文字の大きさ
大
中
小
397 / 595
6.さんにん
396.冷たい
ジェットコースターから降りると、穂が振り向いて笑顔を向けてくれた。
「慣れだね!慣れ!」
「じゃあ、でっかい方行ってみる?」
一気に彼女の顔がくしゃくしゃになる。
「冗談だって」
「永那、最低」
千陽が優里みたいなことを言う。
…マジで落ち込むからやめてくんないかな!?
「後でもう一回乗ろ?」
穂の腕に抱きついて、2人で歩き出す。
…くっそー。ホントに冗談なのに!
自信がついたのか、垂直落下するアトラクションに乗ろうと穂が言った。
やっぱり私の思った通りで、ジェットコースターよりもスピードはないし、高さもそんなにないしで、穂は大丈夫そうだった。
最初に落下する時こそビクついていたけど、「大丈夫だった」と笑う。
その後も、穂が乗れそうなアトラクションに乗って、お昼を食べて、クレープも食べたりして、遊園地を満喫した。
穂が「乗ってきていいよ」と言ってくれたから、1回だけ千陽と(大人用の)ジェットコースターに乗った。
そんなに混んでいなかったから長くは並ばなかったけど、それでも列ができていた。
並んでる最中、千陽に手を繋がれた。
「寒い」
「だな」
指を絡められたから、隠すようにポケットに手を突っ込んだ。
…浮気してるってこんな感じ?
まあ、公認の浮気だけど。
…だから、疚しいことなんて、ないはずなんだけど。
どうにも居心地が悪いというか、なんというか…。
居心地が悪いとまでは言わないけど、むず痒い感じがする。
“今更”感が否めないけど、それでも…。
ジェットコースターに乗り終えて戻ると、穂はベンチに座って本を読んでいた。
こんなところでも本を読むとは…真面目だなあ。
好き。
まだこの時期でもイルミネーションがやっているからと、暗くなっても私達は帰らなかった。
2人がお母さんのことを心配してくれたけど、私は自分に言い聞かせるように「大丈夫」と頷いた。
暗闇に紛れて穂にキスして、不安な気持ちを誤魔化した。
「たくさん写真撮れたね」
帰りの電車で、穂が嬉しそうにスマホを見るから、私と千陽が覗き込む。
「永那ちゃん、変な顔してる」
口元を手で隠しながらクスクス笑うから、あまりに可愛くてキスしたくなる。
目ざとく穂がそれを察知して「だめだよ?」と囁いた。
…あんまり“ダメ”って言われると、ちょっと傷つくんだよなあ。
唇を尖らせて俯くと「明後日ね?」と顔を覗き込まれた。
「うん」
一気にテンションが上がる。
我ながら単純だな、私は。
明後日は、8ヶ月記念日だ。
学校帰りに穂が家に遊びに来てくれる。
本当は、夜に穂を1人で帰らせるのは嫌なんだけど…今朝、泣くお母さんをなだめるために穂にメッセージを送ったら、了承してくれた。
「穂、気をつけて帰るんだよ?」
「うん、わかってるよ。2人も気をつけて帰ってね」
私と千陽が頷いて、電車を降りた。
ホームから手を振ると、穂が振り返してくれる。
電車が動き出すと冬の冷たい夜風が吹いた。
「行こうか」
千陽は頷きながら私の腕に抱きついた。
「体が冷え切ってる感じがするわ」
「うん」
「久しぶりに湯船でも入ろうかな」
「あたしも」
「お前、毎日入ってるんじゃないの?」
「入ってる」
「じゃあ久しぶりじゃないじゃん」
「そんな細かいこと、どうでもいいでしょ」
「…まあ、そうだな」
その後は無言のまま、私達は歩く。
千陽を家まで送って、小走りに帰った。
「ただいま」
「…おかえり」
お母さんが不貞腐れながらも返事をしてくれた。
「遅い」
「ごめんね」
「寂しかった」
「うん、ごめんね」
「お腹すいた!」
「え!?なんも食べてないの?作り置きしておいたやつあるじゃん」
「ひとりぼっちで食べるのは嫌なの!」
「…ごめんね」
お母さんのご飯を準備して、横に座った。
体の芯まで冷え切ってるからお風呂に入りたかったけど…ほんの少し我慢だ。
お母さんがご飯を食べ終えて、湯船にお湯を溜めた。
一緒に入りたいと騒ぐから、お母さんを洗ってあげる。
「永那?」
「ん?」
「ごめんね…」
「なにが?」
「…こんな、お母さんで」
思わず手を止める。
「どうしたの?急に」
返事はない。
私はそのまま追求せずに、お母さんの髪を洗った。
何か、良い言葉をかけてあげられたのかもしれない。
頭の中にいろんな言葉が思い浮かんでは、喉まで来て、飲み込んだ。
どの言葉も違う気がしたし、どの言葉も、口にしてしまっては嘘っぽくなってしまうと思ったから。
嘘っぽい言葉を言うくらいなら、何も言わないほうが良いと思った。
お母さんは…離婚届を出すまでは、普通だった。
毎日のように働いて、ご飯もちゃんと作ってくれて、いつも笑顔だった。
父親が全然帰ってこなくても、何も言わなかった。
ただ帰ってくると甘えるだけで、いないときはしっかりしてるイメージが強かった。
…あのとき、どんな気持ちだったんだろう?
どんな気持ちで過ごしていたんだろう?
まだ聞けないけど、いつか聞いてみたい。
寂しくなかったのかな?
