五番目の婚約者

シオ

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 部屋の中には水音と、荒い呼吸だけが響いていた。ノウェが望むままに後ろの孔に触れている。香油を使わなくても、ノウェが垂らしたものたちで滑りを十分得られた。ノウェは過去に一度だけこの孔を使用したはずだが、毒薬のせいか随分とすんなり俺の指を受け入れる。

「あっ、だめ、あ、やだぁ……っ、きもちい、気持良い……あぁっ!」

 孔の入り口を擦るように指を差し入れすれば、ノウェが泣きながら喜ぶ。だがそれが心からの喜びでないことは分かっていた。痒みという耐えがたい苦痛から解放されるその一瞬、歓喜の声を上げているだけだ。

 一向に硬度が無くならないノウェ自身を手で扱きながら、もう片方の手で後ろの孔に奉仕する。入口を擦るだけでなく、もう少し中へ指を入れて、そこにあるしこりをトントンと軽く叩くのだ。するとノウェは背中をのけ反らせて感じてくれた。

「気持ち良いっ、あ、あぁっ、だめ、いいっ、あ、んぁ……っ!」

 一際大きな声を上げて、ノウェが果てると、ノウェは意識を手放した。薬が効いてきたのか、体中の赤味も引いてきたように思う。ノウェが持つ本来の白い肌に戻れば戻るほど、俺が獰猛に噛みついた後が赤く残る。胸のあたりが特に酷い。あとで軟膏を塗らなければ。

「ノウェ、大丈夫か」

 少し肩を揺らしてみるが、ノウェに反応はなかった。薄く目を開いたままで、眠っているのか、気絶しているのかが分からない。とりあえずノウェの体を綺麗にしなければ。そう思い、体を動かしたところで、下半身に痛みが走った。

 張りつめた自分自身が、痛いほどに腫れあがっていたのだ。ノウェへの奉仕に必死になりすぎて、自分自身の状況を全く把握していなかった。痛みが酷く、一度抜かなければ歩けそうにない。

 前を寛げて、怒張したそれを取り出す。酷い量の先走りが流れていた。己のものを、己の手で扱く。もともと淡泊な方である自覚はあるが、それでもどうしようもなく昂ることがある。そうなってしまう時はいつでも、ノウェのことを思っていた。ノウェとのことを妄想し、慰めていたのだ。

 だが、今の俺の目の前にはノウェがいる。一糸纏わぬ姿で、ノウェ自身が吐き出した蜜に塗れて。そんな極上の景色を眺めながら、俺は自分の手を上下させる。ノウェの中で果てたいなどと、俺が抱いてはいけない願いが、どうしても胸に沸いた。

「……ノウェ……、……ッ」

 勢いよく飛び出したそれらを、シーツで受け止めた。間違っても、ノウェに掛かってしまわないように細心の注意を払う。まだ少し硬さは残っているが、それでも先ほどのような痛みはない。相変わらず意識の無いノウェを抱き上げる。

 浴室にノウェを運び、バスタブに張られた湯を手桶で汲んでゆっくりと体に掛けた。侍従たちの手によって湯は適温に保たれている。俺は衣服を着たままで、それらがどんどんと濡れていくが、そんなことはどうでも良かった。体に付着していた精を湯で落とし、綺麗になったノウェの体をバスタブに下ろす。

 心地良いのか、ノウェの表情が少しだけ和らぐ。そんなノウェの様子に安堵しながら、濡れた袖を捲り上げた。全て脱いでしまえたら楽なのだろうが、きっとノウェは、いくら意識を手放してるとはいえ裸の俺と対峙したくないだろう。

「……んっ、ぁ、」

 安心したのも束の間。ノウェの手が再び胸へと伸びる。体が温まったことで、痒みが誘発されてしまったのだろうか。色々な部位が痒いのだろうけれど、どうやら一番胸の痒みが強いらしい。

「ノウェ、掻いては駄目だ。辛抱してくれ」
「やだ、やだぁっ」

 ノウェの体を必要以上に温めない方が良いと考え、バスタブの中からその華奢な体を抱き上げる。俺はバスタブのふちに腰を下ろして、濡れたままのノウェを自分の膝の上に乗せた。掻いてしまわないように、ノウェの両手首を掴みながら。

