いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

142.海とか祭りとか

「あと最近は、永那が読みたいって言うから、一緒に漫画読んだりゲームしたりする。今度さ、千陽も一緒に遊ぼうよ?」
残りの夏休みをどう過ごせばいいかわからずにいたあたしにとって、魅惑的な誘い。
「いいよ」
「え!?マジ!?えーっと…今度の月曜は?」
「べつにいいけど…永那いるんでしょ?」
「うん。じゃあ、姉ちゃんと永那に言わないと」
足の甲から膝まで塗り終えて、弟が膝立ちになる。
「こんなもんでいいかな?」
「まだ終わってないでしょ?」
「え?」
ジッと見ていると、頬を掻く。
「太股も?」
あたしは何も言わずに、また視線を遠くに戻した。
彼の手が触れて、ひんやりした感覚に緊張する。
グッと奥歯を噛んで、冷静を装う。
触れられたくない。気持ち悪い。

「や、やっぱ、やめるよ」
そう言って、パッと手を離される。
思わず眉間にシワを寄せる。
「だって、なんか、千陽、嫌そうだったし」
イライラする。クソガキ。
「早くやれよ」
「でも」
睨むと、弟が驚いたように目を見開く。
日焼け止めで白くなった手を宙に彷徨わせ、キョロキョロし始める。
「わ、わかったよ…」
もう冷たさの消えた日焼け止めを、彼があたしの足に塗っていく。
…これが、永那だったら。
去年は、背中を永那に塗ってもらった。
でも、彼女は避けるように太股や胸にはさわらなかった。
“それくらい自分でやれよ”と、冷たく言われた。
あたしは目を閉じて、永那を想像する。
不思議と緊張感がやわらいで、心が落ち着いていく。

「誉!?」
空井さんの声が悲鳴にも近い。
「ね、姉ちゃん」
「何やってるの!?」
目の前で弟の頭が叩かれる。
「いってー」
「ごめんなさい、佐藤さん」
「べつに」
あたしは床についていた手を払って、弟の塗り残し部分を自分で塗っていく。
永那がお腹を抱えて笑ってる。
…好き。
「誉、なにやってんだよー」
「えー?」
弟が困った表情であたしを見るけど、あたしは知らんぷりする。
「私も塗ってー!誉ー!」
優里が弟を後ろから抱きしめる。
弟が顔を赤らめて「ええ!?」と驚いている。
案外、弟は優里が好きなのかも?なんて。

優里が結んだ髪を片手で上げて「ちゃんと紐の下も塗ってね?」と言って、弟に背中を塗ってもらっている。
あたしも背中から塗ってもらえば良かったかも。
すい、私が塗ってあげるよ?」
「いいよ、自分でできるから」
「えー、でもさ?ほら、背中は塗れないでしょ?」
永那の顔がデレデレしてて、胸糞悪い。
「あ、月曜日さ。千陽に一緒に遊ぼうって言ったんだけど、姉ちゃんと永那、家に呼んでもいいかな?」
「あれー?私はー?」
「優里は部活って言ってたじゃん」
弟に言われて、優里が膨れっ面になる。
「大丈夫だよ」
空井さんが答える。
「じゃあ4人で遊ぼー」
優里がギャーギャー騒ぐ。

「俺、なんかご飯買ってくるよ」
「じゃあ私も行くー!」
「千陽は、さっきの串焼き食べる?」
あたしが頷くと、弟が嬉しそうに笑う。
「あたしも行く」
立ち上がって、2人についていく。
永那と空井さんのところに残さないでよ。
少し遠く離れてからシートを見ると、2人がキスしていた。
…本当、嫌になる。
「そういえば、2人はお祭り行くの?」
「私は部活の友達と行く予定だよ」
「あたしは…行かない」
「誉は?」
「俺も友達と行く予定!…千陽、1人なら一緒に行く?」
眉間にシワが寄る。
「行かない。人混み嫌いだし」
「そっか」
「タイミングがあえば、誉と会えるかもね」
「そうだね!」
中学のとき、1回だけ永那とお祭りに行ったことがある。
そのときは2人で人混みでもみくちゃにされて、酷く疲れた覚えがある。
それでも、2人で人気ひとけの少ないところを探して、疲れてしゃがみこんだ記憶は、楽しかった思い出の1つ。

何人かに声をかけられたけど、無視したり、しつこければ弟が断ってくれたりして、なんとか人数分の食事が買えた。
3人で手分けして持って、シートに戻る。
遠くからでも、永那と空井さんがくっついているのがわかる。
永那が空井さんを後ろから抱きしめている。
「あの2人、俺に付き合ってるって知られてから、本当遠慮なくなって困るよ」
「誉ももう知ってるんだ」
弟が頷く。
「普段、2人、どんな感じなの?」
あたしが聞くと、弟は立ち止まって考える。
「この前、普通に俺の前でキスしてた」
…引くわー。
「姉ちゃんは怒ってたけど」
また永那が暴走してるのか。呆れる。
「あと…でも、喧嘩してたな?」
「え?あの2人が?」
「うん。理由はよくわかんないけど、永那が悪いことしたんだって」
「まあ、穂ちゃんが悪いことするとこは想像できないもんね…」
「そう?姉ちゃん言い方キツいし、それも悪いんじゃないの?」
弟が呑気に笑う。
また歩き出して戻ると、空井さんの顔が赤くなった。
身動ぐけど、永那が離そうとしなかった。

イカ焼きはソースが垂れて、少し食べにくかった。
胸元に落とすと、弟が顔を真っ赤にしながら紙をわたしてくれる。
空井さんの弟と思うと、いじめたくなる。
「拭いてよ」
そう言うと、弟は助けを求めるように永那と空井さんを見た。
「ち、千陽…!誉になんてことさせるつもりなの…!」
優里が助け船を出す。
「いいじゃん、両手が塞がってて拭けないんだもん」
わざと飲み物とイカを持って、上目遣いに見た。
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