はっぱのないき

幻中六花

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またね

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 この大きな木には、春になるとたくさんのピンク色の花が咲くのです。とても良い香りがする、桜の花です。
「ぼくも、キミの友達だよ」
「そうだね。わたしの言葉を理解できるのはキミが初めてだ」
「でも、ぼくだけじゃなくて、もっとたーっくさんいるじゃん」
「私に? 友達が?」

 ユウトくんは、春のこの公園を思い出しながら言いました。
「春になったら、キミに、数えきれないくらいたくさんの花が咲くでしょ? それはみんなキミの友達! あんなにたくさんの友達がいて、羨ましいよ」

「あぁ、花のことか。春は賑やかだね。ずっと風に揺れてお喋りしてるんだ。でもね、花は寒くなったらいなくなってしまう。今のわたしのように、ひとりもいなくなってしまうんだよ」

 それでも、ユウトくんは羨ましいと思いました。ここで待っていれば、また春がきて、またお友達がたくさん咲いて、賑やかにお喋りをしてくれるのですから。

「でも、また春は必ずくるじゃない。日本はね、春が必ずきて、必ず桜が咲くんだよ」

 大きな木は、小学3年生がこのような考え方をすることに驚きました。

「えへへ。ぼく、友達がいないから、雨の日は家で本を読むんだ。この間花の図鑑を見てたら書いてた」
「そうか。そうだね。わたしはここから動くことができないけれど、待っていればまた春が来て、みんなが来てくれるんだね」

 ユウトくんが、もう淋しくない? と問いかけると、大きな木は大きく頷くようにユサッと揺れました。

「よかった! 実は……ぼくとは今日でお別れなんだ」
「え?」
 予想していなかった言葉に、大きな木がまた驚きます。
「明日ね、引っ越しなんだって。もう一回、満開の桜を見たかったけど……」

 ユウトくんはこの日、日が暮れるまで砂場で遊びました。今日は砂遊びじゃなくて、大きな木の絵を描けばよかったな、と思いました。

 少し肌寒くなった頃、ユウトくんは立ち上がってお尻や手についた砂を払いました。
「帰るのかい?」
 大きな木が淋しそうに言うので、
「もう淋しくないって、さっき言ったじゃん!」
と笑いました。すると、大きな木もユサユサと揺れて笑いました。

「今日、砂遊びじゃなくて、キミの絵を描けばよかったなって考えてたんだ。ぼくカメラ持ってないから。大きくなってカメラ買ったら、キミが友達に囲まれて笑ってるところを撮りに来るよ! それまで絶対元気でね!」
 大きな木は、待ってるよ、と答えました。

 さっきまでサッカーをしていたクラスメイトは、いつの間にかいなくなっていました。日が暮れて、公園の灯りが照らす大きな木に、ユウトくんは抱きついて、
「またね」
と言っておうちへ帰りました。
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