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9.移ろい
519.大人
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「やっぱり、永那か穂がいい…。永那と穂がいい」
「は?」
「2人から愛されたい」
「期間限定なんでしょ?」
千陽が膝に額をつけて俯く。
「お前、仮面舞踏会にでも出たらいいんじゃないの?」
「そんなのやってないし」
「開けば?パパに頼んで」
「パパの知り合いしか来ないじゃん。男は嫌」
「我が儘だなあ、もう…。まあ、いいや。そんな焦ることもないよね」
ほんの少し顔を上げて、千陽は頷いた。
「そんなことより…穂~!!」
「わっ」
押し倒され、視界の全面に天井が映る。
ひょこっと永那ちゃんの顔が入ってきて、ムチューッと唇を突き出してくるから、手の平で押した。
「“そんなこと”じゃないでしょ?永那ちゃんは、まったくもう!」
「へへっ、可愛い」
「永那ちゃん?」
「いいじゃん、この後2人はお泊まりでしょ?」
「でも、今じゃないでしょ?」
「なんで?」
「千陽が泣いてるんだよ?」
「私達とここにいれば、もう大丈夫でしょ?」
「永那ちゃん…そんな人だったっけ?」
「え……」
「もっと…なんていうか…ちゃんと千陽のこと大事にしてると思ってた」
「し、してるよ!?…してる、つもり」
「じゃあ、どうして今、私のこと押し倒してるの?…千陽の話、もっと聞いてあげるべきじゃない?」
永那ちゃんは息を吐きながら、起き上がる。
視界が開けたので、私も体を起こす。
「穂…」
「なに?」
「いいから、あたしは。もう、大丈夫だから」
「でも…」
「永那に八つ当たり出来てスッキリしたし、ホント、大丈夫」
「八つ当たり?」
「八つ当たりすんな!」
永那ちゃんは私から少し離れたところで、俯いている。
拳を作って、膝をトントンと叩いていた。
「それに、永那の言う通り、あたし達、今夜いっぱい楽しむんだし。永那にも少しはイチャイチャさせてあげないと、可哀想」
千陽が楽しそうに、戯けたように笑った。
「お前なあ…。絶対穂のことさわっちゃダメだからね?」
「やだ」
「ダメ、絶対!」
「さわらないなんて無理」
「さわるのは良いけど、さわっちゃダメなの!」
「永那、言ってることめちゃくちゃなんだけど?」
「だーかーら!穂のこと」
「永那ちゃん、静かに。下に聞こえちゃうかもしれないでしょ?」
この調子じゃ、永那ちゃんが何を言い出すのか怖くて仕方ない。
永那ちゃんの眉間に深いシワが刻まれる。
「穂!さっきから、なんか私に冷たい!なんで!!」
「冷たくないよ?」
「冷たいよ…。私が悪いことしてるみたい。…私だって、私なりに頑張ってるもん」
「それは、わかってるよ?」
「ホントに?」
「うん。ずっと千陽の代わりに色んな人と話してて、凄いなって思ってたよ」
「それなら…いいけど…」
彼女は俯いたまま、変わらず拳で膝を叩く。
トントンという音が部屋に響く。
「最近、千陽も、私にだけ当たり強いし」
しばらくの沈黙の後、永那ちゃんがボソボソと話し始める。
「私って、そんな悪いことした?そんな、酷い奴?」
「酷い人だなんて、思ったこと、1度もないよ?」
「じゃあ…なんで…」
「私は、ただ、千陽が傷ついているのに、そういうことをするのは今じゃないって思っただけだよ?…千陽がちょっと拗ねたりしてるのも、永那ちゃんに甘えてるだけなのかなって、私は見てて、思う」
「“そんな人だったっけ?”って言った…」
「それは…千陽が悲しんでたら、千陽を優先すると思ってたから」
永那ちゃんは顔を上げない。
「ちゃんと話聞いたじゃん…」
どう返せばいいのか、わからなくなる。
1階から大人達の笑い声が聞こえる。
いろんな種類のお酒が並んでいたから、盛り上がる時間帯なのだろう。
対照的に、私達の間には何も会話が生まれない。
なんとなくの気まずさから、私は膝の上の手をモジモジと動かした。
「キスしたい」
沈黙を破るように千陽が笑った。
「したい」
私が彼女を見ていると、ジッと見つめられた。
彼女の双眸がキラリと光る。
チラリと永那ちゃんを見ると、不機嫌そうに、顔を伏せながら千陽を見ていた。
すぐに視線が私に向く。
永那ちゃんの左眉は上がり、口元は真一文字に結ばれていた。
「だめ?」
「勝手にすれば?」
永那ちゃんが答える。
「永那はしないの?」
フゥーッと永那ちゃんが鼻から息を吹き出す。
また膝をトントン叩く。
千陽が四つん這いに私に近づいてくる。
彼女の一挙手一投足が背景から浮き上がるみたいに強調される。
「永那がしないなら、あたしと穂でしよ?」
顔が近づく。
彼女の大きな瞳が、獲物を捕らえた動物のように細まる。
鼻と鼻がくっつき、彼女の甘い息がかかった。
「穂、好き。大好き。…あたしのこと大事にしてくれる穂が好き」
怒涛のように押し寄せてくる愛の言葉に気圧されて、思わず床に手をついた。
ギュッと目を瞑ると、ぬくもりが唇に触れる。
しっとりとしたあたたかさが心地良い。
