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5.時間
280.一緒
“ストレス発散だったんだ。そういうことをするのが、楽しかった”
永那ちゃんがいろんな人とエッチしてきた理由を思い出す。
永那ちゃんの抱えるものの重さに、私が耐えられるのか、不安になる。
帰りのバス、永那ちゃんは立ち上がっていて、先生に何度も叱られた。
私が苦手なタイプの人達と騒いで、下品な話までしていて、眉間にシワが寄る。
私は目を閉じて、この空間に耐える。
「穂」
隣に千陽が座る。
「これ、つけて」
耳にイヤホンをつけてくれる。
「あたしの好きな曲、流すね」
テンポの速い、聞いたことのない曲。
嫌な音をかき消すには、ちょうど良かった。
窓の外を見ると、海が広がっていて、心が落ち着いた。
窓に反射して、たまに永那ちゃんが映るけど、見ないように意識した。
夕食のときにも、永那ちゃんはずっとテンションが高いままだった。
「これうまー!誰かちょーだい!」
1人の女子が永那ちゃんの口に運ぶ。
永那ちゃんがその子の頭を撫でて、嬉しそうに笑みを返されていた。
「穂、ごめんね」
千陽が言うから、驚いて彼女を見つめる。
「さっき、観覧車で…あたしがあんなこと言わなければ…」
「千陽が謝ることじゃないよ。…大丈夫」
千陽の眉間にシワが寄る。
優里ちゃんが苦笑して「永那、ホントどうしたの」と呟いた。
ご飯を食べ終えて部屋に戻ると「今日楽しかったなー!」と、永那ちゃんがケラケラ笑う。
「永那テンション高すぎて頭おかしい!」
優里ちゃんが言うと、永那ちゃんが優里ちゃんを押し倒す。
「頭おかしいから、お前のこと襲ってやる」
優里ちゃんの顔が真っ赤に染まる。
「なに照れてんだよ」
ニヤリと笑う永那ちゃんは、瞳孔が開いていた。
千陽が永那ちゃんを蹴り倒す。
「なにすんだよ!」
千陽の、握りしめる手が震えている。
千陽はそっと目を閉じて、下唇を噛む。
ゆっくりと目を開けて、まっすぐ永那ちゃんを見た。
「そんなにヤりたいなら、あたしとヤる?」
永那ちゃんの襟を掴んで、顔を寄せる。
「穂がいる前で!穂のこと傷つけながら、ヤる?」
今までの作り笑いが消えて、永那ちゃんが真顔になる。
「いいよ?あたしは。それで永那の苦しみが消えるなら、全然、いいよ」
千陽は必死に笑みを作りながら、瞳から涙を溢れさせた。
永那ちゃんがフッと笑う。
「手、震えてるよ。本当は怖いくせに、強がってんじゃねえよ。できないだろ?私とは」
千陽の腕を掴んで、手を離させる。
千陽がしゃがみこむ。
永那ちゃんが立ち上がって、部屋から出て行く。
「千陽…大丈夫?」
優里ちゃんが千陽を抱きしめる。
「さ、佐藤さん…」
森山さんもそばに座って、背中を擦った。
私は、その光景を見て変に冷静になった。
足首に光るお揃いアンクレットにそっと触れてから、永那ちゃんの後を追う。
廊下を歩く彼女の背中を見つめてから、「永那ちゃん」と呼ぶ。
少しの間があった後、彼女が振り向く。
ニカッと笑って「ごめんね」と背を向けてしまう。
小走りに彼女を追いかけて、横に並ぶ。
「私こそ、ごめんね」
「…なにが?」
「わかってあげられなくて」
彼女の瞳だけが動いて、私を映す。
「永那ちゃんに、どうしてあげればいいのか、全然わからなくて…千陽に、あんなことまでさせてしまった」
「千陽が勝手にやったことでしょ」
「…そんな言い方、やめてよ」
永那ちゃんの目が見開く。
「千陽は、私達のこと、1番大事に想ってくれてる。永那ちゃんだって、それをわかってるはず。…本当は1番、わかってるはず。…これ以上、自分を傷つけないで。そんな言い方して…わざと千陽を貶すような言い方して、自分を傷つけないで」
