いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
592 / 595
9.移ろい

525.大人

しおりを挟む
「穂、永那のことばっか!うるさい!…今日はあたしを愛してくれる日なの!今日は、穂があたしを、愛してくれる日なの!」
「うん、わかってる。わかってるけど、私は…永那ちゃんのことも、ちゃんと大事にしてほしい」
「そんなの…永那があたしを大事にしてくれたら…あたしだってするし」
「永那ちゃんは千陽のこと、大事にしてるよ?千陽も、それはわかってるんでしょ?」
まるで聞き分けのない子供だ。
今日は…3人とも、想像以上に疲れているのかもしれない。
何度も険悪な雰囲気になるのは、きっとそのせい。
…私も、すごく疲れた。
「千陽…」
千陽は逃げるように立ち上がって、2階に上がってしまった。
ため息が出る。
少し、頭が重たい。

体を起こし、なんとかキッチンに立つ。
軽くプラスチックの食器を洗い、袋に入れる。
前に掃除機の場所は聞いたことがあったので、クローゼットを開けて、取り出した。
永那ちゃんの部屋よりも広そうなクローゼットの奥に、掃除機は立て掛けられていた。
充電式のコードレス掃除機は有名なブランドの物で、私の家にある物よりずっと良い品だと、すぐにわかる。
疲労がなければ、きっとおっかなびっくりに使ったんだろうけれど、今はそんな余裕すらない。
床を簡単に掃除し、掃除機の先端を変えて、ソファの上も掃除機をかける。
カーテンを閉めようとすると、窓に人影が反射して見えた。
振り向くと、壁に半分隠れるように、千陽が立っていた。
「千陽」
「…ごめんなさい」
本当に、叱られた子供みたい。
その姿に、笑みが溢れる。
「千陽、テーブル拭いてくれる?」
コクリと頷いて、彼女は既にテーブルに置いてあった使い捨ての布巾を手に取った。
少し眺めてから、テーブルを拭く。
初めてお手伝いをする子…?

掃除機の中に溜まったゴミを捨てる。
使う前は新品同様に綺麗だったので、ホコリがついたダストカップの内側をティッシュで拭く。
広い部屋を掃除するのは楽じゃない。
これは…たしかに家事代行が必要なくらいの労力だ。
じんわりと汗が肌に滲む。
早くお風呂に入りたい。
掃除機を片付けると、千陽もテーブルを拭き終えたところだった。
「綺麗になった…!」
両手を伸ばすと、あくびが出た。
「千陽、お風呂入っちゃおう?」
「うん…!」
彼女はスキップでもしそうな勢いでゴミ箱に布巾を捨てた。
腕を組まれ、2人で2階に上がる。

「チャイナ服だし、定番のお団子にしようか迷ったの」
「千陽のお団子、可愛いだろうね」
服を脱ぐ。
フフッと彼女が笑った。
「クマの耳みたいに」
千陽は両手をグーにして、頭に乗せる。
こういう女の子らしい可愛い仕草、私も出来たらいいのに…。
恥ずかしくて、意識すればするほど出来そうにない。
「似合いそう」
「朝1回やったんだけど、1日そうしてたら頭痛くなりそうで」
「ああ…千陽のお母さんも、頭痛いって言ってたよね」
彼女が頷く。
千陽のお母さんは、そういった髪型ではなかったけれど。
長い髪を1つに纏めること自体、頭皮の一点に重みが集中するのだから、長時間そうしていると痛くなるのは想像が出来る。
「だから結局、下ろした」
「そっか。ちょっと、見てみたかったな」
「見る…?」
「してくれるの?」
千陽は1度自分の部屋に戻り、必要な数だけ、ピンとゴムを持ってきた。
私は既にワンピースを脱ぎ終えてしまって、肌着姿なのだけれど、寒くはないので、大人しく彼女のお団子作りを眺める。

「ホントは三つ編みして、それをお団子に巻いてたんだけど…今は時間ないから、これだけ」
「可愛い!」
「でしょ?…髪伸びたし、こういうのも出来るようになったのは良いかも」
「どうしてずっとショートにしてたの?」
「変な男が寄ってくるから」
「…でも、ショートでも寄ってきてたんだよね?」
「うん、大して変わらなかった」
「ショートも可愛いもんね、千陽」
「どっちが好き?」
よく聞かれる質問。
「どっちも好きだよ」
いつも同じ回答。
千陽は満足そうに頷いて、私に背を向けた。
「穂、ボタン外して?」
項のボタンを外す。
ボタンで留まっていた布がはだけて、背中が大きく晒される。

「千陽のお母さんの服、すごく大胆だったね」
「パパが好きだから、ああいうの」
「千陽は、今日は控えめなんだね。似たようなやつじゃなくて良かったの?」
「ママより目立ちたくないから。ただでさえ話しかけられるのに、もっと話しかけられるハメになる」
「久米さん、とか…?」
「そ。あの人はあたし目的だし。…でも、これも可愛いでしょ?」
「うん、すごく似合ってる」
彼女が華やいで、チラチラとお花が咲いたような笑みを浮かべる。
「お母さんのは袖付きだったけど、千陽のはノースリーブなんだよね。千陽の白い肌がやわらかそうで、つい見ちゃう」
「…変態」
「ち、ちがうよ…!」
「穂が喜びそうなの選んだから、良かった」
彼女は洗面台に寄りかかり、胸元に手を当てる。
ちょうど2つの房の間に手を置くから、豊かな胸が強調される。
無意識に、ゴクリと唾を飲む。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範
恋愛
 となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。  ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

処理中です...