「さっき、我慢出来ただろ。もう少し耐えてくれ、ノウェ」
「やだやだ……っ、かゆい、さっきみたいにしてっ」

 子供のように駄々をこねるノウェは可愛らしいが、毒のせいで脳に影響が出ているのではと心配になった。一刻も早く毒の解析を終わらせ、その報告が聞きたいが、今はノウェのそばを離れることが出来ない。こんな状態のノウェを、他の誰にも託したくなかった。

 さっきみたいに、というのが何を指しているのかは分かる。胸の先端を口に含んで、吸ったり、舐めたり、甘噛みをしろとノウェは言っているのだ。そんなことを命令される僥倖に喜びたい反面、ノウェに正気が戻った時、どんな風に非難されるのかと恐ろしい気持ちも湧く。だが今はノウェの気持ちを抑えることが第一だった。

「あっ、あぁ……ん、は、ぁあ……っ」

 ノウェが望むことを、ノウェが望むように。それだけを考えて、赤く腫れあがってしまった胸に奉仕する。薄い胸の、わずかにある肉を集めるように強く吸い付いて、敏感な先端を舌先で押しつぶす。ぐりぐりと強く押すとノウェの口から漏れる嬌声も大きくなった。

「ヴィル……っ、て、てっ、はなして」
「掻いたりしないか?」
「しないからぁ……っ、そこで、しゃべるのだめっ」

 ノウェの胸元で言葉を発したせいで、吐き出した空気が先端を掠めたのだろう。ノウェは首を振って嫌がった。申し訳ないことをしたと思いながら、拘束していた手首を離す。離した瞬間に掻きむしったりしないか心配していたが、それは杞憂に終わった。

 自由になったノウェの両手は、俺の頭を抱き寄せた。そして、胸を反らし、胸の先端を俺の口元に押し付けるのだ。もっと、もっとと強請るノウェの下半身は、一切触れていないのに立ち上がっていた。

「もっとかんでっ」

 舌足らずで呂律が回っていない。媚薬の側面も持つ毒は、まだノウェの体内に残っているようだった。求められるままに、少し強く胸を噛んだ。本当は、こんなに可愛らしく薄桃の乳首を苛めたくはない。それに、嚙み潰してしまいそうで怖かった。

「ああっ……!!」

 噛みつきながら、引っ張る。その瞬間に、ノウェは大きな声を上げて達した。だが、吐き出したものは随分と薄く、粘性もない。もう一度ノウェの体に湯を掛けて身を清める。そのまま抱き上げて、浴室を出る。そうしてノウェを運ぶ時、すん、と鼻が鳴る音が聞こえた。ノウェは泣いていたのだ。

「……こわい」

 涙をぽろぽろと零しながら、ノウェはそう言った。理解の及ばない状況に陥って、望まぬ快楽を与えられ、触れられたくもないであろう俺に触れと懇願してしまう。それはノウェにとって、恐怖でしかない。

 必死に抑え込んできた怒りが沸き上がる。だが、まだ駄目だ。怒りが理性を焼き尽くすまえに、ノウェの身を整えなければ。自力で立つことも困難なノウェを支えながら、真新しいタオルで体を拭いていく。水気を拭い、そのまま寝室へ戻った。

 俺たちが浴室にいる間に、ベッドを侍従たちが整えてくれていたようで、全て清潔な状態になっている。下着をつけるとノウェの痒みが再発する可能性があると考え、裸のままでノウェをベッドの上に乗せた。

「ノウェ、最後にもう一回だけ薬を飲んで欲しい」

 背中を支えながら、ノウェの口元に薬湯を持っていく。疲れ果てて、意識を手放そうとしているノウェに何とか口を開いてもらい、そっとその口内に薬湯を垂らしていった。全てを飲み干したところで、ノウェの体をベッドの上に寝かせる。その頃には、ノウェの意識は殆ど夢の中だった。