「べつに傷つけてなんか」
彼女の頬を両手で包んで、顔を私に向ける。
「お母さん、ダメだったの?」
彼女の目が細まって、喉が上下に動く。
「ダメだったんだね?」
ゴクリと唾を飲む。
「…生きてる?」
彼女が小さく頷いて、ホッとする。
「良かった」
「入院した」
「怪我?」
「怪我は、少し。階段から落ちたって。オーバードーズで、意識が朦朧としたみたい」
「お姉さんが対応してくれてるんだよね?」
永那ちゃんが眉間にシワを寄せる。
「さっき、電話してるの、聞いてた」
シワが深くなる。
廊下をクラスメイトがすれ違って、永那ちゃんに話しかけた。
彼女は笑みを作って、手を振る。
その手を掴んで、人気のない場所に行く。
「永那ちゃん、ずっと不安だったんだよね。気づいてあげられなくて、ごめんね」
椅子に座りながら、永那ちゃんは膝に肘を置いて項垂れている。
彼女の頭を撫でた。
「頭、痛くない?…さっき、ぶつけてたでしょ?」
「見てたんだ」
「少しだけ…」
「引いたでしょ?…てか、怖いよね」
「引いてないし、怖くもない」
「ハァ」と彼女がため息をつく。
「なんで?」
「永那ちゃんが優しいこと、知ってるから」
最初は、怖かった。
その“怖い”が、自分でも、どういう“怖い”なのかわからなかった。
でも千陽と話して、千陽の必死な姿を見て、永那ちゃんに対する“怖い”ではないのだと、気づいた。
ただ、あんなにも苦しんでいる姿を見ているのに、どうしてあげたらいいのかわからないことに、怖がっていたんだ。
「私は、優しくない」
「優しい。どんなに怒っていても、傷ついていても、永那ちゃんは誰のことも、傷つけてないもん」
「傷つけてる。千陽も、穂も。優里だって」
「みんな永那ちゃんが1人で抱えることが、悲しいの。傷ついてるわけじゃない。永那ちゃんが苦しそうなのを見て、胸が痛むの。わかる?」
永那ちゃんがいろんな人とエッチしてきた理由を思い出す。
永那ちゃんの抱えるものの重さに、私が耐えられるのか、不安になる。
帰りのバス、永那ちゃんは立ち上がっていて、先生に何度も叱られた。
私が苦手なタイプの人達と騒いで、下品な話までしていて、眉間にシワが寄る。
私は目を閉じて、この空間に耐える。
「穂」
隣に千陽が座る。
「これ、つけて」
耳にイヤホンをつけてくれる。
「あたしの好きな曲、流すね」
テンポの速い、聞いたことのない曲。
嫌な音をかき消すには、ちょうど良かった。
窓の外を見ると、海が広がっていて、心が落ち着いた。
窓に反射して、たまに永那ちゃんが映るけど、見ないように意識した。
夕食のときにも、永那ちゃんはずっとテンションが高いままだった。
「これうまー!誰かちょーだい!」
1人の女子が永那ちゃんの口に運ぶ。
永那ちゃんがその子の頭を撫でて、嬉しそうに笑みを返されていた。
「穂、ごめんね」
千陽が言うから、驚いて彼女を見つめる。
「さっき、観覧車で…あたしがあんなこと言わなければ…」
「千陽が謝ることじゃないよ。…大丈夫」
千陽の眉間にシワが寄る。
優里ちゃんが苦笑して「永那、ホントどうしたの」と呟いた。
ご飯を食べ終えて部屋に戻ると「今日楽しかったなー!」と、永那ちゃんがケラケラ笑う。
「永那テンション高すぎて頭おかしい!」
優里ちゃんが言うと、永那ちゃんが優里ちゃんを押し倒す。
「頭おかしいから、お前のこと襲ってやる」
優里ちゃんの顔が真っ赤に染まる。
「なに照れてんだよ」
ニヤリと笑う永那ちゃんは、瞳孔が開いていた。
千陽が永那ちゃんを蹴り倒す。
「なにすんだよ!」
千陽の、握りしめる手が震えている。
千陽はそっと目を閉じて、下唇を噛む。
ゆっくりと目を開けて、まっすぐ永那ちゃんを見た。
