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8.閑話
42.永那 中2 夏《野々村風美編》
「あ…ごめんね…」
涙を拭おうとすると、そっとキスされた。
離れて、額が合わさる。
「教えてくれて、ありがとうございます」
もう一度唇が重なって、私はそれに縋るように、自分の唇を彼女に押し付けた。
目を閉じると、また涙が頬を伝っていく。
舌が絡んで、そのうち息が荒くなった。
歯が当たっても、どうでもよかった。
彼女をベンチの背もたれに押し付けて、暗い感情を吐き出すみたいにキスをした。
吐き出し切ったら、全身の力が抜けて、彼女の膝に跨るように座っていた。
彼女がトントンと背中を優しく叩いてくれる。
抱きしめた。強く。
自分の最大限の力で強く抱きしめた。
「私、好きになるのは年上だと思ってた」
「ふーん」
「永那のこと好きって思った時、自分で自分にビックリした」
「まさか年下を、って?」
「うん」
「やっぱり、私の包容力があり過ぎるのが見破られちゃったのかな~」
永那が冗談っぽく言う。
「うん、見破った」
彼女は「ハハハ」と乾いた笑い声を出して、「冗談ですよ」と言った。
「見破ったよ」
そう言っても、何も返事はない。
「永那、好き」
胸が苦しい。
私の気持ち、伝わって欲しい。
こんなに好きなんだって、伝わって欲しい。
「私は本当、全然包容力なんてないですよ。先輩の妹と同じ。生意気な人間です」
「そんなことないよ。永那は優しい」
「優しくない」
「優しいよ。私、あんまり器用じゃなくて、いつもみんなからいじられるんだけど…永那だけはいじってきたり、イライラしたりしないもん」
「それは…べつに…」
しばらく待っても、永那はそれ以上何も言わなかった。
セミが鳴いていた。
もう夏休みは目前に迫っていて、“塾の夏合宿嫌だな~”とか“永那と丸1日遊べたりしないかな?”とか“受験面倒だな~”とか、いろんな気持ちが頭の中で流れた。
でも、そのどれもを口にすることはなく、永那も何も言わなかったから、セミの鳴き声や車の走る音、風に揺れる木々の音だけが公園に響いた。
ただ2人で抱き合って、時間が過ぎた。
それで良かった。それだけで癒やされた。
どのくらいそうしていたのかはわからない。
「膝、痛くなってきちゃった」と永那が申し訳なさそうに言って、止まっていたかのような時間が針を進める。
「ごめんね」
彼女から下りて、隣に座る。
「全然。もっとしてたかったのに、私の膝の体力がないから悪いんです」
「なにそれ」
「か~っ!自分の膝が憎い!」
永那が膝をベシベシ叩く。
永那といると、楽しい。
友達といる時の楽しさとはまた違う。
…なんか、本当の自分でいられる…みたいな、そういう居心地の良さがある。
「先輩?」
「ん?」
「時間、大丈夫ですか?」
「あ!」
スマホを出して時間を確認すると、もう2時間近く経っていた。
お母さんから『何してるの?大丈夫?』とメッセージがきていて、慌てて返事をする。
『大丈夫。ちょっと公園で休んでた』
『それならもっと早く連絡しなさい。心配するでしょ』
“ごめんなさい”と打ちかけて、「ハァ」とため息をつく。
「どうしたんですか?」
「…帰りたくないなって、思って。このまま、永那といたい」
フフッと彼女が笑って、立ち上がる。
「また会いましょ?どうせ私、暇してるんで」
頬に空気を溜めて、視線を彼女に向ける。
“このまま永那といたい”って言ってるのに、暗に“帰ろう”と言われたことに対する抗議の意味を込めて。
永那はただニコニコ笑うだけで何も言わない。
だから私は諦めて、立ち上がった。
「永那って、前まで芽衣のギター借りてたよね?」
「はい」
「最近は、弾いてないの?」
「弾いてないですねー。せっかく一曲弾けるようになったんですけど」
「もったいない。永那がギターなら、セッションしたかったなあ」
「セッションなんて出来るレベルじゃないですよ」
自然と彼女の手を見ていた。
芽衣が、教えるためによく触れていた。
「私も、芽衣みたいにベースたくさん持ってたら、永那に教えてあげられたのにな」
お父さんに頼み込んで、中学入学祝い兼誕生日プレゼントとして買ってもらったベース。
その一本を、ずっと大事に使ってきた。
芽衣は一家で音楽好きだから、小さい頃から楽器に触れてきて、私なんかじゃ足元にも及ばないくらい上手い。
“教える”なんて、出来るレベルじゃないことくらい、自分でもわかってるけど…それでも、永那とより親しくなれるなら…と思わずにはいられない。
「ずっと気になってたんだけど…学校にドラムあるのに、なんでドラム断ったの?」
「いやあ…」
永那がポリポリと頬を掻く。
「学校の備品使うなら部費払わなきゃいけないじゃないですか?」
…そういうこと!?
