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第二話 恋の匂いは消えず(3)
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「こぼれた」
いつの間にかざるを取り落としていたボハイラが顔を離し、小さく悪態をつきながらジャスミンの花をざるに盛り直す。
ラアドは衝撃の余韻にふらふらした手で、それを手伝った。
「ビビと愛しあうと、雷に打たれたような気持ちになる」
「愛しあうって……。――そうだな、俺は」
「ビビ」
「俺は、頭の中で花が開くような気持ちになる、よ」
兄弟の琥珀色が絡みあう寸前で、ボハイラは兄の視線を断ち切るように立ち上がった。
「ビビぃ」
すたすたと歩いていたボハイラの足が止まった。
「この間、すごくいいジャスミンの精油が手に入ったんだ。今夜、風呂に入れようと思う」
「私と一緒に入ってくれるか」
ゆったりとした足取りで近づくラアドに後ろから抱きしめられ、ボハイラはそっと息を吐いた。ラアドが弟の肩に頬ずりをする。目を伏せたまま、瞳をきょろきょろと動かすボハイラを見て、ラアドは体のあちこちに小さな雷が落ちるのを感じた。
耳たぶが愛らしく、美しい形の耳に唇を寄せた。
「あの夜は、一緒に入ってやれなかったからな」
最後の夜に、ボハイラの部屋をいっぱいにしていたジャスミンの香りを思い出すと、胸が痺れた。最後の夜を迎えるために、兄が好む香りをまとわせていた弟。
「気、づいて」
「ああ。幸せだった」
互いの手を握る兄弟の指先から、清々しい花の香りがする。
弟の肌から香る、ふくよかで秘密めいた恋の匂いを、ラアドは嗅いだ気持ちがした。
「美しき雄羊は、兄王に恋をする」End
いつの間にかざるを取り落としていたボハイラが顔を離し、小さく悪態をつきながらジャスミンの花をざるに盛り直す。
ラアドは衝撃の余韻にふらふらした手で、それを手伝った。
「ビビと愛しあうと、雷に打たれたような気持ちになる」
「愛しあうって……。――そうだな、俺は」
「ビビ」
「俺は、頭の中で花が開くような気持ちになる、よ」
兄弟の琥珀色が絡みあう寸前で、ボハイラは兄の視線を断ち切るように立ち上がった。
「ビビぃ」
すたすたと歩いていたボハイラの足が止まった。
「この間、すごくいいジャスミンの精油が手に入ったんだ。今夜、風呂に入れようと思う」
「私と一緒に入ってくれるか」
ゆったりとした足取りで近づくラアドに後ろから抱きしめられ、ボハイラはそっと息を吐いた。ラアドが弟の肩に頬ずりをする。目を伏せたまま、瞳をきょろきょろと動かすボハイラを見て、ラアドは体のあちこちに小さな雷が落ちるのを感じた。
耳たぶが愛らしく、美しい形の耳に唇を寄せた。
「あの夜は、一緒に入ってやれなかったからな」
最後の夜に、ボハイラの部屋をいっぱいにしていたジャスミンの香りを思い出すと、胸が痺れた。最後の夜を迎えるために、兄が好む香りをまとわせていた弟。
「気、づいて」
「ああ。幸せだった」
互いの手を握る兄弟の指先から、清々しい花の香りがする。
弟の肌から香る、ふくよかで秘密めいた恋の匂いを、ラアドは嗅いだ気持ちがした。
「美しき雄羊は、兄王に恋をする」End
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