自然と力を込めていた手の平が、ぺたりと床にひっつく。
離れるか離れないか、触れるか触れないかのギリギリのところまで彼女が戻り、再びぴったり重なり合う。
「は?」
「2人から愛されたい」
「期間限定なんでしょ?」
千陽が膝に額をつけて俯く。
「お前、仮面舞踏会にでも出たらいいんじゃないの?」
「そんなのやってないし」
「開けば?パパに頼んで」
「パパの知り合いしか来ないじゃん。男は嫌」
「我が儘だなあ、もう…。まあ、いいや。そんな焦ることもないよね」
ほんの少し顔を上げて、千陽は頷いた。
「そんなことより…穂~!!」
「わっ」
押し倒され、視界の全面に天井が映る。
ひょこっと永那ちゃんの顔が入ってきて、ムチューッと唇を突き出してくるから、手の平で押した。
「“そんなこと”じゃないでしょ?永那ちゃんは、まったくもう!」
「へへっ、可愛い」
「永那ちゃん?」
「いいじゃん、この後2人はお泊まりでしょ?」
「でも、今じゃないでしょ?」
「なんで?」
「千陽が泣いてるんだよ?」
「私達とここにいれば、もう大丈夫でしょ?」
「永那ちゃん…そんな人だったっけ?」
「え……」
「もっと…なんていうか…ちゃんと千陽のこと大事にしてると思ってた」
「し、してるよ!?…してる、つもり」
「じゃあ、どうして今、私のこと押し倒してるの?…千陽の話、もっと聞いてあげるべきじゃない?」
永那ちゃんは息を吐きながら、起き上がる。
視界が開けたので、私も体を起こす。
「穂…」
「なに?」
「いいから、あたしは。もう、大丈夫だから」
「でも…」
「永那に八つ当たり出来てスッキリしたし、ホント、大丈夫」
「八つ当たり?」
「八つ当たりすんな!」
永那ちゃんは私から少し離れたところで、俯いている。
拳を作って、膝をトントンと叩いていた。
「それに、永那の言う通り、あたし達、今夜いっぱい楽しむんだし。永那にも少しはイチャイチャさせてあげないと、可哀想」
千陽が楽しそうに、戯けたように笑った。
「お前なあ…。絶対穂のことさわっちゃダメだからね?」
「やだ」
「ダメ、絶対!」
「さわらないなんて無理」
「さわるのは良いけど、さわっちゃダメなの!」
「永那、言ってることめちゃくちゃなんだけど?」
「だーかーら!穂のこと」
「永那ちゃん、静かに。下に聞こえちゃうかもしれないでしょ?」
この調子じゃ、永那ちゃんが何を言い出すのか怖くて仕方ない。
永那ちゃんの眉間に深いシワが刻まれる。
「穂!さっきから、なんか私に冷たい!なんで!!」
「冷たくないよ?」
「冷たいよ…。私が悪いことしてるみたい。…私だって、私なりに頑張ってるもん」
「それは、わかってるよ?」
「ホントに?」
「うん。ずっと千陽の代わりに色んな人と話してて、凄いなって思ってたよ」
「それなら…いいけど…」
彼女は俯いたまま、変わらず拳で膝を叩く。
トントンという音が部屋に響く。
「最近、千陽も、私にだけ当たり強いし」
しばらくの沈黙の後、永那ちゃんがボソボソと話し始める。
「私って、そんな悪いことした?そんな、酷い奴?」
「酷い人だなんて、思ったこと、1度もないよ?」
「じゃあ…なんで…」
「私は、ただ、千陽が傷ついているのに、そういうことをするのは今じゃないって思っただけだよ?…千陽がちょっと拗ねたりしてるのも、永那ちゃんに甘えてるだけなのかなって、私は見てて、思う」
「“そんな人だったっけ?”って言った…」
「それは…千陽が悲しんでたら、千陽を優先すると思ってたから」
永那ちゃんは顔を上げない。
「ちゃんと話聞いたじゃん…」
どう返せばいいのか、わからなくなる。
1階から大人達の笑い声が聞こえる。
いろんな種類のお酒が並んでいたから、盛り上がる時間帯なのだろう。
対照的に、私達の間には何も会話が生まれない。
なんとなくの気まずさから、私は膝の上の手をモジモジと動かした。
「キスしたい」
沈黙を破るように千陽が笑った。
「したい」
私が彼女を見ていると、ジッと見つめられた。
彼女の双眸がキラリと光る。
チラリと永那ちゃんを見ると、不機嫌そうに、顔を伏せながら千陽を見ていた。
すぐに視線が私に向く。
永那ちゃんの左眉は上がり、口元は真一文字に結ばれていた。
「だめ?」
「勝手にすれば?」
永那ちゃんが答える。
「永那はしないの?」
フゥーッと永那ちゃんが鼻から息を吹き出す。
また膝をトントン叩く。
千陽が四つん這いに私に近づいてくる。
彼女の一挙手一投足が背景から浮き上がるみたいに強調される。
「永那がしないなら、あたしと穂でしよ?」
顔が近づく。
彼女の大きな瞳が、獲物を捕らえた動物のように細まる。
鼻と鼻がくっつき、彼女の甘い息がかかった。
「穂、好き。大好き。…あたしのこと大事にしてくれる穂が好き」
怒涛のように押し寄せてくる愛の言葉に気圧されて、思わず床に手をついた。
ギュッと目を瞑ると、ぬくもりが唇に触れる。
しっとりとしたあたたかさが心地良い。
自然と力を込めていた手の平が、ぺたりと床にひっつく。
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