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9.移ろい
488.新学年
言われた名前に、なんとなくの聞き覚えはあった。
“あの子かな~…?”ってくらいの怪しい記憶。
その子とも、私、関係持ってなかったんじゃない?
迫ったことはあったかもしれないけど。
だとすれば、そんなの…覚えてるわけがない…!
いちいち、自分のことを“かっこいい”だの“優しい”だのと言ってきた人のことを覚えていられるわけがない。
特に中3の時は。
キャーキャー言われて、できそうな子に片っ端から迫った。
実際にセックスまでしたのはそんなに多くはなかったと思うけど、たくさんの子を標的にしたのは間違いない。
そのたくさんの内の1人…の、友達じゃ、無理だよ…。
「ハァ」と息をつく。
中川さんは指で涙を拭っていた。
こんな初っ端から後輩泣かせるとか…クラスでなんか言われるんだろうな…。
自業自得だけど、面倒だ…。
立ち上がって、彼女の頭を撫でる。
「ごめんね、あんまり覚えてなくて。私、中3の時の記憶がほとんどなくてさ…。でも、もうちゃんと覚えたから。遅いかもしれないけど、ひそかちゃんのこと、ちゃんと覚えたから」
潤む瞳が真っ直ぐ私に向く。
「永那先輩…っ」
「嬉しいよ。同じ高校に入りたいなんて思ってくれて」
ひそかちゃんの顔が、さっき駆け寄ってきた時と同じように、パッと明るくなった。
少し紅潮した頬、キラキラして真っ直ぐ見つめてくる瞳、欲しがるようにツンと小さく突き出した唇…。
この感じ、嫌なんだよな…。
高校まで調べて追いかけてきたってことは、相当私のことを好きだということ。
私には、穂がいるのに。
「ご飯、食べた?」
「まだですっ」
「あー…じゃあ、奢るよ」
「え!?」
「泣かせちゃったお詫び。…杏奈ちゃんも」
「私もですか!?そんな…私は…」
笑顔を作って、食券機に向かって歩き出す。
痛い出費だ。
2人が唐揚げ定食とカツカレーを選ぶ。
カレーは1番奥のカウンターだから、ひそかちゃんがトレーを持ってスキップをしながら奥の列に並んだ。
「永那先輩…すみませんでした…」
食堂の出入り口から1番手前にある列に並ぶ杏奈ちゃんが小声で言う。
「なにが?」
「私、余計なこと言っちゃいましたよね…?」
「いや、全然。むしろ私が忘れてることを察してくれて助かったよ。ありがとう」
杏奈ちゃんは小さく笑みを浮かべて、頷いた。
「2人は、違う中学?」
「はい。高校入って、同じクラスで、友達になりました」
「そっか」
「ひそかちゃん、永那先輩のこと“かっこいい”ってずっと言ってて、どんな人なのかな?って私も気になっていたので、お話できて嬉しいです」
「それは…光栄だね」
「永那先輩は…お付き合いしてる方は、いらっしゃるんですか?」
横目に杏奈ちゃんを見る。
探るような目。
でも嫌な感じがしない。
…ひそかちゃんのためか。
「いるよ、彼女」
彼女が目を瞠る。
「や、やっぱり…そうですよね。ちなみに…あの、綺麗な方ですか?」
「どの綺麗な方?」
わかってるけど、飽きたやり取りに苛つく。
「えっ…えーっと…生徒会長の向かいに座っていた…」
「あいつは違うよ」
杏奈ちゃんを真っ直ぐ見る。
彼女が背筋を伸ばす。
「ねえ?」
「は、はい」
「生徒会長って綺麗だと思わない?」
杏奈ちゃんは目を大きく開いた後、ふぅっと息を吐いて、目を伏せた。
「なるほど…。そうですね、綺麗だと思います」
頷かれて、心が満たされる。
列が進み、杏奈ちゃんが唐揚げを受け取る。
ほぼ同時に、ひそかちゃんがカレーを持ってこちらにやって来た。
テーブルに戻り、私は食べかけのパンが置かれた、穂の隣に座る。
私の隣にひそかちゃんが座り、その隣に杏奈ちゃんが座る。
「2人とも、バド部にも体験入部来ない?」
優里が、私達が着席すると同時に言う。
「バドミントン部ですか…。私達、運動は苦手で…」
杏奈ちゃんが苦笑する。
「ガーン!…私も運動苦手だったよ?でも大丈夫!ちゃんと優しく教えるから!!ね~、どうかな~?」
「優里、しつこい勧誘は逆効果だぞ」
「な!?そうなの!?…失敗した~」
お弁当を食べ終えた優里が、テーブルに突っ伏す。
ひそかちゃんからの熱い視線を無視しつつ、私はパンを噛じる。
穂が生徒会の話を始めて、杏奈ちゃんが質問をして、桜が漫画研究会をさり気なく宣伝して、ひそかちゃんが少しそちらに気が逸れる。
そんなやり取りをしていたら、あっという間に予鈴が鳴った。
「じゃあ、放課後、生徒会室で待ってるね」
穂が言うと、2人はペコリと頭を下げて、自分達の教室に向かった。
最後の最後までひそかちゃんからの視線が熱くて気まずかった。
「永那~、後輩忘れるって、どうした~?」
優里が肘で突いてくる。
「いや、さすがに中学の時の後輩の友達って、無理じゃない?」
「まあ…たしかに…ちょっと遠い感じはするよね」
「ハハハ」と苦笑しながら優里が同情してくれる。
「その中学の後輩だって、たぶんあんまり喋ったことない子でさ…」
“あの子かな~…?”ってくらいの怪しい記憶。
その子とも、私、関係持ってなかったんじゃない?