寂しかったんだろうけど…その気持ちに、どう整理をつけていたんだろう?
「慣れだね!慣れ!」
「じゃあ、でっかい方行ってみる?」
一気に彼女の顔がくしゃくしゃになる。
「冗談だって」
「永那、最低」
千陽が優里みたいなことを言う。
…マジで落ち込むからやめてくんないかな!?
「後でもう一回乗ろ?」
穂の腕に抱きついて、2人で歩き出す。
…くっそー。ホントに冗談なのに!
自信がついたのか、垂直落下するアトラクションに乗ろうと穂が言った。
やっぱり私の思った通りで、ジェットコースターよりもスピードはないし、高さもそんなにないしで、穂は大丈夫そうだった。
最初に落下する時こそビクついていたけど、「大丈夫だった」と笑う。
その後も、穂が乗れそうなアトラクションに乗って、お昼を食べて、クレープも食べたりして、遊園地を満喫した。
穂が「乗ってきていいよ」と言ってくれたから、1回だけ千陽と(大人用の)ジェットコースターに乗った。
そんなに混んでいなかったから長くは並ばなかったけど、それでも列ができていた。
並んでる最中、千陽に手を繋がれた。
「寒い」
「だな」
指を絡められたから、隠すようにポケットに手を突っ込んだ。
…浮気してるってこんな感じ?
まあ、公認の浮気だけど。
…だから、疚しいことなんて、ないはずなんだけど。
どうにも居心地が悪いというか、なんというか…。
居心地が悪いとまでは言わないけど、むず痒い感じがする。
“今更”感が否めないけど、それでも…。
ジェットコースターに乗り終えて戻ると、穂はベンチに座って本を読んでいた。
こんなところでも本を読むとは…真面目だなあ。
好き。
まだこの時期でもイルミネーションがやっているからと、暗くなっても私達は帰らなかった。
2人がお母さんのことを心配してくれたけど、私は自分に言い聞かせるように「大丈夫」と頷いた。
暗闇に紛れて穂にキスして、不安な気持ちを誤魔化した。
「たくさん写真撮れたね」
帰りの電車で、穂が嬉しそうにスマホを見るから、私と千陽が覗き込む。
「永那ちゃん、変な顔してる」
口元を手で隠しながらクスクス笑うから、あまりに可愛くてキスしたくなる。
目ざとく穂がそれを察知して「だめだよ?」と囁いた。
…あんまり“ダメ”って言われると、ちょっと傷つくんだよなあ。
唇を尖らせて俯くと「明後日ね?」と顔を覗き込まれた。
「うん」
一気にテンションが上がる。
我ながら単純だな、私は。
明後日は、8ヶ月記念日だ。
学校帰りに穂が家に遊びに来てくれる。
本当は、夜に穂を1人で帰らせるのは嫌なんだけど…今朝、泣くお母さんをなだめるために穂にメッセージを送ったら、了承してくれた。
「穂、気をつけて帰るんだよ?」
「うん、わかってるよ。2人も気をつけて帰ってね」
私と千陽が頷いて、電車を降りた。
ホームから手を振ると、穂が振り返してくれる。
電車が動き出すと冬の冷たい夜風が吹いた。
「行こうか」
千陽は頷きながら私の腕に抱きついた。
「体が冷え切ってる感じがするわ」
「うん」
「久しぶりに湯船でも入ろうかな」
「あたしも」
「お前、毎日入ってるんじゃないの?」
「入ってる」
「じゃあ久しぶりじゃないじゃん」
「そんな細かいこと、どうでもいいでしょ」
「…まあ、そうだな」
その後は無言のまま、私達は歩く。
千陽を家まで送って、小走りに帰った。
「ただいま」
「…おかえり」
お母さんが不貞腐れながらも返事をしてくれた。
「遅い」
「ごめんね」
「寂しかった」
「うん、ごめんね」
「お腹すいた!」
「え!?なんも食べてないの?作り置きしておいたやつあるじゃん」
「ひとりぼっちで食べるのは嫌なの!」
「…ごめんね」
お母さんのご飯を準備して、横に座った。
体の芯まで冷え切ってるからお風呂に入りたかったけど…ほんの少し我慢だ。
お母さんがご飯を食べ終えて、湯船にお湯を溜めた。
一緒に入りたいと騒ぐから、お母さんを洗ってあげる。
「永那?」
「ん?」
「ごめんね…」
「なにが?」
「…こんな、お母さんで」
思わず手を止める。
「どうしたの?急に」
返事はない。
私はそのまま追求せずに、お母さんの髪を洗った。
何か、良い言葉をかけてあげられたのかもしれない。
頭の中にいろんな言葉が思い浮かんでは、喉まで来て、飲み込んだ。
どの言葉も違う気がしたし、どの言葉も、口にしてしまっては嘘っぽくなってしまうと思ったから。
嘘っぽい言葉を言うくらいなら、何も言わないほうが良いと思った。
お母さんは…離婚届を出すまでは、普通だった。
毎日のように働いて、ご飯もちゃんと作ってくれて、いつも笑顔だった。
父親が全然帰ってこなくても、何も言わなかった。
ただ帰ってくると甘えるだけで、いないときはしっかりしてるイメージが強かった。
…あのとき、どんな気持ちだったんだろう?
どんな気持ちで過ごしていたんだろう?
まだ聞けないけど、いつか聞いてみたい。
寂しくなかったのかな?
寂しかったんだろうけど…その気持ちに、どう整理をつけていたんだろう?
感想 56
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?