「そんなにヤりたいなら、あたしとヤる?」
永那ちゃんの襟を掴んで、顔を寄せる。
「穂がいる前で!穂のこと傷つけながら、ヤる?」
今までの作り笑いが消えて、永那ちゃんが真顔になる。
「いいよ?あたしは。それで永那の苦しみが消えるなら、全然、いいよ」
千陽は必死に笑みを作りながら、瞳から涙を溢れさせた。
永那ちゃんがフッと笑う。
「手、震えてるよ。本当は怖いくせに、強がってんじゃねえよ。できないだろ?私とは」
千陽の腕を掴んで、手を離させる。
千陽がしゃがみこむ。
永那ちゃんが立ち上がって、部屋から出て行く。
「千陽…大丈夫?」
優里ちゃんが千陽を抱きしめる。
「さ、佐藤さん…」
森山さんもそばに座って、背中を擦った。
私は、その光景を見て変に冷静になった。
足首に光るお揃いアンクレットにそっと触れてから、永那ちゃんの後を追う。
廊下を歩く彼女の背中を見つめてから、「永那ちゃん」と呼ぶ。
少しの間があった後、彼女が振り向く。
ニカッと笑って「ごめんね」と背を向けてしまう。
小走りに彼女を追いかけて、横に並ぶ。
「私こそ、ごめんね」
「…なにが?」
「わかってあげられなくて」
彼女の瞳だけが動いて、私を映す。
「永那ちゃんに、どうしてあげればいいのか、全然わからなくて…千陽に、あんなことまでさせてしまった」
「千陽が勝手にやったことでしょ」
「…そんな言い方、やめてよ」
永那ちゃんの目が見開く。
「千陽は、私達のこと、1番大事に想ってくれてる。永那ちゃんだって、それをわかってるはず。…本当は1番、わかってるはず。…これ以上、自分を傷つけないで。そんな言い方して…わざと千陽を貶すような言い方して、自分を傷つけないで」
「べつに傷つけてなんか」
彼女の頬を両手で包んで、顔を私に向ける。
「お母さん、ダメだったの?」
彼女の目が細まって、喉が上下に動く。
「ダメだったんだね?」
ゴクリと唾を飲む。
「…生きてる?」
彼女が小さく頷いて、ホッとする。
「良かった」
「入院した」
「怪我?」
「怪我は、少し。階段から落ちたって。オーバードーズで、意識が朦朧としたみたい」
「お姉さんが対応してくれてるんだよね?」
永那ちゃんが眉間にシワを寄せる。
「さっき、電話してるの、聞いてた」
シワが深くなる。
廊下をクラスメイトがすれ違って、永那ちゃんに話しかけた。
彼女は笑みを作って、手を振る。
その手を掴んで、人気のない場所に行く。
「永那ちゃん、ずっと不安だったんだよね。気づいてあげられなくて、ごめんね」
椅子に座りながら、永那ちゃんは膝に肘を置いて項垂れている。
彼女の頭を撫でた。
「頭、痛くない?…さっき、ぶつけてたでしょ?」
「見てたんだ」
「少しだけ…」
「引いたでしょ?…てか、怖いよね」
「引いてないし、怖くもない」
「ハァ」と彼女がため息をつく。
「なんで?」
「永那ちゃんが優しいこと、知ってるから」
最初は、怖かった。
その“怖い”が、自分でも、どういう“怖い”なのかわからなかった。
でも千陽と話して、千陽の必死な姿を見て、永那ちゃんに対する“怖い”ではないのだと、気づいた。
ただ、あんなにも苦しんでいる姿を見ているのに、どうしてあげたらいいのかわからないことに、怖がっていたんだ。
「私は、優しくない」
「優しい。どんなに怒っていても、傷ついていても、永那ちゃんは誰のことも、傷つけてないもん」
「傷つけてる。千陽も、穂も。優里だって」
「みんな永那ちゃんが1人で抱えることが、悲しいの。傷ついてるわけじゃない。永那ちゃんが苦しそうなのを見て、胸が痛むの。わかる?」
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