでいい。
穂だけの、特別だ。
私達は床に座ってお茶を飲む。
床と言っても、ラグが敷かれているから、寝転がるのも気持ちよさそうだ。
だんだん穂は意識がハッキリしてきたのか、「永那ちゃん、よく眠れた?」と、さっきと同じことを聞かれた。
嬉しくて、笑いながら頷くと、彼女は首を傾げながらも「よかった」と笑った。
眠くて意識がハッキリしていなくても、私がよく眠れたかどうかを気にしてくれたのだとわかる。
穂の純粋な優しさに、心があったまる。
「また明日も来れるのかあ。夏休み、最高だな」
そう呟くと、「夏休み、嫌いな人なんていないんじゃない?」と誉が言った。
去年まで、私は嫌いだった。
千陽と過ごす日が多かったけど、毎日会うのは躊躇われて。
会うとなっても、たいていは公園かショッピングセンターで時間を潰すだけ。
1日か2日は千陽の家に遊びに行かせてもらったけど、どうもあの母親は好きになれなかったし、千陽の部屋にはびっくりするくらい何も物がない。
あるのは服とか化粧品だけで、他は何もない。
暇つぶしする物も特になく、ただダラダラと過ごして、時間を消費していくだけだった。
優里の家に遊びに行ったこともあったけど、それも1日だけ。
お母さんが優しくて、すごく気を遣ってくれる。
それがなんだか逆に申し訳なく思えて、ずっと笑顔を作っていなければならなくて、帰るときにほっぺが痛かった。
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