迫ったことはあったかもしれないけど。
だとすれば、そんなの…覚えてるわけがない…!
いちいち、自分のことを“かっこいい”だの“優しい”だのと言ってきた人のことを覚えていられるわけがない。
特に中3の時は。
キャーキャー言われて、できそうな子に片っ端から迫った。
実際にセックスまでしたのはそんなに多くはなかったと思うけど、たくさんの子を標的にしたのは間違いない。
そのたくさんの内の1人…の、友達じゃ、無理だよ…。
「ハァ」と息をつく。
中川さんは指で涙を拭っていた。
こんな初っ端から後輩泣かせるとか…クラスでなんか言われるんだろうな…。
自業自得だけど、面倒だ…。
立ち上がって、彼女の頭を撫でる。
「ごめんね、あんまり覚えてなくて。私、中3の時の記憶がほとんどなくてさ…。でも、もうちゃんと覚えたから。遅いかもしれないけど、ひそかちゃんのこと、ちゃんと覚えたから」
潤む瞳が真っ直ぐ私に向く。
「永那先輩…っ」
「嬉しいよ。同じ高校に入りたいなんて思ってくれて」
ひそかちゃんの顔が、さっき駆け寄ってきた時と同じように、パッと明るくなった。
少し紅潮した頬、キラキラして真っ直ぐ見つめてくる瞳、欲しがるようにツンと小さく突き出した唇…。
この感じ、嫌なんだよな…。
高校まで調べて追いかけてきたってことは、相当私のことを好きだということ。
私には、穂がいるのに。
「ご飯、食べた?」
「まだですっ」
「あー…じゃあ、奢るよ」
「え!?」
「泣かせちゃったお詫び。…杏奈ちゃんも」
「私もですか!?そんな…私は…」
笑顔を作って、食券機に向かって歩き出す。
痛い出費だ。
2人が唐揚げ定食とカツカレーを選ぶ。
カレーは1番奥のカウンターだから、ひそかちゃんがトレーを持ってスキップをしながら奥の列に並んだ。
「永那先輩…すみませんでした…」
食堂の出入り口から1番手前にある列に並ぶ杏奈ちゃんが小声で言う。
「なにが?」
「私、余計なこと言っちゃいましたよね…?」
「いや、全然。むしろ私が忘れてることを察してくれて助かったよ。ありがとう」
杏奈ちゃんは小さく笑みを浮かべて、頷いた。
「2人は、違う中学?」
「はい。高校入って、同じクラスで、友達になりました」
「そっか」
「ひそかちゃん、永那先輩のこと“かっこいい”ってずっと言ってて、どんな人なのかな?って私も気になっていたので、お話できて嬉しいです」
「それは…光栄だね」
「永那先輩は…お付き合いしてる方は、いらっしゃるんですか?」
横目に杏奈ちゃんを見る。
探るような目。
でも嫌な感じがしない。
…ひそかちゃんのためか。
「いるよ、彼女」
彼女が目を瞠る。
「や、やっぱり…そうですよね。ちなみに…あの、綺麗な方ですか?」
「どの綺麗な方?」
わかってるけど、飽きたやり取りに苛つく。
「えっ…えーっと…生徒会長の向かいに座っていた…」
「あいつは違うよ」
杏奈ちゃんを真っ直ぐ見る。
彼女が背筋を伸ばす。
「ねえ?」
「は、はい」
「生徒会長って綺麗だと思わない?」
杏奈ちゃんは目を大きく開いた後、ふぅっと息を吐いて、目を伏せた。
「なるほど…。そうですね、綺麗だと思います」
頷かれて、心が満たされる。
列が進み、杏奈ちゃんが唐揚げを受け取る。
ほぼ同時に、ひそかちゃんがカレーを持ってこちらにやって来た。
テーブルに戻り、私は食べかけのパンが置かれた、穂の隣に座る。
私の隣にひそかちゃんが座り、その隣に杏奈ちゃんが座る。
「2人とも、バド部にも体験入部来ない?」
優里が、私達が着席すると同時に言う。
「バドミントン部ですか…。私達、運動は苦手で…」
杏奈ちゃんが苦笑する。
「ガーン!…私も運動苦手だったよ?でも大丈夫!ちゃんと優しく教えるから!!ね~、どうかな~?」
「優里、しつこい勧誘は逆効果だぞ」
「な!?そうなの!?…失敗した~」
お弁当を食べ終えた優里が、テーブルに突っ伏す。
ひそかちゃんからの熱い視線を無視しつつ、私はパンを噛じる。
穂が生徒会の話を始めて、杏奈ちゃんが質問をして、桜が漫画研究会をさり気なく宣伝して、ひそかちゃんが少しそちらに気が逸れる。
そんなやり取りをしていたら、あっという間に予鈴が鳴った。
「じゃあ、放課後、生徒会室で待ってるね」
穂が言うと、2人はペコリと頭を下げて、自分達の教室に向かった。
最後の最後までひそかちゃんからの視線が熱くて気まずかった。
「永那~、後輩忘れるって、どうした~?」
優里が肘で突いてくる。
「いや、さすがに中学の時の後輩の友達って、無理じゃない?」
「まあ…たしかに…ちょっと遠い感じはするよね」
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「その中学の後輩だって、たぶんあんまり喋ったことない子でさ…」
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