いたずらはため息と共に

常森 楽

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4.踏み込む

224.疲労

フゥーッと息を吐いて、思わず口元が緩んだ。
「そっかあ。最高かあ」
「あの!嫌ですよね!すびばせん!本当に…ほんとーに!申し訳ないで、す…あ、あの、勝手に…なんか…」
「べつに。なんとも思わないけど」
森山さんは何度も瞬きをして、首を90度ひねった。
…痛くないの?
「あたし、可愛いし。空井そらいさんも、可愛いもんね?」
顎を上げて、彼女を見下ろす。
ニヤリと笑うと、彼女の目が大きく開かれた。
「…はい」
小さな声で、瞳を潤ませてまっすぐ言うから…逆に、恥ずかしくなった。
そのまま、あたし達の良さを説かれた。
無駄に饒舌で、すごく恥ずかしかった。

そんなこんなで、彼女にとって、あたし達は推しカプだということが判明した。
推しって…そんな対象に見られているなんて、思いもしなかった。
あたしはどうでもいいけど、穂は…嫌がりそう。
「空井さんがあたしの家に泊まったけど、何か考えてたの?」
「へっ!?!?」
人差し指と人差し指をグルグル凄い勢いで回して、彼女は汗を流す。
キョロキョロして、周りを確認する。
あたしは彼女の耳元に口を近づけた。
「最高、だったよ」
一気に彼女の顔が真っ赤に染まって、白目を剥いて、机に倒れた。
「森山さん?」
肩を揺さぶっても何も反応がない。
…え?…大丈夫なの?これ。
「森山さん」
「ハッ…!!!!すびばせん…」
変な人。

「昨日、永那も来てね」
森山さんの目が、かつてないほど大きくなっている。
「楽しかったよ」
彼女の鼻から血が流れる。
「え…」
ポタポタと机に血が落ちる。
「森山!?」
塩見が反応する。
「な、なに!?どうしたの!?」
「知らない」
塩見がポケットからティッシュを出して「ほら、これ使えよ」とわたしてあげていた。
「あ、ああありがとうございまし」
まし…。
塩見に介抱される森山さんを、頬杖をついて眺める。
…今度、百合の漫画でも貸してもらおうかな。

いつも来る時間に、穂が来ない。
スマホを出して、メッセージを送る。
『寝坊?』
少しして既読がつく。
『熱、出ちゃった。学校休みます。…千陽も永那ちゃんも、大丈夫かな?』
鼓動が速くなる。
『あたし達は大丈夫だよ』
『良かった』
「ちょっと、ごめん」
あたしは立ち上がって、永那のそばに行く。
「千陽ー、おはよー」
優里が伸びをしながら言う。
「おはよ」
永那の足を踏む。
「いってー!…なにすんだよ!」
睨まれるし、クラスメイトからも注目を浴びる。
あたしはしゃがんで、スマホの画面を見せる。
睨んで細くなった目が、丸くなっていく。
スマホを取り上げられる。
「は?なんで?」
「わかんないけど…具合、悪かったのかな」

「どしたの?」
優里が顔を出す。
「穂、熱だって」
「えー!?…文化祭で疲れちゃったのかな?」
…そのうえ、あたしと永那の相手してたからなあ。
ほんの少しの罪悪感。
「あたし、お見舞いに行こうかな」
「私も行きたかったー」
「部活、サボれば?」
「そ、そんなわけには…!」
永那が持ってるスマホを手から引っこ抜く。
メッセージのやり取りを遡られていて、永那を睨んだ。
永那が左眉を上げながら、ニヤニヤする。
「勝手に見んな」
そう言って、席に戻った。

午後の授業、永那はウトウトしながらも起きていた。
最後の授業が終わると同時に、あたしを急かす。
優里の「お大事にって伝えといてね~!」という声を背に、2人で走る。
…走る必要なくない?
永那は運動なんてしていないのに、足は速いし筋力もある。
体の線が細いから、全然そうは見えないのに、なんでだろう?なんて思ったりする。
一応あたしにペースを合わせてくれているみたいだけど、ニコリともしない。
コンビニに寄って、いろいろ買う。
もちろん、あたしのカードで。
「熱出してて、たこ焼きなんて食べられるの?」
「穂がたこ焼き好きなんだよ」
…ああ、プールに行ったときも買ってたな。
夏祭りのときも食べてたし、そういえば、お母さんも食べてた。
永那が買う物を選んでいる間に、誉に連絡する。

家につくと、誉がドアを開けてくれた。
永那が走って穂の部屋に行く。
「久しぶり」
誉が笑う。
…1週間に1回以上はオンラインで一緒にゲームしてるけど。
あたしは誉の頭を撫でて、穂の部屋を覗く。
永那が穂を抱きしめていた。
「永那ちゃん…苦しい…」
そう言われて、勢いよく距離を取る。
「あ、千陽…来てくれたんだ。ありがとう」
額に汗を滲ませながら、微笑まれる。
…好き。
「具合はどう?」
「咳は出てないんだけど…熱があって…」
彼女はまた笑う。
そんなに酷くなさそうで少し安心した。
「穂、無理してた?」
永那が不安そうに聞く。
「大丈夫だよ。文化祭もあったし、少し、疲れただけだと思う」
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