「幽霊部員なら部費払わなくていいって部長が言ってたから、最初は幽霊部員になろうかなー?って思ってたんですけど、せっかく入部したし、みんなと仲良くなりたいし…。だから、備品には一切触れずに部活には行こうって決めてたんです」
「そっか」
涙を拭おうとすると、そっとキスされた。
離れて、額が合わさる。
「教えてくれて、ありがとうございます」
もう一度唇が重なって、私はそれに縋るように、自分の唇を彼女に押し付けた。
目を閉じると、また涙が頬を伝っていく。
舌が絡んで、そのうち息が荒くなった。
歯が当たっても、どうでもよかった。
彼女をベンチの背もたれに押し付けて、暗い感情を吐き出すみたいにキスをした。
吐き出し切ったら、全身の力が抜けて、彼女の膝に跨るように座っていた。
彼女がトントンと背中を優しく叩いてくれる。
抱きしめた。強く。
自分の最大限の力で強く抱きしめた。
「私、好きになるのは年上だと思ってた」
「ふーん」
「永那のこと好きって思った時、自分で自分にビックリした」
「まさか年下を、って?」
「うん」
「やっぱり、私の包容力があり過ぎるのが見破られちゃったのかな~」
永那が冗談っぽく言う。
「うん、見破った」
彼女は「ハハハ」と乾いた笑い声を出して、「冗談ですよ」と言った。
「見破ったよ」
そう言っても、何も返事はない。
「永那、好き」
胸が苦しい。
私の気持ち、伝わって欲しい。
こんなに好きなんだって、伝わって欲しい。
「私は本当、全然包容力なんてないですよ。先輩の妹と同じ。生意気な人間です」
「そんなことないよ。永那は優しい」
「優しくない」
「優しいよ。私、あんまり器用じゃなくて、いつもみんなからいじられるんだけど…永那だけはいじってきたり、イライラしたりしないもん」
「それは…べつに…」
しばらく待っても、永那はそれ以上何も言わなかった。
セミが鳴いていた。
もう夏休みは目前に迫っていて、“塾の夏合宿嫌だな~”とか“永那と丸1日遊べたりしないかな?”とか“受験面倒だな~”とか、いろんな気持ちが頭の中で流れた。
でも、そのどれもを口にすることはなく、永那も何も言わなかったから、セミの鳴き声や車の走る音、風に揺れる木々の音だけが公園に響いた。
ただ2人で抱き合って、時間が過ぎた。
それで良かった。それだけで癒やされた。
どのくらいそうしていたのかはわからない。
「膝、痛くなってきちゃった」と永那が申し訳なさそうに言って、止まっていたかのような時間が針を進める。
「ごめんね」
彼女から下りて、隣に座る。
「全然。もっとしてたかったのに、私の膝の体力がないから悪いんです」
「なにそれ」
「か~っ!自分の膝が憎い!」
永那が膝をベシベシ叩く。
永那といると、楽しい。
友達といる時の楽しさとはまた違う。
…なんか、本当の自分でいられる…みたいな、そういう居心地の良さがある。
「先輩?」
「ん?」
「時間、大丈夫ですか?」
「あ!」
スマホを出して時間を確認すると、もう2時間近く経っていた。
お母さんから『何してるの?大丈夫?』とメッセージがきていて、慌てて返事をする。
『大丈夫。ちょっと公園で休んでた』
『それならもっと早く連絡しなさい。心配するでしょ』
“ごめんなさい”と打ちかけて、「ハァ」とため息をつく。
「どうしたんですか?」
「…帰りたくないなって、思って。このまま、永那といたい」
フフッと彼女が笑って、立ち上がる。
「また会いましょ?どうせ私、暇してるんで」
頬に空気を溜めて、視線を彼女に向ける。
“このまま永那といたい”って言ってるのに、暗に“帰ろう”と言われたことに対する抗議の意味を込めて。
永那はただニコニコ笑うだけで何も言わない。
だから私は諦めて、立ち上がった。
「永那って、前まで芽衣のギター借りてたよね?」
「はい」
「最近は、弾いてないの?」
「弾いてないですねー。せっかく一曲弾けるようになったんですけど」
「もったいない。永那がギターなら、セッションしたかったなあ」
「セッションなんて出来るレベルじゃないですよ」
自然と彼女の手を見ていた。
芽衣が、教えるためによく触れていた。
「私も、芽衣みたいにベースたくさん持ってたら、永那に教えてあげられたのにな」
お父さんに頼み込んで、中学入学祝い兼誕生日プレゼントとして買ってもらったベース。
その一本を、ずっと大事に使ってきた。
芽衣は一家で音楽好きだから、小さい頃から楽器に触れてきて、私なんかじゃ足元にも及ばないくらい上手い。
“教える”なんて、出来るレベルじゃないことくらい、自分でもわかってるけど…それでも、永那とより親しくなれるなら…と思わずにはいられない。
「ずっと気になってたんだけど…学校にドラムあるのに、なんでドラム断ったの?」
「いやあ…」
永那がポリポリと頬を掻く。
「学校の備品使うなら部費払わなきゃいけないじゃないですか?」
…そういうこと!?
「幽霊部員なら部費払わなくていいって部長が言ってたから、最初は幽霊部員になろうかなー?って思ってたんですけど、せっかく入部したし、みんなと仲良くなりたいし…。だから、備品には一切触れずに部活には行こうって決めてたんです」
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