いたずらはため息と共に

常森 楽

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6.さんにん

365.まだ?

心音はジッと穂を見る。
穂は視線を彷徨わせてから、最終的には心音を見た。
「私の話って、聞いてるのかな?」
「…は、はい。昔、永那ちゃんを助けてくれた人だって…」
「助けた…」
フッと笑って、心音が苦しそうに顔を歪めた。
いつまで引きずってんだよ。
もう、私は、2ヶ月前…全部受け止めたっていうのに。
「穂ちゃん…永那に…大切に、してもらってる?」
「はい」
穂が真っ直ぐ心音を見る。
「そっか。さっきも、楽しそうだったもんね」
「見てたのかよ」
「目に入っちゃったの」
フゥッと心音が息を吐く。
「ねえ、馴れ初め聞かせて?」
「なんで?」
「いいじゃん、それくらい」
私が目の下を痙攣させると、穂が話し始める。

「永那が…海で告白かあ。ロマンチック」
「うるせーな」
「え、永那ちゃん…」
穂が両手を彷徨わせて、ハの字眉になる。
「あはは。大丈夫だよ、穂ちゃん」
大人ぶってるのにも腹が立つ。
何が“大丈夫”なんだよ?
大丈夫なら、引き止めるな。話しかけるな。
「永那」
呼ばれて、心音を見る。
「幸せになってね」
今にも泣きそうな笑顔で言われても…。
「話せて、良かった。あのとき、ちゃんと、言えなかったから。穂ちゃんとも、話せて嬉しかったし」
心音は何度も、自分を納得させるように頷いた。
「ごめんね。せっかくみんなで楽しんでたのに、邪魔しちゃって」
千陽と優里を見て、笑う。
「いえ…全然…」
優里が気まずそうに笑い返すと、心音はわざとらしく、一度手を叩いた。
「じゃあ、元気でね。永那。ありがとう」
私に背を向けて、彼女が歩き出す。

「心音」
顔だけ、こちらを向く。
「ありがとう。話せて、良かった…」
彼女が歯を見せて笑う。
「嘘つき。…浮気なんてしちゃダメだよ?」
彼女の髪が風でなびいた。
今度こそ、彼女は歩く。
…浮気してるのは、穂なんだけど。
まあ、結局私もしてるの…か…?
穂に言われて浮気したから、わけわからん。
横目で穂を見る。
パチパチと目を瞬かせて、優しい笑みを浮かべてくれた。
だから私も笑って、穂の頭を撫でる。

「おみくじやろー!」
優里が言って、みんなで引く。
穂は大吉、私は小吉。
千陽も小吉で、優里は中吉。
「恋愛、待てば来る!!待つぞー!!」
「優里ちゃん、時間大丈夫?」
「うぇ!?わ!ヤバいかも!ひゃー!」
優里は無意味に足を上下に動かす。
「え!でも待って!…ねえ!心音先輩って、永那の元カノなの?聞かずには帰れないから!!!」
「違うよ」
「えぇ!?じゃあなに!?あんな親しげだったのに!?」
「一方的に…好かれてただけ」
穂をチラリと見るけど、穂は何も気にしていないみたいに首を傾げた。
「ひゃー!!永那怖い…恐ろしい…化物だ…」
「はー?」
「千陽の言う通り沼だね。人を沼に沈める化物だね。…川に引きずり込む河童みたいなものかな?永那河童!」
「お前な~!」
追いかけると、「私帰る!帰るから~!ケロケロ~!バイバ~イ!また学校でねー!」わけわかんないことを叫んで走って行った。

「忙しい奴」
私が言うと、穂がクスクス笑う。
「永那河童だって」
「穂…」
穂は隠れるように千陽の後ろに行く。
…ああ、可愛い。
「穂?」
千陽が後ろに立つ穂を見る。
「しよ?」
穂の両頬を包んで顔が近づくから、慌てて千陽の腕を引っ張る。
「おいおい、こんなに人目があるところで、堂々と浮気するんじゃないよ」
「永那、心狭い」
「狭くないわ!常識だろ!」
フンと千陽は鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「じゃあいつできるの?明日と明後日はあたし、会えないし。明々後日?穂の家、行ってもいい?」
「いいよ」
穂が微笑む。
思わずため息をつくけど…まあ、仕方ないか。

駅まで千陽を送って、私達は2人で家に帰った。
酔っ払っているお母さんが、リビングで「おはへり~」(おかえり)と日本酒の瓶を片手に出迎えてくれる。
「お母さん…もう…」
私がお母さんの隣に座ると「飲むかい?飲むかい?」と聞いてくるから、少し飲んでみた。
「永那ちゃん!ダメ!!」
穂にこっぴどく叱られた。
…案外、飲めるな。
お母さんはお酒を取り上げられて、「なんれらよー!」(なんでだよ)と怒っていたけど、穂が本気で睨むと、大人しくおつまみを食べ始めた。
穂の本気は怖いからね…。

「穂は本当に勉強が好きだね?」
「落ち着くの」
「ふーん?」
元旦も勉強するとは思わなかった。
まあ、特にすることもないからいいけど。
穂は最近、志望校の大学の過去問を印刷して解いている。
だから私も一緒にやっている。
最初は難しかったけど、穂が“何度もやれば、自然と解けるようになるよ”と教えてくれたから、何度も繰り返して解いている。
たしかに、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目と、どんどん正解数が増えた。
でもこれって、単純に答えを覚えてるだけじゃないのかな?って思ったけど…それで良いらしい。
よくわからない。
よくわからないけど、穂が良いと言うから、きっと良いんだ。
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