黒髪に黒いカクテル

幻中六花

文字の大きさ
1 / 10

愛追う黒い髪

しおりを挟む
「はぁ……。つまらない……」

朝方、まだ目覚まし時計も鳴っていないのに、真亜子まあこは薄暗い部屋で目を覚ました。
 静かな部屋で、時計の秒針の音がかすかに聞こえる。
 非遮光性のカーテンがうっすらと晴れた空を映し出し、部屋の中に充満する濁った光をかき混ぜるように真亜子は上半身を起こした。

 背中まで覆う長くてストレートの黒髪が、真亜子の後を追ってくる。

 真亜子はよく眠れていなかった。
 浅い浅い眠りの中、眠っているのか起きているのかわからない状態のまま、瞼の外側が明るくなってきて、うんざりして身体を起こしたのだった。

 起きて第一声が『つまらない』だ。
 『眠れない』でも『もう朝か』でもなく、『つまらない』だったのには、理由がある。



 それは昨日のこと。
 会社の飲み会が開かれて、真亜子も出席していた。

 真亜子は社内にずっと想いを寄せている先輩がいた。
 新人の頃からいろいろと気にかけてくれて優しく接してくれる、真亜子の大好きな塩顔の、色素薄い系の顔をしている飯塚透悟とうごという先輩だった。
 年齢は真亜子のひとつ上だ。

 見た目だけでもタイプだったのに加え、優しく面倒を見てくれるものだから、真亜子はどんどん透悟に惹かれていった。

 片想いをしている間、真亜子は飲み会に必ず出席し、少しでも透悟にいい印象をつけられるように気の利く女を演じ続けた。

 本当の真亜子が気の利かない女というわけではなかったが、いつも以上に気を遣って透悟の印象に残れるように頑張った。実に健気けなげである。
 苦手な上司のグラスにお酒が入っていないことに真っ先に気づいたし、料理に手が届かない人用に小皿に取り分けて運んだりもした。
 自分は酔いすぎてハメを外さないよう、お酒の量もセーブして世話役に徹した。

 完璧な後輩を演出していたつもりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...