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「イェンストは私より二百歳年上だった。いつも優しくて、私を諭し、守りながら導いてくれた。木漏れ日のような人だった。……でも、私と番になった直後にイェンストは病に罹ってしまったんだ。それから数年経って、今から八十年前に命を落としたんだ」
愛しい子の隣に腰かけ、その頭を撫でながら私は遠い日の彼を思った。鮮明に姿を思い出すことも難しくなってきている。ただ、優しい眼差しだけはいつまでも私の中に残っていた。
「……その人も男だったんですね」
「あぁ。我らの一族は、性別にあまりこだわりがないんだ。女性同士でも番になるし、男同士であったのも、別段珍しいことではない」
手触りの良い硬質な髪。少しだけ癖っ毛で、可愛らしいのだ。丸い耳も愛らしいし、整っていく横顔には名状しがたい感情すら抱く。
「貴方の名前が知りたい」
その言葉は、彼の頭を撫でていた上機嫌な私の手を止めるに値する台詞だった。容易く彼に触れられなくなる。私は伸ばしていた手を引っ込めた。
「貴方の名前を呼びたい」
「……それは」
「血の繋がった家族以外には、番にしか教えないんでしょう? そんなの知ってます。昔、貴方に聞いたことだ。でも、そんな貴方の種族だけの習慣を俺に押し付けないで下さいよ! こんなにずっと一緒にいるのに、こんなに大切なのに……っ! ……俺は、貴方の名すら知らないんだ」
身を起こし、彼は吠えた。怒りと悲しみが入り混じり、彼自身でも抑えられない奔流のようになって、それが言葉として私に届く。愛しい子が私を鋭い双眸で見る。悔しそうに、歯を噛みしめて。
「どうして……っ、名を明かすつもりもないのに、……どうして俺を拾ったんですか」
問われても、答えられない。ただ、私の中に葛藤があったのだとしか言えない。大切で、とても愛しい子。この子に私の名を明かし、この子に私が名をつけられたなら、それはどれほど幸せなことだろう。
けれど、我らの一族にとって名とはとても強い意味を持つもの。血の繋がりの無い者に名を明かすのは、その者と番になるときなのだ。拾った子は愛しいが、番になることには後ろめたさがあった。心の中に葛藤が渦巻く。私は、言葉を返すことすら出来なかった。
無言のまま、互いに目を瞑る。夢の中に逃避してしまいたい気持ちが己の中にあった。抱きしめあわずに眠る夜は、ひどく寒かった。
朝の陽ざしが、薄く室内を照らしはじめた頃。私は小さな呻き声で目を覚ました。それは隣で眠る愛しい子が吐き出すものだったのだ。慌てて飛び起き、様子を伺う。悪夢でも見ているかのように、愛しい子のおもては険しく、苦しげだった。
どうすべきなのだろう。起こしてあげるべきだろうか。狼狽える私の目に飛び込んでいたのは、反り立つ彼自身だった。馬の下半身に付いているそれは、もとから大きく、私のものと比べることすら嫌になる大きさであるのに、それがいつもより増して大きくなり、そして強く立ち上がっていた。
「……どうしよう」
どうしようといっても、楽にしてあげるしかない。恐らく、彼がこんなに苦しんでいるのも、これが原因なのだ。私はあらゆる辛苦からこの子を守れるよう努めてきた。それと同じことだ。
寝台の上を這いながら、彼の下半身に向かった。そして、血管の浮き上がる立派なそれを、そっと撫でる。昔、頭を撫でたのと同じようにさわさわと。
彼のそれは撫でるたびに、どんどん大きくなっていった。こんな大きさのものが入るのだろうか、と己で受け入れることを考えていた自分自身に酷く驚いてしまう。私は何を考えているのだと、強く叱責した。余計なことを考えぬよう、私は彼を慰撫することのみに集中する。
優しく撫でるのをやめ、両手で掴んで軽く扱く。手を上下に動かしていると、彼の先端から白濁したものが垂れてきた。それを手で拭い、その滑りを利用して更に大きく扱いた。
「……っ、んっ……っ!」
一度、大きな声が彼の鼻から抜け出て、その声と同時に大量の液が噴出する。その量は凄まじく、一発で女は子を宿すだろうと思われる量だった。私は噴き出るそれを避けることも出来ず、顔や頭にかかってしまう。べたべたとした感触は好ましいものではなかったが、嫌悪感はなかった。愛しい子のものであるのならだ、当然だ。
「な……っ、何をしてるんですか!!」
吐精の勢いで、彼は目を覚ました。そして彼の下半身のそばに座り込む私を見て、酷く驚愕する。私としては苦しむ子を何とか慰めたいという一心であったが、彼からしてみれば寝ている間に勝手に射精させられていたという状況になる。彼の驚きは至極真っ当なものだった。
「苦しそうだったから、その」
私の手の中で、再び硬くなったものを両手で掴んで、手を上下に動かす。愛しい子の口からは、悲鳴とも罵声とも区別のつかない声が漏れていた。やめてください、と何度か懇願されたが、出してしまえば楽になるから、と私が押し通した。
そして、彼は二度目の絶頂を迎える。先ほどより量は少ないが、それでも大量の精が再び吐き出され、私にかかった。愛しい子は茫然としている。空虚になった目、大きくため息を吐き捨てて、彼は一度俯いた。
