いたずらはため息と共に

常森 楽

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6.さんにん

404.冷たい

■■■

永那えなちゃん」
永那ちゃんの席に行って、彼女の唇を指でなぞる。
「起きて」
一緒に生活していた時は、これですんなり起きてくれていたけれど、お母さんが帰ってきてから、また起きなくなってしまった。
余程疲れているのだと、心配になる。
前みたいに目の下にクマがあるわけじゃないけど、こんなに深く眠っているのを見ると、それはそれで…。
「永那ちゃん」
すい
「ん?」
後ろから声をかけられて、振り向く。
千陽ちよの視線が一瞬永那ちゃんに下りて、すぐに私に向く。
「また明日」
「うん。また明日ね」
千陽の隣には森山もりやまさんもいて、目が合った。
ペコリと会釈をされたから、私も軽く会釈すると、2人は教室を出て行った。
ふぅっと息を吐いて、永那ちゃんの唇をもう一度指で撫でる。
少し涎が垂れている。
ハンカチを出して、拭いてあげても、彼女が起きる気配はない。
しゃがんで、彼女の寝顔を眺める。

空井そらいさーん、早く両角もろずみ起こしてよー」
箒の柄に顔を乗せて、塩見しおみ君が気怠げに言う。
私は苦笑して、永那ちゃんの肩を叩く。
これでも全然起きないから困る。
「もう両角の机、放置でいい?」
「う…うん」
掃除がきちんと出来ないのは少しモヤッとするけど、仕方ない。
永那ちゃんの机を避けるように掃除当番の子達が教室を掃除していく。
「永那ちゃん」
彼女の耳元に口を近づける。
「エッチ、しないの…?」
顔が熱くなる。
ついキョロキョロと周りを見回す。
息を吐き出して、誰にも聞かれていないことを確認。
「永那ちゃん…」
ビクッと彼女の体が反応する。
長いまつ毛が持ち上がって、薄茶色の瞳と目が合った。
「穂…」
ズズッと涎を啜って、ゆっくり起き上がる。
「おはよう」
「おは、よ」
彼女は目をゴシゴシ擦って、大きく両手を上げて伸びた。
欠伸をして、髪をぐしゃぐしゃにする。
だから私は立ち上がって、ぐしゃぐしゃになった彼女の髪を指で梳いた。

「あ!!」
彼女が大声を出すから、掃除当番の子達の視線が一気にこちらに集まる。
変なことを叫ぶような、嫌な予感がして、彼女の口を手で塞ぐ。
「は、早く、行こ?」
大きく目を開けた後、隠れた口元がニヤついてるのがわかるほどに目元に弧を描いた。
もう…。
永那ちゃんは乱雑に机の中の物を鞄に放り込んで、流れるように立ち上がって私の手を取る。
急発進するみたいに走り出して、バタバタと廊下を駆けていく。
「え、永那ちゃん…!廊下はっ」
「走っちゃダメー!」
そう笑いながら、彼女は走り続ける。
全然“ダメ”を守る気配はない。
手を繋いで走っている私が、共犯者みたいになっている。

「空井先輩」
日住ひずみ君とすれ違う。
「ご、ごめんね…!明日!」
日住君はコクコクと頷いて、その場に立ち尽くしていた。
外に出ると、冷たい空気が喉をピリピリと乾燥させた。
それでも彼女は止まらない。
私はもう、息が切れているというのに。
風が、なびく髪に絡まるように吹く。
彼女に強く繋がれた手が冷えていく。
頬がピリついて、鼻の先の感覚がなくなる。
目がシパシパして潤いを失くしていく。

前を走る彼女が足元を滑らせて、私の手に体重がかかった。
転びはしなかったものの、危なっかしい彼女を睨む。
ケラケラ楽しそうに笑うから、つられて笑っちゃうのが少し悔しい。
やっと休めることにホッとして、私は深呼吸した。
「ほら、早く行こ!!」
ぐいぐい手を引っ張られる。
「…永那ちゃん?」
「ん?」
「ゆっくり行こう?」
「“早く”って言ったのは穂だよ?」
「そ、それは…走ろうってことじゃない」
目を細めて彼女を睨むと、また彼女は楽しそうに笑った。
「なんだー、てっきり穂はやる気満々・・・・・なのかと」
「ちょ…っ!ちょっと!!」
背筋がヒヤリとする。
「なに?」
「そ、そんなに…大声で…」
「え?“やる気満々”って言っただけだよ?」
…からかわれている。
それすらも“嫌じゃない”と思っている自分に辟易する。

手を繋いで、いつものペースで、横に並んで歩く。
「日住とやらは、金井かねいちゃんとは上手くやってるのかね?」
変な聞き方。
生徒会がある度にちょっと不機嫌になる永那ちゃんに、日住君と金井さんが付き合っていることを教えたのは2ヶ月ちょっと前のこと。
“あの子の相手って日住だったの!?”と、文化祭で金井さんと話したことを覚えていた永那ちゃんは心底驚いていた。
すぐ後にニヤニヤして、でもまたそのすぐ後に“気持ち悪っ”と暴言を吐いていた。
“こら”と叱ると、永那ちゃんは誉の後ろに隠れて逃げた。
「上手くやってるんじゃない?」
「ふーん」
永那ちゃんは未だに日住君に対抗心を持っているらしい。
日住君達の話をしている間にネットカフェについた。
久しぶりなような、そうでもないような…。
少しドキドキしながら、永那ちゃんに手を引かれて中に入っていく。
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