 シーツを掛けても嫌がる素振りはない。穏やかに上下する胸を見て、俺も安堵する。だが、予断を許さない状況だ。いつ再び発作的な痒みなどの症状が現れるか分からない。ノウェの様子を見ながら、濡れた服を脱いで新しいものに着替える。

 頃合いを見計らったかのように、小さなノックが扉を揺らす。入室を許可すれば、静かな所作でイーヴァンが入ってきた。その目は真っ先にノウェの安否を確認し、穏やかに眠っていることに胸を撫で下ろしたようだった。

「落ち着いたんだな、お嬢さん」
「今は、な」

 イーヴは俺と二人きりになると、ノウェのことをお嬢さんと呼ぶことがある。過去に、イーヴがノウェの名を呼んで俺が不機嫌になったせいだが、それはもう随分と前のことだ。今は、そこまで狭量ではない。

「毒は、リャシュミナだろうという推測が固い」
「スラヴィアの例の毒か」
「あぁ、そうだ。怖いもの知らずの金持ちたちが、希釈して媚薬に変えて楽しんでるって例の代物。これはリオライネンでは当然、精製されていない。作成方法も、推測は出来るようだが、それが本家と同一の生成方法であるかは疑問視されるそうだ」
「つまり、解毒剤のみをリオライネンで作成することは困難、ということか」
「やはり、お嬢さんへの処置としては対処療法しか手段はないようだ」

 ベッドの上で眠るノウェを見る。痒みや熱などは引いたようで、今は穏やかに眠っていてくれている。だが、毒が抜けたのか、体の中にまだ残っているのかは分からず、先ほどのような事態が再発する可能性も大いにある。

「後遺症などは残るのか」
「それも分からない。我が国において、リャシュミナを口にして生きているのは、お嬢さんと毒見の一人しかいない。俺たちが保有する検体は二つ。情報が少なすぎる。毒見役を立派に務めて死んだもう一人は、解剖が始まっている。そこで何かしらの知見が得られたら良いんだがな」

 毒の情報は国家機密だ。おいそれとは、その詳細まで知れない。当然、リオライネンもスラヴィアに密偵を送り込んではいるが、彼らが伝えてくれた情報はその毒の名前と、どのように使われているかということ。あとはリオライネンの研究者たちに、その毒が何で、どう作られているかを考えてもらわなければならないのだ。

「誰が、こんな愚かなことをしでかした」

 ノウェの落ち着いた様子を見て、俺の理性が緩む。ずっと抑え込んでいた猛火のような殺意が、体の中を駆け回っていた。ノウェが毒の入った食事を全て食べてしまっていたら。そう考えると、生きた心地がしなかった。

「お嬢さんに出したあの魚料理を担当していた料理人はすでに死んでいた。自殺に見えるが、他殺の線も完全には消せない。金で雇われて毒を盛り、依頼人に殺されたんじゃないかと俺は考えている。調査の結果分かったことなんだが、その料理人は、ロア族であるお嬢さんが皇妃になることに、不満を漏らしていたらしい」
「だから、一介の料理人風情が、俺の最愛を害するだと?」
「料理人も、もしかしたら致死性の毒だとは聞かされていなかったかもしれない。少し体調を崩す程度だとか、そんな感じに言い含められていた可能性もある。基本的に、宮殿で働く者たちはリオライネンへの強い愛国心が基準で採用されている。だからこそ、ロア族のお嬢さんが許せなかった。だが、だからといって皇帝が選んだ人を殺そうとまではしないはずだ。料理人本人に強い殺意までは無かったと思う。……まぁ、全て俺の推測だがな」

 何ひとつ確証はない。すべて、イーヴの頭の中の筋書きだ。だが、証拠など無くてもイーヴの目は真実を見抜く。それはある意味で、生まれ持った才能だった。だからこそこの男はミルティアディスとして成人し、内務卿という席に座っているのだ。

「その料理人がただ雇われただけだったとして。その裏には誰がいる」

 スラヴィアでしか作られていない毒薬。そんなものを、単なる料理人が手に入れられるはずがない。ノウェに毒を盛った張本人がその料理人だったとしても、その裏には、画策したい人物がいる。逡巡の後に、イーヴァンは口を開いた。

「スラヴィア国。もしくは……、あの姉妹」



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