あのっ、ハーレムパーティのマスコット枠ケモミミ娘に転生したはずなんですが…!?

鳶ニブ

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13 旅の始まりと運命の出逢い





 ――僕は、自分だけが不幸だと思っていなかっただろうか。

 不慮の死を迎えた僕。
 だけどこうしてやり直すことができ、チート能力だって付与された。
 
 前の人生でギルドに入り、世間を知った気になっていたけれど、よくよく考えればギルドだって民衆の上澄なのだ。

 ぬくぬく暮らしていた貴族の坊っちゃん風情が、不幸を語るべきじゃない。不幸と呼ぶにはあまりにもぬるいものだったのでは、と――。


 早く移動しないといけないのに、どうしても動けなかった。


 僕がここでこうしていたって、誰も救われない。
 学んで人を救う方法を考えなければ。そうしなければ、貴族である僕にどれほどの価値があるというのか。

 頭の中にぐるぐると解決のできない問題が回り、吐き気まで覚えたころ。


 ――ふと、机に影が差した。


「ねえ、どうしたの」

 そこに立っていたのは年上の同級生である天才黒魔導士・ターシャで、ターシャは青白い僕の顔を見るなり、
「ね、ちょっと日に当たろっか」
 と、背中を優しく叩き、僕を校内にある憩いの庭へ連れ出した。


 この日、人生で初めて授業をサボった。



「あははははっ! あんたって、ほんっとーにいいとこの坊っちゃんなのね!」
 ひとりじゃ抱えきれず、ターシャに胸の内を語ったのだが、豪快に笑い飛ばされてしまった。

「笑わないで……。……僕、これまで瘴気が人を食うなんて、知らなかったんだ。世界的に論文が公開されていたのに、知ろうともしなかったんだ……」
「いっつも一番前で講義受けてるからキレイな顔の割に真面目だなぁって思ってたけど、落ち込み方まで真面目なのね。うーん、興味深いわ」
 ターシャがまるで小さな弟にでもするように僕の髪をかき混ぜた。完全に子供扱いだが、見た目が十三歳だから仕方もない。


「……僕はね、幸せになりたいんだ。でも、さっきの講義を聞いて、僕だけが幸せになるのに罪悪感を覚えたというか……」
「ふーん? じゃあ、魔王の七つの置き土産をぶっ壊しにでも行く?」
 ターシャがにやにや笑っている。
 それをできもしないのに甘っちょろいこと言うな若造が、と笑顔の奥の目が雄弁と語っていた。


 ターシャの意図はそうだったのだろう。
 しかし僕は、ターシャの発想に感動していた。


「……そうか、そうだよ」
「んんん?」
「ターシャってやっぱり天才なんだね。そうだよ、が壊せばいいんだ!」

 僕は白魔導士と僧侶の魔法を全て使える。
 精霊は白魔法を愛するが、魔の者は白魔法を嫌うので、守りは堅牢だ。

 ならば優秀なアタッカーがいてくれれば、能力を上げに上げまくって、魔王の七つの置き土産も壊せるのではないだろうか、と――。


「……あの、レイチェルくん? 今、僕たちって言わなかった?」
「そうじゃないの? だって君が聞いたんじゃない。『ぶっ壊しにでも行く?』って」
「あんた、案外いい性格してるわね……」
 ターシャが頬をひくつかせ、片眉を上げた。
 当然、断られた。


 そこから毎日ターシャを口説き続け、ついでに白魔法の実力を見せつけ、一ヶ月後ようやく根負けしたターシャを仲間に引き入れた。

 ターシャは二十二歳で黒魔法の素質を見出された、天才黒魔導士。現在の年齢は非公開。
 基本的に魔法の才能は十代で開花するが、ターシャは二十を超えて開花した珍しいパターンだ。
 魔法のセンスも抜群に良く、授業の実戦で魔物の群れを駆逐した実績もある。しかも単騎で。


 こうして僕たちは大学で講義を受けながら、仲間を探し始めた。
 英雄になっちゃったら後がダルい、とターシャが言ったので、地位と名声を欲しがるタイプは除外。
 あと、頑張り過ぎると崩れるからほどほどに行きましょ、と釘を刺された。

  
 そしてターシャが連れてきたのが、大学の二学年先輩であり魔弓を射たせれば百発百中と名高いアーチャー・マリーヌだった。
 マリーヌは歳も僕よりふたつ上の十五歳で、隣国の出身らしい。 