「……最悪だ」
そう呟いたのが、確かに聞こえた。
愛しい子の隣に腰かけ、その頭を撫でながら私は遠い日の彼を思った。鮮明に姿を思い出すことも難しくなってきている。ただ、優しい眼差しだけはいつまでも私の中に残っていた。
「……その人も男だったんですね」
「あぁ。我らの一族は、性別にあまりこだわりがないんだ。女性同士でも番になるし、男同士であったのも、別段珍しいことではない」
手触りの良い硬質な髪。少しだけ癖っ毛で、可愛らしいのだ。丸い耳も愛らしいし、整っていく横顔には名状しがたい感情すら抱く。
「貴方の名前が知りたい」
その言葉は、彼の頭を撫でていた上機嫌な私の手を止めるに値する台詞だった。容易く彼に触れられなくなる。私は伸ばしていた手を引っ込めた。
「貴方の名前を呼びたい」
「……それは」
「血の繋がった家族以外には、番にしか教えないんでしょう? そんなの知ってます。昔、貴方に聞いたことだ。でも、そんな貴方の種族だけの習慣を俺に押し付けないで下さいよ! こんなにずっと一緒にいるのに、こんなに大切なのに……っ! ……俺は、貴方の名すら知らないんだ」
身を起こし、彼は吠えた。怒りと悲しみが入り混じり、彼自身でも抑えられない奔流のようになって、それが言葉として私に届く。愛しい子が私を鋭い双眸で見る。悔しそうに、歯を噛みしめて。
「どうして……っ、名を明かすつもりもないのに、……どうして俺を拾ったんですか」
問われても、答えられない。ただ、私の中に葛藤があったのだとしか言えない。大切で、とても愛しい子。この子に私の名を明かし、この子に私が名をつけられたなら、それはどれほど幸せなことだろう。
けれど、我らの一族にとって名とはとても強い意味を持つもの。血の繋がりの無い者に名を明かすのは、その者と番になるときなのだ。拾った子は愛しいが、番になることには後ろめたさがあった。心の中に葛藤が渦巻く。私は、言葉を返すことすら出来なかった。
無言のまま、互いに目を瞑る。夢の中に逃避してしまいたい気持ちが己の中にあった。抱きしめあわずに眠る夜は、ひどく寒かった。
朝の陽ざしが、薄く室内を照らしはじめた頃。私は小さな呻き声で目を覚ました。それは隣で眠る愛しい子が吐き出すものだったのだ。慌てて飛び起き、様子を伺う。悪夢でも見ているかのように、愛しい子のおもては険しく、苦しげだった。
どうすべきなのだろう。起こしてあげるべきだろうか。狼狽える私の目に飛び込んでいたのは、反り立つ彼自身だった。馬の下半身に付いているそれは、もとから大きく、私のものと比べることすら嫌になる大きさであるのに、それがいつもより増して大きくなり、そして強く立ち上がっていた。
「……どうしよう」
どうしようといっても、楽にしてあげるしかない。恐らく、彼がこんなに苦しんでいるのも、これが原因なのだ。私はあらゆる辛苦からこの子を守れるよう努めてきた。それと同じことだ。
寝台の上を這いながら、彼の下半身に向かった。そして、血管の浮き上がる立派なそれを、そっと撫でる。昔、頭を撫でたのと同じようにさわさわと。
彼のそれは撫でるたびに、どんどん大きくなっていった。こんな大きさのものが入るのだろうか、と己で受け入れることを考えていた自分自身に酷く驚いてしまう。私は何を考えているのだと、強く叱責した。余計なことを考えぬよう、私は彼を慰撫することのみに集中する。
優しく撫でるのをやめ、両手で掴んで軽く扱く。手を上下に動かしていると、彼の先端から白濁したものが垂れてきた。それを手で拭い、その滑りを利用して更に大きく扱いた。
「……っ、んっ……っ!」
一度、大きな声が彼の鼻から抜け出て、その声と同時に大量の液が噴出する。その量は凄まじく、一発で女は子を宿すだろうと思われる量だった。私は噴き出るそれを避けることも出来ず、顔や頭にかかってしまう。べたべたとした感触は好ましいものではなかったが、嫌悪感はなかった。愛しい子のものであるのならだ、当然だ。
「な……っ、何をしてるんですか!!」
吐精の勢いで、彼は目を覚ました。そして彼の下半身のそばに座り込む私を見て、酷く驚愕する。私としては苦しむ子を何とか慰めたいという一心であったが、彼からしてみれば寝ている間に勝手に射精させられていたという状況になる。彼の驚きは至極真っ当なものだった。
「苦しそうだったから、その」
私の手の中で、再び硬くなったものを両手で掴んで、手を上下に動かす。愛しい子の口からは、悲鳴とも罵声とも区別のつかない声が漏れていた。やめてください、と何度か懇願されたが、出してしまえば楽になるから、と私が押し通した。
そして、彼は二度目の絶頂を迎える。先ほどより量は少ないが、それでも大量の精が再び吐き出され、私にかかった。愛しい子は茫然としている。空虚になった目、大きくため息を吐き捨てて、彼は一度俯いた。
「……最悪だ」
そう呟いたのが、確かに聞こえた。
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