いたずらはため息と共に

常森 楽

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5.時間

261.修学旅行

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チケットを買って、水族館に入る。
「あ、もうすぐイルカショーだって!」
永那ちゃんが看板を見ながら言う。
私の手を掴んで、走り出す。
永那ちゃんが水族館に行きたかったのかどうか、不安に思っていた気持ちが消えていく。
「ギリセーフ!」
ハハハッと永那ちゃんが笑って椅子に座る。
「危なかったね」
「だね」
「前の方は濡れるって」
永那ちゃんが背筋を伸ばしながら、前の方の席を見る。
「濡れたかったの?」
彼女の唇が急に耳元に近づく。
「ちょっとね…」
くすぐったい。

イルカショーが始まって、音楽に合わせてイルカが動くから、そのたびに永那ちゃんは拍手した。
私が永那ちゃんを見ていると「穂?どした?」と聞いてくれる。
首を小さく横に振ると「さては、私に見蕩れてたんだなー?」と、永那ちゃんが私の肩に頭を寄せた。
「うん。可愛いし、かっこいいなあって」
永那ちゃんの視線が私に向く。
「キスしてもいい?」
「あとで、ね」
スーッと息が歯のすき間を通って、吐かれる。
彼女の視線がイルカに戻るから、私もショーを見た。
「穂、好き」
小さく呟かれる。
「私も、永那ちゃん好き」
「後で、エッチしよ?」
また耳元で囁かれて、子宮がキュゥッと締まる。
「そ、そんな時間…ないでしょ…」
「大丈夫だよ」
彼女の手をギュッと握った。
「永那ちゃんは、すぐそう・・言うね?」
「嫌?」
「嫌じゃ…ない、けど…そればっかりは、嫌」
「そっか。じゃあ、やめとくか」
私は唇を結んで、まっすぐショーの真ん中を見た。

「なかなか良かったね」
永那ちゃんが笑う。
「うん。あんな高いところまでジャンプするんだね」
「ねー!イルカ可愛いなあ」
水族館の入り口まで戻って、順路通りに見て回る。

「クマノミってメスがいなくなると、オスがメスになるんだって」
永那ちゃんが水槽に近づいて、ガラスに頭をぶつけた。
「いて」
可愛くて、つい笑ってしまう。
夏休み、生徒会の旅行で資料館を見たときを思い出す。
永那ちゃんがどんなふうに見て回るのか、ひとりでいろいろ想像した。
眠そうにサッと見て終わり、という姿も想像していたけど、興味を持ってくれる方だった。
嬉しくて、目をギュッと瞑る。

「穂、見て」
水槽を覗き込む。
「砂に隠れてるよ。バレてないと思ってるのかな?」
永那ちゃんが楽しそうに笑う。
「永那ちゃん、あの魚は岩陰にぴったり張り付いてる!」
「ホントだ。バレバレだよねえ?」
永那ちゃんに後ろからハグされるように顔を覗きこまれる。
恥ずかしくて、慌てて顔を背けた。

「トンネル!」
「カメがいるよ!ほら!」
「肌ツヤツヤだね」
「エイでかーっ」

「クラゲだ!」
「餌を食べた後は、オレンジ色になってるって」
「みんな食べてなさそう…」
「あ、この子オレンジ色!」
「うおっ、ホントだ!…穂、ちっこいクラゲもいるよ」
手を引っ張られて、隣の水槽に移動する。

「ペンギン!…南アメリカの…ペンギンだって」
「可愛いね」
「穂のほうが可愛いよ」
「それは…比べるもの?」
永那ちゃんが吹き出して笑う。

最後にショップに寄る。
「なんか、お揃いの物買おう?」
永那ちゃんが言ってくれる。
「うん!」
お菓子コーナーを見て、たかへのお土産を選ぶ。
「千陽と優里ちゃんにも、何か買ったほうがいいかな?」
「なんで?」
「理由は…ないけど…」
「どっちでもいいんじゃない?」
「まあ、いっか」
永那ちゃんが頷く。
「永那ちゃん、見て。これ可愛い」
「ホントだ。エイのやつ?」
「うん、ペアになってる」
「じゃあ、これにしよっか」
「いいの?」
「うん」

永那ちゃんが買ってくれて、「どっちがいい?」と聞いてくれる。
私は小さい方を選ぶ。
「ありがとう」
「うん」
鞄についているカラビナにエイのストラップをつけてくれる。
私がお土産であげたタヌキのキーホルダーもついていて、なんだか賑やかだ。
「永那ちゃんの“永”は“えい”って読めるよね」
永那ちゃんが何も言わないから、不安になって彼女を見た。
ジッと見つめられて、途端に恥ずかしくなる。
「く、くだらないね…ごめんね」
苦笑すると、ギュッと抱きしめられる。
「可愛い…」
「永那ちゃん…あの…こんな、ところで…」
お土産屋さんの出入り口だった。
「ハァ…好き…」

手を繋いで、出口に向かう。
階段を下りようとしたら、子供が走って私達を追い抜いた。
スローモーションみたいに、子供が転ぶのが視界に入ったけど、私は「あ!」と言うことしかできなかった。
永那ちゃんが咄嗟に子供の腕を掴んで「あっぶな…」と呟く。
「すみません!」
お母さんらしき女性が子供を抱きしめる。
ペコペコと何度も謝罪とお礼をされて、永那ちゃんは「いえ、怪我しなくて良かったです」と笑顔で言った。

「すごいね、永那ちゃん」
「なにが?」
「んー…」
「ああ、さっきの?たまたまだよ」
「それも…そうだけど…」
彼女の左眉が上がる。
私、永那ちゃんのこの表情好き。
「いろんなことに気がつくんだなって、思って」
「そうかな」
「うん。レストランのとき、後ろにベビーカー押してる人がいるなんて気づかなかった。水槽見てるときも、子供が来たらちゃんと譲って…子供だけじゃなくて、背の低い人も…」
永那ちゃんはポリポリと頬を掻く。
少しだけ、耳が赤い。
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