「初めまして。僕はレイチェルです」
「……は、初め、まして」
 手を差し出して挨拶してみたのだけれど、マリーヌは顔を真っ赤にしてターシャの後ろに隠れてしまった。

「この子は男が苦手でね。でも、レイチェルならいけると思ったのよー。アタシったら人を見る才まであるのかしら!」
「ターシャ、何言ってるの? 全然いけてないと思うけど」
 ターシャの後ろからこっそり様子を伺うマリーヌのどこをどう見て、僕なら平気と思ったのか。
 むしろターシャは見る目がないのではないかと疑ってしまう。

「はあ、あんたって本当に坊ちゃんね……」
 ターシャがため息をつき、また僕を坊っちゃん扱いした。解せない。



 それから大学を卒業するまでパーティメンバーは増えなかったが、卒業後出立した七つの置き土産破壊&瘴気浄化の旅(無理厳禁)の道中で、女騎士のマーガレットとシーフのアリスに会った。

 そのとき、僕はもうじき十八歳。マーガレットとアリスは十七歳だったが、生まれ年は同じだった。

 二人は幼馴染で、十三歳で家出して以来ずっと一緒らしく、四年間でクエストを受けまくった結果最年少で特級ランクを取得できたのだという。
 二人の本懐は七つの置き土産の破壊であり、クエストにパーティを募集しても人が集まらなかったので、仲間を探しがてら旅に出ていたそうだ。

 同じ志を持つ仲間同士一緒に行かないか。
 と、誘ってみたが、顔を隠すほど警戒心の強いアリスにけんもほろろに断られてしまった。


「どうしてお前と行かなきゃならないんだ。行かない」
「ア、アリス……! 済まない、アリスはちょっと人見知りで……」
「私のことでマーガレットが謝らなくていい」
「ならば謝らないで済むようにしてくれ……!」
 アリスの毒舌にマーガレットがフォローを入れる。気の置けないかけあいを見ているだけで楽しいので仲間になって欲しかったけれど、断られてしまったら仕方ない。

 僕はすぐに諦めてしまったのだが、間に入ったターシャがアリスではなくマーガレットにさらっと交渉してみせた。

「んー。じゃ、今回はいいわ。また会ったら何かの縁ってことで仲間になってね」
「ああ、お気遣い感謝する」
「……会わないことを祈ってる」
「こら、アリス……!」
 去り際まで二人はその調子だった。
 ちなみにアリスの毒舌に怯えたマリーヌは、ずっとターシャの後ろに隠れて出てこなかった。


 そして僕は十八歳になり、七つの置き土産のひとつである魔遺跡が迫っているのに仲間が集まらず焦っていた。

 魔遺跡近くになると町も村もなく、今夜は魔遺跡近くの森での野営となった。
 バフも体力回復もお手の物なので、大した疲労もなく近付けているのが救いだが、味気ない食事が続いて口数が減っている。

 このままではターシャとマリーヌに大きな負担を強いてしまうだろう。僕が誘ったのに何たる体たらく。こんなことなら時の精霊に攻撃魔法も使えるようにしてもらえばよかった。


 僕は二人が眠りについたのを確認すると、野営地に隕石が降っても安全な魔法壁をかけ、夜の森へ入っていった。

 僕はたまにこうやって夜の森を散歩する。
 きっと僕は根暗というやつなのだ。たまに暗いところで一人にならなければ落ち着かない。
 隠遁の魔法をかけてあるので獣にも魔物にも見つからず、むしろこっちが見つけて観察する、までが夜の散歩セットである。


 今夜は満月で、月光に照らされた森の梢がところどころ銀色に染まっている。
 明るい分木陰が暗いので足元に気をつけながら歩いていると、すぐ近くから狼の遠吠えが聞こえた。
 
(狼は珍しい。見に行こう) 
 好奇心に駆られた僕は、声のした方へ足を進めていった。


 辿り着いたのは、木々の生えない岩場。
 その中で最も月に近い大きな岩の上に、思いもよらない声の主がいた。


 ――銀色の月の光に照らされ、哀しい声で吠える獣人の少女。


 どうして森の中にひとりでいるのか。
 どうしてそんなに哀しそうなのか。
 初めて会った君の哀しい声で、僕の胸が苦しくなるのはなぜなのか。

 少女の瞳は金色で、今夜の月明かりで見えなくなった星の光を集めたようだった。
 
 時間でいえば数秒、僕は彼女に見とれていた。
 自ら立ち去る気にもなれず、けれどもこのまま隠れて見ているのも申し訳なくて、僕は隠遁の魔法を解く。

 するとすぐに少女の耳がぴくぴくっと動き、しっぽがピンと立った。
 少女の顔が迷いなく僕の方を向き、金色の瞳を光らせた。

「……だれ?」

 この少女がユアンであり、後々僕を恋の愚者に仕立て上げた小悪魔との出逢いだった――。


 
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